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クロウディス

私、貴族の当主の1人クロウディスは目の前で今更失言に気づき焦る国王を睨みつけた。

私の頭に娘、プリマを失った時の絶望が鮮鋭に蘇る。


ー すまない。今まで尽くしてきてくれたお前の忠義に私は報いることが出来なかった。お前の娘はライムに殺された。


それは娘を失い、そして必死に探し回っていた私を呼び出し国王が告げた言葉だった。

その時には私には一切余裕がなかった。

だがら日頃娘が疲れ切って帰ってくることと、そして失踪前の晩酷く憤慨していた態度を思い出し、あっさりとライムが犯人なのだと思い込んだ。


ー 国王様、いや、サーゼルにはお父様注意して下さいね。


冷静になれば、あの時娘が告げた言葉と私に娘が死んだと教えた時の国王の嘲笑にも似た笑みで不信感を抱くことが出来ただろう。


だが、その時の私にはそれだけのことを考えられなかった。


「待て!これは誤解だ!」


そしてもう既に引き返せない場面まで来ていながらもなお、そう誤魔化そうとする国王、いや、サーゼルの姿に私の胸に怒りが湧き出す。


それは今まで自分を騙していたサーゼルへの怒りと、そして今まで騙され気づくことのなかった愚かな自分への怒りだった。


「巫山戯るな!お前が!」


一瞬私は国王を殴り飛ばしてしまいそうになって、その激情を必死に堪える。

確かに国王は憎い。

今すぐ殺してやりたいほどだ。


だが、今一番許せなかったのは自分自身だった。


そしてこんな状況で国王を殴って仕舞えばそれは自分が許せなくなる。

父親失格、我ながらそう自分にそう告げたくなる。

私は自己嫌悪を感じながら他の貴族に国王に問い詰めて欲しいと言おうとして、そして振り向き言葉を失った。


「っ!」


「すまない……今の私達の中で怒りを堪えられるのは貴方だけだ……」


そしてその気持ちは他の全員一緒であったことを知る。


「分かった」


だがら私はただそれだけを告げてそう頷いた。

今彼らがなにを望んでいるか、それを私は口にするまでもなく痛い程分かっていたから。


「さぁ、話してもらおう!全て!お前が何をしようとしたか!その全部を!」


そして私はサーゼルへと向けて、そう叫んだ……





◇◆◇



 


「違う!誤解だ!」


サーゼルは私が何度尋ねてもそれでも口を割ろうとすることはなかった。

もう既に民衆の殆どはサーゼルがライムをはめようとした、そのことを気づいているのにも関わらず。

そして唯一賢王と呼ばれていたサーゼルの姿に憧れを抱いていたものだけが現実逃避気味にサーゼルの無実を望んでいたが、それもサーゼルの態度にどんどん減ってゆく。


「いい加減にしろ!」


そしてその態度にいつの間にか私はさらに苛立ちが溜まってくるのを感じていた。

自分が目の前の男を賢王と慕っていた頃は今ではもう既に黒歴史だ。


「巫山戯るな!賢王など、英雄様が戻ってきた今そんな称号に意味はない!」


そして爆発寸前の私が、そうサーゼルに吐き捨てた時、


「っ!」


その時サーゼルの目に怒りの色が宿った。


「口が過ぎるぞ、貴様!たかが貴族の癖にぃ!」


「なっ!」


私は今からサーゼルが激昂することがあるとは思っておらず思わず驚く。


「お前の娘が如何した!そんなものなんの意味もない!この私の目的の犠牲の栄誉を誇って居れば良かったのだ!貴様の娘はその程度の存在だろうが!


女の癖に仕事をする行き遅れ、そんな存在殺してやったほうが良いだろうが!」


「っ!」


だが、次の瞬間サーゼルの言葉にプラマが屈辱に唇をかみしめて、そしてその姿に私は一瞬で先程までの動揺が消え去るのを感じた。


そして代わりに何か熱いものが胸の奥から湧き上がってくる。


女だてらに仕事をする行き遅れ。

それは私の娘についた酷く不謹慎な称号だった。

そしてそれを使って私はいつも娘を注意していた。

世間でお前は後ろ指を指されているのだぞ、と。

だが、それでも。


「お前が娘をその名前で呼ぶな!」


「がっ!」


ーーー でもそれでも私は娘に心底呆れたことなんか一度たりともなかった。


「お父様!?」


サーゼルを思わず殴ってしまった私に娘が驚きの声をあげるのが分かる。

だがそれでも冷めないほどに私の胸で何か熱いものが動いていた。


「巫山戯るな!何が殺してやることが情けになるだ!何が犠牲にしてやる栄誉を授けるだ!お前が、その口で娘について語るな!」


そして気づけば私はその熱い何かを声として吐き出していた。


そう、私は決して娘に失望することなどなかった。

何時も必死に仕事をしている娘の姿は私の自慢だった。

確かに私は娘にもう少し行動を改めるように言った。


だが、それは全て娘に幸せになって欲しかったそれだけだった。


娘が望むなら、当主の座など捨てる。

名門貴族?そんなもの糞食らえだ!

私が望んでいたのは娘が幸せになる未来で、


「ーーー 娘を、私の自慢の娘をお前のその汚い言葉で汚すな!」


そしてそれは目の前のこんなしょうもない男に決められるほど安っぽい未来ではない!


「っ!」


娘と、そしてサーゼルがとうとう取り乱した私の態度に言葉を失う。

そしてサーゼルの目には取り返しのつかないことをしてしまったという後悔が浮かんでいた。

それを見て私は内心で笑う。

鋭いじゃないかと。

もう、絶対に私はお前を許さない。


「全てを話せ」


そしてそう告げた私の言葉にもう、サーゼルが争うことはなかった。

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