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サーゼル

「………あの馬鹿が」


いきなり剣を振りかざし、整っているとは言える顔に怖気の走る気持ち悪い笑みを浮かべて英雄に跳びかかり、あっさりと殴り飛ばされ意識を失った息子の姿を見て、私、サーゼルは思わずそう吐き捨てた。

その姿は控えめに評しても無様で情けない、としか言えず思わず口から溜息が漏れる。

そして私の顔には息子の不始末に関して嘲るような表情が浮かんでいたが、だが、英雄と呼ばれる青年の登場に関しては一切動揺していなかった。


此方へと歩いてきたお陰で端正な容姿に、そして意志の強そうな顔は本当にあの英雄とそっくりなことが分かる。

違いといえば大小様々な傷跡と、普段は冷静そのものだった顔に隠しきれ無いだけの怒りが浮かんでいることだけ。


「あれは偽物だ!」


だが、それでもそう民衆に告げるサーゼルの声に迷いは存在しなかった。


「裁かれる直前に現れた英雄そっくりな男、それはライムの策略だ!」


そして迷いのない私のその断言に周囲のざわめきが大きくなる。


「っ!」


「確かに言われてみれば……」


「こんな状況で現れるのは……」


「でも、あんなにそっくりなのにか!」


「それに、ライム様だってまだ有罪と決まった訳では……」


様々な声が民衆の中で広まり、喧騒がどんどんと大きくなる。

だがそれでも、このタイミングで現れた所為でライムの策略だと考える者の方が多く、サーゼルは微かな笑みを口元に浮かべる。


だが、私はその男がライムの差し金だとは思っていなかった。


顔に張り付いた驚きの表情、それこそがライムがあの男を呼び出したのではないことの何よりの証拠だ。

そしてそれは彼が本当の英雄である可能性が否定でき無いことを示していた。


「何者かは知らぬが、こんなタイミングで現れるとは余程の馬鹿に違いない……」


だが、私はその男がライムの冤罪を知って英雄の変装をした何者かだと確信していた。

英雄がこの場所に現れるそれがあり得ないのを他ならぬ私だけは絶対に断言できる。


ーーー 何故なら、他ならぬこの私が英雄の行方不明となったその原因なのだから。


他の誰も知らない、その事実に私は目の前の男を嘲笑う。

英雄を模す、その選択それは私には通じ無いそのことを知ら無いその愚かさを。


「総員、戦闘準備!」


そして私はそう大声で叫んだ。





◇◆◇





「っ!」


民衆と同じように目の前の男が本当の英雄なのか、そうで無いのか分からず呆然としていた衛兵達だったが、私の言葉に素早く各々の武器を構える。

その動きには賢王と呼ばれている私の言葉に対する信頼が現れていて、


ー こやつらは何も知らぬ……


思わず私の口に嘲りが浮かぶ。

賢王、魔族から王国を守り抜いた賢王その名前が嘘で塗り固められていることを知るものはただ一人。

それは英雄と呼ばれる、真のこの国の救世主。

だが、その救世主はもうい無い。

他ならぬ私の手により、この世界から姿を消した。


「ふはは、」


その考えと共に私の身体を万能感が包む。

誰も私が本当は何をしたかなど知らず愚かに私を讃える。

そしてその私の行動を遮れるものは存在し無い!


ー よう、クソ野郎。


「っ!」


だがその時突然、私の頭に直接言葉が現れた。

その言葉からは私に対する膨大な殺意と怒りが籠っていて、私は思わず息を飲む。

そして直ぐにこの頭に響いているのが何かを悟る。


これはテレパシーと呼ばれる中級魔法。


その効果は離れた相手の頭の中に直接言葉を届けることが出来るもので、決して発動する難易度は高く無いが、距離が離れると離れるだけ難易度が上がって行く。


「何処だ!」


だから私は自分にテレパシーをかけている存在は近くにいると判断して辺りを見回す。

だがそんな人間は存在しなかった。

疑問を覚えつつも、それでも今は偽物の英雄を対処する方が先だと考え顔を上げて、


「っ!」


そして此方へと向けて手を振る英雄の姿に私は絶句した。

テレパシーを使うのに必要なのは対象に視線をやることで、おそらく今私の周りでテレパシーを使った者存在し無い。

つまりテレパシーを使えるのは今私の方へと手を向けている英雄だけで、だがあそこからここまでテレパシーを使うなど普通は不可能なはずだった。


「まさか!」


ーーー そう、かの英雄程の力を持っていなければ。


ー ようやく分かったか。


「っ!」


そしてその私の想像を肯定するかのように私の頭に声が響く。


ー お前に次元の果てに突き飛ばされてから、ここにようやく戻ってきたぞ!


「なっ!」


その声の告げたこと、それは私と突き飛ばされた英雄しか知ら無いことだった。


二年前、自分の罪が恐れること、そしてライムを手にすることが出来るかもしれ無い、その欲望に突き動かされた私は迷うことなく世界を救った英雄を、魔族が現れた次元の裂け目と呼ばれた場所に突き飛ばした。

それを見ていたものはおらず、戻ってきだ私は賢王として讃えられた。

そしてそれで私がライムを妾にして全てが終わるはずだった。


「カルバス……」


ー 正解だ。屑野郎。


だが、ようやく私は気づく。

翼竜に乗って現れた青年、彼は本当にかの伝説の英雄であることを。

彼は魔族の世界に落とされながらも、それでも生き抜いてこの世界まで戻ってきたことを。


そしてそのことに気づいた私はようやく自分が破滅の危機にいることに気づく。


「総員かかれ!」


私はそう気づいた時、反射的にそう叫んでいた。


「っ!」


ーーー だが、動き始めた兵士達は英雄の殺気混じりの1人睨みで全員動きを止めた。


「いやぁ、皆様お久しぶり」


そんな緊迫感漂うなか、英雄は場違いな程軽い声で笑う。


「色々話したいけど、実は少し先に話したい人がいるらしいから、後にするよ」


「なっ!」


そして次に現れた人物、その姿に英雄が現れた時と同じ驚愕が走る。


「何で、お主が……」


ーーー そこに現れたのはライムが殺したと言われていた貴族の令嬢達の姿だった。

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