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ライム IV

国王の横領金の使い道が示されたその書類、それには国王と元領主達の癒着していないとあり得ない使い道が何個も示されていた。

王都での不正ならば私見逃すはずがないのに見逃した理由。

それこそが元領主達を介することだったのだろう。


「はて、これは何でしょうか?」


しかし、その証拠を突きつけられても元領主達は認めようとはしなかった。

今までとは全く違う満面の笑みで私に擦り寄るような声を発する。


「何のことかは分かりませんが……ですが王都が危機的状況であることは充分に私どもに伝わりました。そういうことなれば私達も王都への資金援助は惜しみません!」


その言葉に私は元領主達が私に金で自身の不正を見逃してもらおうとしていることを悟る。

そして私へと必死に頭を下げるその態度は滑稽で私は思わず口元に笑みを浮かべてしまう。

この男達が私を好き勝手出来ると考えていた、それは今から考えると笑い話ではない。

しかし私はその内心の愉悦を隠しながら口を開いた。


「そうですの。貴方方の財産が王都の再建に使えるならばそれは心強いですわ!」


「……いえ!これも臣下である私達の望みでありますので!」


そしてその私の言葉に元領主達は、ようやく危機から脱せられたとそう確信したのか安堵の息を漏らした。

それはそうだろう。

恐らくここで私が元領主達を訴え、周囲の高位貴族に助けを求めることなく裁いてしまおうとしたとしても、その間に元領主達は自身の財産で抵抗できる。

だが、そうだとしても今ここで私に訴えられることになれば元領主達は今までの地位を全て失うことになるのだから。

だから元領主達は自分達をここまで追い詰めた女に怒りを抱くことさえ忘れ、安堵し……


「ですが、貴方方から資金援助入りません。


ーーー 国家反逆罪で貴方方の財産は全て没収させて頂きますので」


「はっ?」


そして私の言葉に思わず呆然とした声を上げた。

私はそんな元領主達の態度に口元が緩みそうになるのを隠しながら、一枚の紙をその目の前に落とす。


「っ!これは!」


それから私は愉悦を隠そうともせず、私が落とした書類、つまり元領主達の不正とその使い道が詳細に記された紙に言葉を失う元領主達へと笑いかけた。


「申し訳ございません。私としたことが、一枚書類を出し忘れておりましたわ」


その瞬間元領主達の顔から、今まで仮面のように張り付いていた緩んだ笑みが消え去った。







◇◆◇







「ふざけるな!貴様、ただの貴族が私達にこんなことをして許されると思うなよ!」


私の言葉を聞いた後、元領主達は一瞬言葉を失い、そして次の瞬間激怒で顔を真っ赤に染めながら口を開いた。

口から出た怒声、それは戦場に出たことのある私からすれば鼻で笑い飛ばせてしまうようなものだった。


「私達を舐めたこと、それを後悔させてやる!」


喉から声を出しているせいか、もう声がかすれかけている。


「確かにこれだけの証拠があれば私を捕らえられることができるだろう!だがそんなことをすれば国は潰れるぞ!」


そしてその元領主達の姿は決して私からすれば恐怖を呼び起こす対象ではなかったのだけれども……


ーーー だが、その言葉は真実だった。


「私の部下が私を捕らえられたことを知れば反乱を起こすぞ!」


そう、確かにこれだけの証拠を出せばここで私は元領主達を問答無用で捕えることができる。

そして2、3日程度で裁くことができるだろう。

しかしそれでも元領主達は抑えられない。

その場合恐らく元領主達の納めていた領地は彼等が言っていたように反乱を起こすだろう。

確かに私は先立って元領主達の身分を剥奪した。

けれどもそれは決して元領主達と領地との関係性を完璧に切れるものではない。

何せ何の理由もなくそんなことができるほど、今の王朝には力がないのだ。

つまり、元領主達が捕らえられた瞬間、その領地の家族は家の有り余る財産を使い反乱を起こすだろう。

そしてその反乱を今の私達には納める手段もないのだ。

いや、それどころの問題ではない。

何せ下手すれば国が分断する可能性さえ否定できないのだから。

そしてそんなことになれば前に国王の悪政で弱り切っていた王都付近の地区は真っ先に潰れるだろう。


「ふはは!潰してやる!こんな国など私達が潰してやる!」


つまり元領主達の話は全て真実で……


ーーー だから私はその元領主達の言葉を待っていたのだ。


「待ってましたよ……」


「はっ?」


自身の脅し文句で急に今までにない脱力を見せる私に元領主達の顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。

しかし私はその元領主達の表情に一切表情を変えることはなかった。


「いや、確かに私は魔族とのあの戦場で過ごしていただけあって決して挑発は苦手じゃ無いんですけども、好きなわけではないんですよ……」


そう、私はあれだけ挑発を繰り返したり性格の悪い女を演じていたけども、だけどそれが好きなわけではないのだ。

というか嫌いだ。

そんなことよりダーリンとにゃんにゃんした……げふんげふん。

まぁ、それでも私が必死に挑発を繰り返し、やけに元領主達の神経を逆撫でしていた理由は全て元領主の1人にでも先ほどの言葉を言わせるためだ。


具体的には国家転覆を匂わせる言葉を。


「貴様は一体何を……っ!」


元領主達はその私の態度にそう怒鳴ろうとして、だがその前に姿を現した何者かに言葉を失った。


「はぁ……強引な手を使いますね……」


それは酷く痩せた男だった。

三十代半ばの貴族だとは思えないそんな男。


「使わせたのは貴方でしょう……本当に新しい裁判所ってめんどくさい……」


「……確かに顔を立ててくれと言ったのはこちらですが、それでもその面倒くさい裁判所を作った貴女にだけは言われたくない台詞ですね」


酷く気の抜けた会話、それを私と男は呆気に取られる元領主達の前で繰り広げて行く。

そんな私達の様子に元領主達は何が起きたのか、分からないような顔で眺めていて……


「まぁ、これでこの方達は国家転覆罪で裁けます」


「なっ!」


だが、次に男が告げたその言葉に絶句することとなった……

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