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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
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第5詩・堕ちる光

(2025/04/18追記)文章の情報量を追加しました。


 アメリトリア王国からグラン=シルウァロードの道中、時人とレヴィはアストラ広場で小休憩を挟むことにした。


 アストラ広場はアメリトリアではもはや数少ない賑わいを見せる場所だ。円形の噴水の中央では、天を仰ぐような翼を広げた鷲と、美しい女神像が建てられている。その足元には赤ん坊のような天使と人間の彫像が添えられており、人と信仰を象徴する意図が見える。


 周囲には色とりどりの露店がずらりと並び、香ばしい焼き菓子や、異国風のスパイスが鼻をくすぐる。冷たい飲み物を売る屋台の前では人々が列をつくり、片手にカップを持ちながら噴水の縁に腰を下ろして笑い声をあげていた。


 地面は光沢のある石材で整えられており、円形の紋章のような模様が刻まれている。時折、その模様が微かに光を放つのを見た。


「これは…」


「ここも以前は壊れてた場所なの。再構築する際に魔術を使用したから、その形跡だわ? 一定の魔力がないと見えないらしいんだけど、トキトには見えるようね。あ、あっちのベンチで座りましょ」


「あ、ああ、うん……」


 レヴィに手を引かれながら、改めて足元で光を放つ地面を見る。


(魔術とか魔力とかよくわかんないけど……)


 天井のない開けた空間に響く人々の話し声、子どもの笑い声、楽器の音、頬に優しく触れる風の音。そして、時おりネ=コ車が「ン゛ニ゛ャ゛ア゛」と通りすがる声までもが、どこか調和している。そんな光景を見ていると、なんとなく疑問を言葉にする気にはなれなかった。


「……平和って感じだ…………」


 そんなことを呟きながら、レヴィと共にベンチに腰を下ろした。横でレヴィがクスッと笑いをこぼす。


「ずっとこの平和が続けば良いのにね」


 その言葉を聞いて、ふと思い出す。

 今の平和があるのは英雄アンリ・ユーストゥスが戦争を止めてくれたおかげだという話だ。周辺には建物が多いが、建物自体は低い。どれもせいぜい二階建てだ。先程ネ=コ車から見たあの監獄は見えないかと周囲を見渡す。

 すると監獄とは別に、大きな建造物の塔屋が視界に入った。もしかすればリバティ城くらい大きい建造物だ。


(あれ、なんの建物だ……?)


「そうだ、トキト」


 レヴィに呼ばれ、振り返る。


「喉渇いたんじゃない? アタシ屋台で飲み物買ってくるわ。トキトはここで待ってて……あ、飲めないものとか、ある?」


「いや……この身体の味覚がわからないからなんでも大丈夫だよ。ありがとう」


 ふふ、とレヴィは笑うと、レモネードのような絵の描かれた屋台の方へ軽く走っていった。その後ろ姿を見つめていると、とん、と横腹にボールがぶつかってきた。子ども用の柔らかいボールだ。


「うおっと、ビックリした……」


 ぶつかって落ちそうになったボールを拾うと目の前に5歳くらいの小さな男の子が走ってきた。


「あ、あぅ、ごめんなちゃい……」


「オレは大丈夫だよ。はい、ボール」


 時人は優しい声色で柔らなボールを男の子に渡す。男の子は暗い顔でボールを受けとると軽くお辞儀をする。良い子だな、と時人は感心した。だがボールを取りに来た男の子以外に、こちらに注目している子どもや大人がいないことに気が付いた。


「……一人で遊んでる? お母さんは?」


「…………ママはおしごと。ちかいから、ひとりできたの」


 男の子は暗い顔のまま俯いた。


「そっか……」


 こんな賑やかな広場で子どもが一人、本人がそれを寂しいと思っているかは時人には判断できないが、それでも──


「……お兄ちゃんが一緒に遊ぼうか?」


 ──幼い頃。

 早朝、目を覚ましてリビングに向かうと外から聞き覚えのある人の、賑やかな声が聞こえた。大きな窓のカーテンを少し開けると両親と姉が車に乗る姿を見たのを、時人は覚えている。そのとき自分がどうしたかは記憶していない。時人は昔の自分と男の子を重ね合わせ、心境を想う。

 きっと誰もが、一人でいるのは寂しい、と。


 案の定、時人の言葉をきいた男の子の表情は少しばかり、明るくなる。


「ほんと?」


「ああ。長い時間はちょっと難しいけど……キミのお名前を聞いても良い? オレは時人っていうんだ」


 時人はフードを軽くあげながら立ち上がる。本来ならレヴィとグラン=シルウァロードへ向かわないといけない道中だが、子どもと遊ぶくらいならレヴィもきっと許してくれるだろうと考えた。

 男の子は「ぼくはリデレ!」と時人の顔を見上げながら、明るい表情で名乗った。


「リデレくんか。よろし……ん、どうした?」


 リデレは見上げていた。時人の顔を見上げていたが、その視線は時人から外れており、表情は疑問の顔に変わっていた。


「ねえ、いまおそらがひかった」


 リデレがそう言って時人の上を指差す。それに合わせて時人が顔をあげたその時、一直線に空から光が落ちてきた。


***


「なあアシエル。どうにか人間界のアフリカあたりに降ろしてもらえないか?」


 衛星・天界での会合終了後。天界の管制室と繋がった、地球を見下ろせる大きな泉のある部屋がある。その部屋は天界と地上の行き来ができる場所の一つで、今はアシエルが管理していた。

 アシエルは天使の会合でベリアルに舌打ちをしていた男だが、ここでも彼は聞こえるように舌打ちをする。


「我に気安い態度をとるな、ルシフェルの犬め」


 如何にもといった態度で卑下するアシエルだが、グザファンは爽やかな笑顔を返した。


「犬ほど愛されてはないなあ。アイツにとって俺は使い捨ての駒にすぎないよ」


「ふん。下級天使なのだから当然だ。そして当然、降りるのは不許可だ」


「そこをなんとかしてくれよ。イフリートの勧誘を任されてる」


「誰に」


 アシエルは金色の山羊のような瞳でグザファンを鋭く睨み付ける。それにもグザファンは笑顔をみせ、「俺の勘に」と軽く答えた。アシエルは溜め息をつけないほどの呆れた表情を見せる。


「飼い主が重度の馬鹿だと、犬も重度の馬鹿になるものだな」


「そんなこと言うなって」


 あと俺の場合 犬より鷹だ、と謎の訂正を付け加え、


「少しでも魔界や人間界に残った悪魔を引き上げるのは大事なことなんだろ? 新たな父上が神であるためにはもっと認知されないといけないって話だったはずだ。それにイフリートは炎使いで俺は最高に相性がいい。喧嘩にならないからな。それともアシエルが行くか? 砂漠の王だろ」


 と、中々引かないどころか仲間集めに誘われたアシエルはいつも以上に眉間にシワを寄せた。そろそろ限界の様子だ。


「重度の馬鹿は身も弁えられぬか。貴様のような下級天使に何ができる。不許可だ。断じて不許可だ。さっさとここから立ち去れ。貴様はベリアルの見張りでもしているのがお似合」


「ん? おいアレを見ろアシエル」


「話を聞け貴様っ────なに?」


 グザファンは泉の底を指し示す。アシエルは怒りながらも横目にそれを見て、顔を青ざめた。

 長い沈黙が続き、人の地に見覚えのある姿の名をようやく口にする。


「……………………ベリアル?」


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