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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
7/47

第4詩・レッツゴー!ネ=コ車!

(2025/04/18追記)文章の情報量を追加しました。


 外は澄んだ空気と、綺麗な青空。リバティ城の周りには高い壁があるものの土地そのものが高いせいか、壁の隙間から街並みが見えた。


「わあ……」


 息を呑む。日本の都心では見られないどこか自然で回顧的な光景。ほんの少し上から見ただけでは戦争をしていたなんて信じられないほどそれは心を穏やかにするものだった。

 一方レヴィは風景を気にせずキョロキョロと誰かを捜すような仕草をする。視線の先で見つけたのは二人の使用人だ。レヴィは女性の方へ声をかけた。


「すみません。馬車をお借りしたいのですが……」


「ああっ、申し訳ございません。実はさっき出てしまって……」


 女性が説明する最中、横から男性の使用人が「はん、飛んで行けよ」と口を出す。レヴィはムッと頬を膨らまし、女性は慌てた様子で宥めた。


「ぶ、無礼よ、ザッハーク様に聞かれてたらどうするの」


「人間に手出しなんて出来ねぇさ。アンリ様が守ってくださる」


 くくく、と嫌な笑いを溢しながら男性は立ち去っていった。女性の使用人は困った顔をしつつも、すぐに笑みを浮かべる。


「誠に申し訳ございません。馬はありませんが代わりにネ=コで如何でしょう? そちらであればすぐに用意出来ますし、運転手も必要ございません」


「……わかりました。ネ=コ車でお願いします」


「承知致しました。暫しお待ちを」


 女性の使用人は軽くお辞儀をし急ぎ足で立ち去った。時人は眉を顰めながらレヴィの横へゆっくりと並ぶ。先ほどの男性の態度も気になったが、それ以上に確認したいことがあった。


「……猫車(ネコシャ)?」


 馬の代わりに猫。聞き間違いではないかとレヴィに確認をとる。


「そうよ。馬よりちょっと大きいけど温厚なネ=コだから心配しないで」


「馬より大き──」


 またもや聞き間違いか? と確認をとる言葉はドスのきいた音に遮られた。


 ン゛ニ゛ャ゛ア゛ア゛、と声が鳴り響く。


挿絵(By みてみん)


 現れたのは白い生き物。

 馬車でいう屋形を引っ張りながら2匹の白いふにゃっとしたなにかが時人達の前に現れた。

 尖った二つの耳。殴りたくなるような簡単な顔パーツ。大きな胴体。おまけのようにくっつかれた手足と尻尾。間接らしき部分は見当たらない。


「──なんだこの子どもの落書きみたいな猫!!!!!!」


 思わず大声でそう叫ぶ。けれどレヴィも女性の使用人も、ふふふっ、と声を出して微笑むだけだ。女性の使用人はネ=コと呼ばれる生き物を優しく撫でまわした。


「この子はネ=コ。普通の猫とは違って次元の穴からやってきたのですが、これがとても温厚でして……今では運搬やペットとしても重宝・愛好されているんですよ」


「つまり、魔獣のような何かよ。害はないから大丈夫」


 使用人とレヴィは満面の笑みで時人を見る。どうやらネ=コはこの世界ではすっかり浸透している生き物なようだった。


「魔獣のような何かって……」

(魔獣じゃん……?)


 恐る恐る、手を近付ける。触れてみるとそれはまるでマシュマロのような触感だった。


「う、うわ……まじか……」


 生暖かい。確かに生き物で、ここに存在している。デイヴィッドの話が更に現実を帯びてきた。


(実物の馬を見る前にとんでもない生き物を見てしまった……)


 複雑な気持ちになりながら、押されるようにレヴィと共にネ=コ車の屋形へと乗り込んだ。


「シルウァロード……グラン=シルウァロードまでお願いね」


 レヴィはネ=コにそう伝えると、ネ=コはまたしてもドスのきいた鳴き声を出しては、そのまま歩き出した。あまり揺れは感じないが、それ以上に鳴き声が気になる。


(……今のは返事か?)


「トキト。ネ=コは結構はやいけど…数時間かかるから途中街を降りて休憩しましょ」


「ああ、うん。ありがとう」

(結構長旅になりそうだな……)


 馬車……もといネ=コ車での移動には当然距離感なんてピンと来ないが、そもそも時人にとって移動手段はバスや電車が当たり前で、その上乗り物で数時間もかかる場所へは早々行かない。思えば自分は遠出など家を出た時以外してないんだと、美しい街並みを見ながら少し悲しい気持ちになった。


(でもこれはこれで、誰よりも遠出をしているのかも)

「……あ、今のところ……」


 一瞬見えたそれは、穴だ。

 家が続いていた中で突然穴が見えた。それを埋めているのか、作業員と思われる大人達がスコップ等をもちながら穴を出入りしている。


「今のは流れ弾の痕ね。まだ全部は埋め終わってないの。それどころか人が住めなくなった地域はそのままよ」


 そんなことをレヴィが横で言った。


(あれが、流れ弾で空いた穴)


 本来はもっと深く破壊的な穴だったに違いない。それが、ただの流れ弾なのだ。空から降ってきたという光と闇で、街のなかにあんな穴が出来上がってしまった。


(……じゃあその時、あの周辺にいた人は…………)


 想像はそこで止めた。デイヴィッドの話が現実味どころか恐怖を帯びてきたからだ。不安な表情をする時人の横で、レヴィは突然明るい声を上けた。


「見てあの大きな建物! ここからでもよく見えるでしょ?」


 レヴィの差した方向を見る。遠目だが確かに巨大な円形の建物が見えた。


「さっきデイヴィッド国王が話していたでしょう。戦争を止めた英雄のアンリ様のこと! あの方は普段あそこで働いてるのよ」


「アンリ様……そう、なのか。何の建物?」


「監獄よ」


「かんっ……」


 思いもしなかった発言に思わず振り向く。レヴィはそのまま説明を続けた。


「あそこには子どもしかいないけれど、アンリ様はそこの看守なの。ほとんど孤児院のようになってるわ」


「子どもって……そうか、この国だと未成年でも捕まるのか」


「……そう。戦争後は生活が苦しかったせいか、なんだか子どもの犯罪も増えちゃったみたいで……でもアンリ様はお優しい方だから、きっと子ども達を正しい方向へ導いてくださるわ」


 そう言ったレヴィの瞳は尊敬に満ちていた。


 アンリ・ユーストゥス。

 戦争を終わらせた英雄であり看守──


(一体、どんな人なんだろう……レヴィがこう言うくらいだ。きっと、聖人のような人なんだろうか……)



 約、1時間半を過ぎた頃。「さすがに痛くなってきたかも……」と時人が自身の背中をさするように弱音を吐いた。レヴィはなんともなさそうなので言い出しづらかったが、思えば今は知らない人の体、ここは素直に言っておいたほうがいいと判断した。


「そうね、すぐそこが広場だから。噴水の近くで休憩しましょ。ネ=コちゃん、止まってくれる?」


 屋形の中からレヴィがそう言うと、ネ=コはまたあの鳴き声を出しながらゆっくりと街の歩道(と思われる)近くで足を止めた。


(言葉がちゃんと伝わってるの、逆に怖いな)


「ほら、トキト」


 ネ=コ車から降りたレヴィは時人へ手を差しのばし、時人はそのままレヴィの手を取った。


(ま、まるで王子様だな……)


 金髪碧眼の美しい女性に手を引かれ、複雑な気持ちになりつつ屋形から降りる。もやもやと気恥ずかしそうにする時人とは逆にレヴィは気にも留めずネ=コへ声をかけた。


「ありがとう。ちゃんと戻ってくるから良い子にしててね。知らない人を乗せてどっか行ったらダメよ?」


(これはお姉さんって感じだ……)


 つい笑みが浮かぶ。本来年下であろう少女の姿が今はとても頼もしく思えた。


「しっかし……こんな目立つ猫で来たのに誰も気にしてないな……」


 ネ=コは特別、視線を集めてはいない。強いて言えば子どもが触りたそうに見ているだけで、その様子はこの生き物がすっかりこの街に馴染んでいるのが時人にもよく理解できた。そんな中、先ほどまで自然体で頼もしかったレヴィが突如慌てた声を出す。


「ああっそうだ! トキトっ。フードフード!」


 レヴィはネ=コ車からフードのついたロープを取り出しては時人に羽織らせた。


「ん? なんで?」


「だっ、だってトキト……有名人だから……」


 レヴィは時人の耳元に近づき、小声でそう言うと近くの屋台の壁を指差した。そこには時人の(身体の)寝顔写真が貼り付けられていたのだ。

 時人はすぐにフードを目元まで被る。


(蔵井さんモード! ……ハッ! この袖じゃ萌え袖は無理か……いやいや、したいわけじゃないけど……)


 悪目立ちしそうだし、と思ってから心の中で蔵井に謝罪する。


「ふふ。トキト、もうちょっと自然体でも大丈夫よ。起きた事はまだ報道されてないからすぐには気付かれないと思うわ」


「そ、そうかな」


 照れくさそうにフードを少し目上にあげる。広場の賑やかな空気と新たな世界が時人を迎え入れるように、澄んだ空がよく見えた。

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