プリマ
「何でお主が!」
私達を見るサーゼルの顔には驚きの表情が浮かんでいた。
そしてその表情はライム様に殺されたはずの人間が生きていることに対する驚愕にしては過剰な反応だった。
だがそれは当たり前のことであることを私は知っていた。
ー 何がライム様だ。あれは私が責任持って娶ってやるからきにするな。
私、プリマの頭にあの日の記憶が蘇る。
それは国王が私に対して刺客を差し向け、吐き捨てた言葉。
そう私達を殺めようとした人間、それはライム様ではない。
「私は目の前のこの男に1つ言いたいことがあります。けれどもその前に1つ皆さんに告げておかなければならない真実があります」
「っ!辞めろ!」
その真実を告げる為に私は民衆へと向き直ってそう叫ぶ。
私の狙いを悟ったのか、国王は顔色を変えて私に飛びかかろうとする。
だが、その前に私達は全力でこの場にいる誰の耳にも入るように叫んだ。
「ーーー 私を殺めようとした人間、それはライム様ではなく国王と王子です!」
◇◆◇
私、プリマには絶対に忘れられない記憶がある。
それは初めてライム様と出会った時、
そして、それは賢王と呼ばれているはずの国王が無能であったことを知った日だった。
その日は私はそこそこ地位のある貴族として、英雄の婚約者に会えると胸を高鳴らせていたのを覚えている。
その時すでに英雄は姿を眩ませていたが、それでもその婚約者が美しいことは貴族社会の中でも有名な話で、私はその婚約者様の美しさを直で見れると言うことで心を酷く緊張していた。
しかも、その時私は婚約者様の直々のご指名であると聞いていたので、もしかしたら粗相でもしたのかもしれないとそんなことも考えていた。
「丁度良いところに!ごめんなさい!説明は後でするから手伝って!」
「えっ?」
だが、その私の思いはライム様と出会って一瞬で消えることとなった。
初めて見たライム様、それは酷く美しい人だった。
けれどもそれ以上にその時のライム様はお疲れの様子だったのだ。
最初は私は戸惑っていたが、招き入れられるまま室内に入って、ようやくなぜ彼女がそんなに疲れていたのか私は悟ることとなった。
何故なら、その室内には溢れんばかりの書類を貴族の令嬢が処理する修羅場になっていたのだ。
そしてその時私は自分が何故ライム様に呼ばれたか悟った。
私は自分で言うのも何だが、其処まで令嬢らしい人間ではない。
どちらかと言えば仕事に生きるタイプで、異質とそう異性には嘲笑われていた人間だった。
けれども、そんな私と同じような評判を持つ令嬢達が必死に書類を処理しているのを見れば、嫌でも呼ばれた理由はわかる。
つまり私はこの書類を片付けるための助っ人として呼ばれたのだ。
「お願いします!」
「っ、はい!」
私は思わぬ展開に一瞬唖然としていたが、切羽詰まったライム様の声にすぐそう返事をして仕事に取り掛かった。
そして後日私は知ることとなる。
私達が行っていた仕事、それは全て本来国王などの王族がするべき仕事で、
ーーー 賢王と呼ばれている現国王が優秀なのではなく、ライム様が陰で国を動かしていたことに。
国を動かす、それだけの大仕事を行いながらもそれでもライム様には何の得もなかった。
そもそもライム様が仕事をしていることを知っているものなど殆どおらず、ライム様のやったことは全て国王の手柄として取られていくのだから当たり前だ。
だけど、常にライム様は必死に仕事をしていて、だから私は一度ライム様に何故そんなにも必死にこの仕事をするのかと聞いて見たことがある。
するとその時ライム様は酷く悲しそうな顔をした。
「あの人が命懸けで守ろうとしたものなら、あの人が帰ってくるまで私が守らなくちゃ」
そう告げたライム様の顔には隠しきれないだけの悲しみが浮かんでいた。
ライム様は滅多に英雄について話さない方で、だからこそそう告げた時どれほど傷ついているのかが分かって私は酷く胸が痛んだ。
思えばその時すでに私はライム様を見捨てられない友人の様に感じていたのだろう。
傷つきやすくて、それでも強くて優しくて、彼女は本当に私の理想とする女性だった。
ーーー だからこそ、私は国王に彼女に冤罪をかけるようにと言われた時、一瞬何を言われたのか分からなかった。