スルハ
「ライムは誰も殺してはいない……全て私の作り話だ……」
そう告げるサーゼルには賢王、そう呼ばれていた時の様子はもう残っていなかった。
「なっ!」
そしてそのサーゼルの言葉に俺、スルハは言葉を失った。
「まじかよ!」
「でも!あの賢王が!」
「巫山戯るな!本人が認めてるんだぞ!」
俺の周りでも様々な人が騒ぎ出す。
その大半がサーゼルのことを咎めるような言葉だったが、それでも俺は信じることができなかった。
思い出すのは最悪の魔族が現れたあの地獄の日々。
そしてそれを救ってくれたあの国王がそんな冤罪をかけたことなど始め俺は信じることができなかった。
そう、例え英雄があられ貴族が国王を射殺さんばかりの目で睨んでいても。
だから俺は賢王がライム様を冤罪をかけたのにはちゃんと理由が存在すると信じる。
いや、祈っているというべきなのかもしれない。
「私はライムの身体が目的で、冤罪を被せ、婚約を破棄しようとした……」
「えっ?」
だが、次の瞬間その言葉に俺は絶句した。
そしてようやく俺は悟る。
サーゼルは本当に賢王でも何でも無かったことを。
賢王、それは俺が頭の中で作り上げたただそれだけの存在だったそのことを……
◇◆◇
「私は英雄が妬ましかった!」
そう叫ぶサーゼルの顔だけは義憤に燃えていた。
どうしようもない、世界の理不尽を嘆くかのようにそんな声の調子でサーゼルは叫ぶ。
「私だってもっと認められたかった!だから彼の婚約者を自分のものとすることを決めた!」
ーーー そう、あまりにも幼稚でどうしようもない犯行の理由を。
「はっ、巫山戯るなよ……」
そしてその時には俺も気づいていた。
サーゼルという目の前の男。
確かに彼は本当に整った見かけと人を惹きつける、そんな魅力を備えている。
だが、それだけでしかないことを。
英雄に憧れ、だから英雄が許せなかった。
そんなもの、あまりにも俺には理解できない理由だった。
それは決して英雄に憧れる気持ちが、ではない。
その気持ちもわかるし、だから他の人間を羨む気持ちが俺にないわけでもない。
だが、その為にサーゼルは最も非道な手を取った。
それも自身をも助けてくれたはずの英雄に対して。
「巫山戯るな!クソ野郎!」
そしてそのことに気づいた時俺は大声で叫んでいた。
今までの期待、それは決してサーゼルの所為だとは言わない。
だが、俺の中にあるどうしようもない気持ちが溢れその衝動を俺には耐えることができなかった。
「自惚れるな!」
「クズが!」
「ライム様!申し訳ありません!」
そして俺の一声が区切りとなり、民衆達が次々と怒りの声をあげる。
その時にはもう、サーゼルを賢王だとそう思い込んでいる人間など存在しなかった。
「なっ!」
サーゼルはその民衆の声に動揺を漏らす。
その態度はまるで自分が非難されると思っていなかった、そんな風に見えて民衆の怒りに油を注ぐ。
「巫山戯るな!」
だが、最終的にはサーゼルは耐えきれなくなったのかそう立ち上がった。
その瞳に浮かぶのは苛烈な怒り。
そして仮にも戦場を駆け抜けてきた人間の本気の激怒に一瞬、民衆達は言葉を失う。
「ライムも私のことを恋していることが分からないか!」
ーーー だが、サーゼルが口にした言葉はただの虚言だった。
「はぁ?」
そして次の瞬間その場いる全員が激怒した。
日刊ランキング総合3位にランクインさせて頂きました! これも全て読んで頂いた読者様のお陰です!本当にありがとうございます!
そして少し書きたいものが増えたので少しこの物語が長くなる予定です!