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カルバス

「っ、違う!何かの間違いだ!」


言葉を失いまるで金魚のように口を開け閉めするサーゼルの姿に俺、カルバスは嘲笑を漏らす。

それは酷く惨めな姿だった。

今までの余裕ぶった仮面が剥がれ、サーゼルは周囲にそう隠しきれない焦燥を顔に張り付けながらそう叫ぶ。


その時の彼にはもう、賢王と呼ばれていた頃の名残など存在しなかった。


そこに居たのは悪事がバレ必死に言い訳するただの罪人でしかなかった。


「全て陰謀だ!」


サーゼルは今焦ることこそが余計疑いを濃くすることにも気づかず、唾を飛ばしながらそう怒鳴る。


「本当、なのか……」


「で、でもまさかあの賢王がこんなことを……」


「本人の言葉が真実が本当に違いないだろう!っ!俺はライム様になんてことを……」


そんな中、徐々に民衆達の疑いは募っていた。


「やっぱり、ライムはライムか」


そしてその民衆達の態度を見て、俺は思わず微笑み漏らす。

本人が出て来てライムの容疑を否定した。

それは確かにライムが冤罪であったことに目を向ける大きな要因なのかもしれない。

だがそれでも大々的に行われた裁判の中、こんな風に直ぐ民衆達がライムを信じ始めているのは、俺がいなかった二年間もライムは変わらず必死に頑張っていたのだろう。


魔族が攻めて来た時、戦える力など一切持たないくせに民衆を逃す時間を作るため1人で魔族の元まで出向いて行った、あの時のように。


「くそっ!何で俺はライム様を信じられなかったんだ!ライム様をあんなに罵ってしまって……」


1人の民衆の声がして、そしてその声に続いて何人もの鳴き声が聞こえる。

彼らはライムのこと信じられなくて疑ってしまった人間なのだろう。


だが、それでもライムを罵ってしまったのはライムのことを本当に信じていたのが理由なんだろう。

事実を知らず、冤罪でライムを罵ったことそれは決して笑って流せることでもない。


「くそぉ!」


でも、それでもライムはこんな風に泣いている民衆達をあっさりと許してしまう気がした。

そして自分が被害者であるくせに泣きながら謝り出す姿が頭に浮かんで俺は思わず溜息を吐く。

本当にライムは甘い。

被害者のくせに勝手に謝ってくる相手がどれだけ苦しんでいるのか、そんなことを想像して謝るなんて正直戦場を生きて来た俺は最初信じられなかった程。


ーーー でも今はその頭に浮かぶ彼女の姿が愛おしくてたまら無い。


「あぁ、本当に俺も大概だ……」


今も感じるライムの視線。

おそらく彼女は未だ何が起こったか分かってい無いだろう。

ライムは酷く頭がいい。

だが、その代わり自分の想像してい無いことが起きれば思考が停止してしまう。

そして俺は二年前と同じようにそんな状態に陥ったライムに駆け寄って、正気を取り戻させたい衝動に駆られる。

だが、その衝動を俺は歯を食いしばって耐える。


ライムと見つめ合いたい。

あの可憐な、でも何処か抜けている顔を早く満面の笑みにしたい。


「全部ライムがしたんだ!令嬢を殺したのも全てライムだ!」


だが、今はまだその願いは叶えられ無い。

俺は底冷えする目で国王を睨みつける。

民衆へと逆効果であることに気づかず叫び飛ばすサーゼル。

そしてあの男だけは決して許すことはでき無いと、そう静かに俺は決意を固めた。





◇◆◇





「へぇ?本人が、国王に殺されかけたと証明しているのにまだそんなことを言うつもりか?」


「っ!」


底冷えした、殺意さえ込められた声は決して大きな声でもないのにも関わらず、今まで大声で騒ぎあっていた民衆達をも黙らす。

そして、その声の標的であるサーゼルの顔からは血の気が引いていた。


その時、ようやくその場にいる殆ど全員があることを確信しただろうことを俺は悟る。


目の前の男は本当に英雄なのだと。

彼は自身の婚約者を守るために再度この王国に戻って来たのだと。


「衛兵!こいつは偽物だ!早く捕らえろ!」


ーーー だが1人、目の前のサーゼルだけはそのことを認めようとはしなかった。


いや、サーゼルは実際には一番最初に俺が英雄であることを悟っていたのだろう。

だが、自分の立場を守る為にサーゼルは絶対に表立って認めることが無かっただけで。


「こいつはただの偽物だ!ライムが、この売女の身体が目的なだけのただの変装だ!」


サーゼルは民衆の感じる俺の印象を少しでも下げるために、そうライムを嘲笑いながら告げる。


その自分の言葉によって、民衆達が怒りの表情を浮かべ始めていることにも気づかずに。


「そうだ!この女達もだ!おそらくライムに金で雇われた人間に違いない!それで変装して全てのこの私、賢王に罪をなすりつけようとしただけの偽物だ!」


そう叫ぶサーゼルの顔には本当にそれで誤魔化せたと思っているのか、安堵の色が浮かんでいた。

そしてさらにライムを貶そうとサーゼルは口を開き、


「私の、大切な娘を、偽物だと!」


その時裁判の広場の中、被害者側に座っていた複数の人間が立ち上がって怒りの込めた口調でそう叫んだ。

サーゼルは自分の言葉を阻まれた不機嫌さをその立ち上がった人間にぶつけようと苛立ちげに口を開く。


「なっ!」


そしてその立ち上がった人間が誰であるかを悟り、絶句した。

サーゼルはその人物から距離を取ろうと後ろに数歩下がる。

だが、その間に立ち上がった人間達はサーゼルとの間を詰め彼の胸倉を掴む。


「私の娘が偽物だと?少し、話を聞かせて頂きましょうか!」


怒りの表情でサーゼルの胸倉を掴む中年の男、それはこの国で国王でさえ無視でき無い力を持つ名門貴族の党首、つまりプリマ達の父親達だった……

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