カルバス Ⅱ
「クソ野郎が!」
「畜生、なんでこんな奴をおれは賢王だなんて……」
「ライム様、申し訳ありません!」
怒りが爆発して騒ぎ始める民衆。
「何故だ!貴様ら何も分かってない!この私がいたからこそ、この国は守られてきたんだぞ!」
そしてその民衆の怒りに油を注ぐ愚王。
その姿に俺、カルバスはもうサーゼルが国王になることはないことを悟る。
おそらく彼も彼の息子ももう王族となることはないだろう。
それだけのことを彼らは行って、そして今も積み重ねていっている。
「本当に馬鹿が……」
そしてその姿を見ていた俺の口から思わずサーゼルへの嘲りが漏れる。
それはサーゼルへの怒りが理由で漏れた言葉ではなく、サーゼルの愚かしさに自然と漏れ出た言葉だった。
おそらくもうこれでサーゼルがライムに関わることはできなくなるだろう。
そしてもう俺たちの生活を脅かすものはいない。
これでもう俺は勘弁するべきなのかもしれない、そんな考えが俺の頭に過ぎる。
「もう2つ。こいつには許すことのできない罪がある」
だが俺はその選択肢を選ばなかった。
「っ!ま、待ってくれ!」
俺の言葉に今まで一切反省した様子を見せようともせず喚き散らしていたサーゼルの顔に衝撃が走る。
「なっ!」
しかし、その訴えを俺は笑って無視した。
「こいつは俺、この英雄を最後くだらない嫉妬心で魔族の世界へと送った……」
今まで散々サーゼルを罵っていた民衆さえもその事実に言葉を止める中、俺はサーゼルの罪を告白する。
「俺が行方不明になった、その犯人だ」
次の瞬間、一拍おいてその場に民衆達の怒りの声が響き渡った……
◇◆◇
「巫山戯るな!この恩知らず!」
「畜生!こいつが!」
今までの比でない怒りが民衆の間で爆発してそして国王は顔をひきつらせる。
だがその顔に浮かんでいたのはどうやってこの場を誤魔化そうか、それだけでそれがさらに民衆の怒りを激しくする。
ー これであいつはおそらく処刑されるだろう。
そしてそんな眺めを俺は冷めた目つきで眺めていた。
焦燥に顔を青くするサーゼルの姿、それは酷く胸がすく光景だった。
俺の頭に魔界、つまり魔族の住む世界へと送られた時の光景が蘇る。
何度死ぬと思い、そして何度自ら命を絶とうと思ったか自分でも分からない。
その地獄へと自分を追いやったのが、サーゼルだった。
その姿に、今すぐ殺してやりたいそう思うほどの憎しみが俺の内に蘇る。
魔界に入った当初何度も、何度も、何度もサーゼルへと抱いたその感情。
「だけど、その憎しみなんて魔界ではなんの意味も無かったんだよ」
俺を殺そうとする魔族から向けられる憎しみ、それは本当に勝手なものだった。
自分から攻めてきて、そして死んだ。
そんな奴らが復讐だなんて叫んだところで、巫山戯るなとしか言えない。
彼らの憎しみなど、そんな程度のものだった。
軽くて、酷く薄っぺらいそんな程度のもの。
だが、彼らから憎しみを向けられ殺していく内に俺の中でも憎しみが薄っぺらく感じるようになっていた。
俺にとって、憎しみとはその程度のものに成り下がっていた。
そしてだからこそ、俺は魔界での生きる活力を失いかけた。
自分に力を込めるには憎しみはあまりにも軽いものになってしまっていたから。
そして、その時に俺の生きる理由となったのがこの世界に残してきたライムだった。
魔界の片隅で、元の世界に戻る方法もわからず、生きようとする気力も湧かず、そのまま命を終えようとしていた俺の頭に浮かんだ1人の女性の姿。
そのライムの姿に、俺は何としてでもこの世界に戻ることを決意した。
彼女を守ると。
もう戻ったら彼女を泣かせないと。
もう一度自分に心を取り戻してくれた彼女の姿に涙を流しながら決意した。
「そしてもう1つ」
「なっ!」
ーーー そしてだからこそ、ライムを少しでも傷つける可能性のあるサーゼルを許すつもりは俺には無かった。
この真実を告げればサーゼルは命を落とすだろう。
それだけの真実。
確かにサーゼルは最低の人間だ。
だが本当に彼が必死に魔族と戦っていたのは本当だった。
だから俺はその時、許すと告げたその約束を破る。
「魔族が進行して来たきっかけ、それはこいつが元凶だ!」
その言葉に全員の怒りが、いや殺意がサーゼルに集まった……