コハクとヒスイ(2)
地面に倒れこむヒスイの体。
コハクはそれを慌てて抱える。
「ヒスイ!」
胸に突き刺さった剣は、ヒスイの手が離れた瞬間光りに変わった。
少しずつヒスイの胸から血が流れ出す。
「ヒスイ! 何で!」
痛みに耐えながら、ヒスイは、微笑みかけた。その微笑みは今までの顔からは想像もつかないほど穏やかなものだった。
「コハク……私……バカだった。本当にごめんね」
「ヒスイ! 喋るな! 今血を止めるから!」
そういって、包帯を取りに行こうとしたコハクの腕をヒスイの手が握り締める。
「待って。もう良い。願いが叶ったから。それで十分」
「願いが叶った? どういうことだよ! 死ぬことが願いだったのか!?」
「違うよ……。私が死ねば、私は五人の守り主を殺したことになる……これで家族を救える」
「何言ってるんだ! どういうことだよ!」
「男の持ちかけたゲームなのよ。五人の守り主を殺せば家族全員を生き返らせてくれるって……また幸せな生活に戻してくれるって。やっと願いが叶ったの……」
徐々にヒスイの体は光りに変わっていた。さっきソウヤがそうであったように。この世界における死とはこういうことなのだ。
「ホントにバカだったよね。私。コハクが偽者なんかじゃないって気が付かなかったなんて……。あの時気がつけばよかった。それなのに今頃気がついて」
ヒスイの手がコハクの頭に伸びる。
そのままその顔を自分の顔に引き寄せた。
触れ合う唇。
そのまま、すこし距離を離して、ヒスイが微笑みかけた。
「私ね。コハクのこと大好きだった。ずっとずっと前から大好きだったよ」
零れ落ちる涙。
「本当に……」
──大好き
そう言って彼女はこの世界から消えた。
「ヒスイ!!!!」
力の限り叫ぶコハク。だが、その声がヒスイに届くことは無かった。
…
ヒスイがいた場所には、一つの指輪が落ちていた。それはマオが集めるべき最後の指輪、黄龍の指輪だ。
「おめでとう、マオ。ゲームクリアだ」
突然。後ろから男の声がした。振り返ると、そこにはコート姿の男。コハクに朱雀の指輪を託した男だった。
「いや……こんな形でゲームをクリアするとは。ヒスイの行動には驚いた」
男は、驚いたと言いつつも、まったくそんなそぶりを見せない。
「どういうことなんだ。なんぜヒスイは死んだ!?」
男に悲しみをぶつけるコハク。
「……。マオが命を手に入れる条件は五つの指輪を集めること。そしてヒスイが命を手に入れる条件は指輪の守り主を五名殺害すること」
「どういうことだ……」
「私は彼女にこういった。守り主の一人は、大事な人の偽者だと。そう君のことだ。君を偽者だと言われた彼女は、君を殺す決心をした。そうしなければ五人を殺すという条件は達成できないはずだったがが──五人目、即ち自分を殺すことによって、君を殺すことの代わりとした。最後の最後で君が偽者なんかじゃないと気がついたんだ」
「そんな……」
「これで彼女の家族は救われ、マオも救われた。二人の願いが叶ったのだ」
「ふざけるな!」
コハクは、状況の全てが理解できたわけではなかった。それでも。ヒスイを死に追いやったのは間違いなくこいつだということはわかった。
コハクが男に殴りかかろうとした瞬間、何も見えなくなった。
気がつけばそこは壊れた世界では無く、コハクたちの世界(現世)だった。




