6月8日 玄武の守り主
「さて、玄武の守り主だが」
ソウヤがコーヒーカップを手にしながら話し出す。
「まず、敵は二人組だ」
「二人組?」
「ああ。二人とも剣士なんだが、まず指輪を持っている方。これは純粋に剣士として強い。そしてもう一人は、剣士としての腕前は大したこと無いが、瞬間移動が出来る」
「瞬間移動……ですか?」
「そうだ。これが厄介で、斬り付けても、既にそこにはいない。決して攻撃が中らない」
「それじゃ勝ち目ないじゃないですか」
「いや。指輪を持っている奴はもう一人のほうなんだ。だからコハクとマオで瞬間移動剣士を足止めしてくれれば、その間に守り主をオレが倒す」
「時間稼ぎ……」
「十分持ちこたえれくれればそれで良い。とにかく集中して敵の攻撃を避けることだけ考えろ。いいな」
…
玄武の守り主がいるのは隣町の大ホールらしい。寝倉からは大体十分程度の距離で、コハクも元居た世界で行ったことがある場所だ。
ホールが見えてくると、先頭を歩いていたソウヤが立ち止まった。
「不意打ちは無いとは思うが、一応、臨戦態勢を整えておいたほうがいい」
そういわれてマオは杖を、コハクは剣を引き抜いた。
ホールまでの階段を登りきる。後二十メートルで入り口というところまで来た時。
ホールから出てきた二つの影に気がつく。
「あれが……」
男と少女。男の方はコートのフードをすっぽり被っていて顔が見えない。少女の方は制服を着ていて、今時の女子高生のようだった。
「男が守り主、女が瞬間移動する奴だ」
ソウヤが二人に歩み寄っていく。
「手筈は分かってるな?」
「……はい」
次の瞬間にはソウヤの手に剣が握られた。
「玄武の守り主よ。そっちの女の相手はこいつ等。お前の相手はオレだ」
「……良いだろう」
次の瞬間男が駆け出す。
「じゃぁ、あんた達はこっちね〜」
そういってホールの中に姿を消す少女。
「マオ、追いかけよう」
「うん」
既にソウヤと男の戦いは始まっていた。
…
ホールに入ると、少女は入り口から十メートル程の場所で剣を構えていた。
「まずは小手調べ!」
マオは杖を少女に向けて叫んだ。
快速の槍となって敵に向かっていく炎。だが少女はそれを避けようともしなかった。
だが。炎槍が中る直前。少女の体が消え、その右に五メートル程離れた場所に姿を現した。
「何だ……アレ」
てっきり煙でも出るのカと思ってたが、本当に一瞬で移動してしまった。
コハクは剣を構えて少女に向かって駆け出す。
またもその場から動く気配が無い少女。コハクは少女に向かって剣を振りかざした。
だが、剣と少女の距離があと数センチというところで、またも少女が消え、今度は数メートル後ろに現れた。
「どうなってんだ……」
「残念でしたー。そんなんじゃ中らないよ?」
もう一度追撃するために数歩踏み出した時。またも少女の姿が消える。
次の瞬間、後ろに気配を感じ、とっさに剣を振りかざす。金属の衝突音。
「あー惜しいな」
そういって少女はすこし離れたところに転移した。
完全に翻弄されていた。攻撃は避けられ、危うく後ろから斬られるところだった。
次の瞬間。横から剣が飛んで来る。それをギリギリ弾き、カウンターの一太刀を振るうも、次の瞬間には少女は転移。と、転移して現れた先にすぐさまマオが炎槍を放つ。だが、転移で避けれられる。
「そうしたの? 動く的は苦手〜?」
そんな風に挑発してくる少女。
完全に手が出せない。これじゃ無敵じゃないか。
「コハク! 攻撃を続けて!」
「え?」
いくら攻撃を続けても、攻撃が中るとは思えない。
だが、他に策があるわけでもない。マオにはなにか考えがあるのかもしれない。 剣を握りなおす。
少女との距離は五メートル程。その差を一秒で詰める。
剣は空を斬る。
少女は瞬時に数メートル後ろに現れた。
「コハク! 追撃して!」
言われるままに、走り出す。間合いを詰め、瞬間移動され、また間合いを詰める。それを十回程繰り返した。
「そんなに動いて大丈夫? 疲れてきたんじゃない?」
甘い声でそう語りかける少女。
確かに、コハクの息はすこしずつ上がって来ている。
「blaze!」
動きを止めてコハクに、マオが変わって攻撃を続行した。だが、たとえ快速の炎槍であっても、その発動を認知された時点で中る確立は無くなる。
「blaze!」
次の攻撃。無論、瞬間移動でかわす。だが。今までとはすこし違った。一度、数メートル後方に現れ、こんどはもう一度、数メートル右に現れたのだ。
もし最初みたいに後ろに移動したままなら、炎槍はまっすぐ飛ぶので中っていただろう。
「やっぱりね」
マオがそう呟いた。
「どういうこと?」
「こういうことよ!」
もう一度炎槍を飛ばすマオ。
無論避けられるが、
「blaze!」
続けざまに放つ。それも避けられる筈だった。だが、それは少女の中った。といっても咄嗟に構えた剣で無力化されてしまったが。
「……中った?」
「どうする? まだ続ける?」
マオがそう問いかける。
すうと、少女は剣を投げ捨てて両手を上げた。
「こーさんしますよー」
「……どういうこと?」
さっきまで自信たっぷりだった少女があっさり降参したのだ。驚くほか無い。
「もうあいつの瞬間移動は無意味だわ。だって彼女が瞬間移動できる場所には規則性があるんだから」
「規則性?」
「そう。彼女の瞬間移動する方向と距離は決まってるのよ。後ろ、右、後ろ、右って交互に移動してるの。距離も皆一緒。だから、先回りして攻撃すれば必ず攻撃は中るってわけ」
「つまり……これ以上続けても少女に勝ち目は無いってことか」
「そういうこと」
「最初にね、あのコートの男に言われた。『これはゲームだから勝てない敵はいない』って。だから、男はそれぞれの相手に必ず弱点を用意してるのよ」
「なるほど……って、ソウヤがまだ戦ってる!」
それに気がついて、勢い良くドームを飛び出した。
…
ドームの外。
そこには、剣を握り締めたソウヤがただ佇んでいた。
地面には一つの指輪。それが『玄武の指輪』であることは予想がつく。
「ソウヤ! 無事!?」
駆け寄ると、ソウヤは「ああ」と下を向いたまま答えた。
「……ソウヤ?」
その表情は表現しがたいものだった。だが、それは間違いなく悲しみのものだった。
ソウヤが指輪を拾い上げる。
それを一度に握り締めてから、マオに差し出した。
「……ありがとう」
そういってマオは指輪を受け取った。
「それとな。青龍の指輪の能力は『結界の展開』、玄武の指輪の能力は『魔力量の増加』だ」
「ソウヤさん? どうか……したんですか?」
「……」
しばらくの無言。
その後、「いや」とだけ答えた。
…
集めなければならない指輪は後一つ。ソウヤがいる限り負ける心配はしなくて良い。それぐらいにソウヤは強い。
だから、一番の問題は指輪集めではなく、ヒスイのことだった。
何故俺を襲ってきたのか。
それだけが気がかりだった。
ちょっと解説を。
ソウヤですが、玄武の守り主との戦い、このシーンは今章では描写しませんでした。
というのも、この戦いにはちょっとした裏を用意しています。
いつか、その辺を番外編として書きたいと思っていたり。
では、これからもこの作品をよろしくお願いします。




