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ライム Ⅱ

「……はて、何のことですかな」


私の言葉に元領主の一人はそうとぼけてみせた。

だけども、その声と目には隠し切れない動揺と、私への警戒が含まれていて、私は元領主達がやっと私を警戒し始めたことを悟る。

しかし、もう遅い。

今この場にのこのことおびき寄せられたことを目の前の寄生虫どもはすぐに後悔することになる、と私は表面上は優雅な笑みを浮かべた。


「さぁ?私は貴方方の領民に寄生する最低の寄生虫の存在を小耳に挟んだだけですの。ですからその退治をしなければならないと思っただけで……」


「っ!」


それは何も知らない、なんて風を装いながらの痛烈な罵倒だった。

なにせ私は目の前の元領主達を領民達に寄生する寄生虫だと告げたのだ。

それはプライドだけは高く、平民は自分達に搾取されるために生きているなんて信じている目の前の元領主達にとっては耐え難い言葉だろう。


「………知りませぬな」


だが、唇を悔しさで噛み締めながらそれでも元領主達はそうとぼけた。

そしてその元領主達の姿に私は密かに内心で感心する。

私はこの言葉で元領主達が暴走する可能性も考えていた。

というか、その程度の人間だと思っていたのだが流石にそれは言い過ぎだったらしい。

寄生虫は言い過ぎだったかもしれない。


「そうですか……残念です。そういえばその寄生虫は豚の姿に似ているそうですよ。


ーーー それも気味が悪いほど肥えた豚」


「なっ!」


豚程度に評価を上げるべきか。

まぁ、それも頭まで脂肪に覆われた能無しだが。

私はそんなことを考えながら、怒りで顔を真っ赤にした元領主達に笑いかける。


「特徴的で醜い容姿だそうなので、見つけたら是非教えて下さいね」


「………えぇ、ライム様のお言葉とあれば」


そう答えた元領主達は怒鳴らないのが不思議なくらい激怒していた。

恐らく今は必死に怒りを抑えているのだろう。

頭の中で私への罵詈雑言を喚き、いつか覚えていろと叫びながらも。


そして冷静な思考を奪うのが私の目的だとも知らずに。


「ありがとうございます。では本日お呼びした本題をお話しします」


私は激怒している元領主達へと笑いかけた。






◇◆◇







「つまり貴女は領地に送ったはずの寄付金が領民に届いていない件について、私達領主達を呼び出したと……でしたら私は被害者です。こんな領主の地位を剥奪されるようなことは何もしていません」


私の寄付金の話を聞いた元領主達の反応、それはそんな叫びだった。

私へと怒鳴り、そして元領主達はさも悲しそうに顔を歪めてみせる。


「貴女は知っているか!私の領民達がどんな悲鳴をあげて日々餓えに苦しんでいるのか!いや、もう叫ぶと気力もない!皮と骨だけになってどれだけ苦しんでいることか……それも全て、あの国王の所為だ!」


そう叫ぶ領主の言葉に私の頭に領民達の姿が思い浮かぶ。

元領主達の言葉、それは嘘などではなかった。

本当に領民達は骨と皮だけになって餓えに苦しんでいた。


「私も国王の裁きの場にいれば、どんな罰を与えてやったか……」


そして元領主達が顔を悲しみに歪めて告げる、その言葉だけを聞けば元領主達は領民の為に必死に動こうとする名領主にしか見えない。


ーーー そしてだからこそ、私は胸のうちから堪え難い怒りが湧き上がってくるのに気づいていた。


なぜなら今目の前で領民の悲惨さを熱弁する元領主達、その人間達こそが領民達を地獄に落とした本人なのだから。


しかも、今領民達がどんな地獄にあるのかを分かった上で。


元領主達が熱弁し、手を振るうたびに明らかに高価だとわかる手にはめられた何個もの指輪の宝石が光を反射してキラリと光る。

さらにその身体は領民達など比にならないくらい肥えていて、暗に自身が領民への寄付金を横領したことを示していた。


「本当に私は胸が痛い!」


そして、いつのまにか嗜虐的な笑みを浮かべる元領主達には、横領を隠そうとする意思さえ感じられなくなっていた。

暗に知った所で自分達をどうにか出来るのかとそう私に問いかける視線、それに私は自然と唇を噛み締めていた。

こいつらはどれだけ下劣な存在へと堕ちることが出来るのだろうか。


「そして私達の身の潔白は裁判所の方々にも証明頂けるでしょう!その前に然るべき謝罪を要求します!」


そして次の言葉を発した時に元領主達が浮かべた欲望に満ちた顔を見て私は、自分の身体を元領主達が求めていることを悟る。

裁判所と元領主達は引っ付いている、それはかなり有名な話で、それを引き合いに出して元領主達は言外にこう告げているのだ。


ー 私達にこれ以上抵抗するならば、自身の仲間である裁判所と共にお前を追い詰めるぞ。それが嫌なら身体を差し出せ。


と。

元領主達の口に浮かぶ、興奮からか粘着質な唾液が見える笑み。

その視線は私の身体を真っ直ぐに見ていて、私の全身におぞましさから鳥肌が立つ。


「………もういいですよね」


「はっ?」


そして、その状況に我慢の限界にきた私はそうぼそりと漏らして、一枚の紙を懐から取り出して元領主達の方へと投げた。

その突然の行動に一瞬、元領主達の顔が怪訝なものとなって……


「えっ?」


ーーー そして、裁判所の人間の一斉人員異動と書かれたその紙に呆然と声を漏らしました。


今まで何があっても自身に溢れていた元領主達の顔からはいつのまにか血の気が引いていました。

当たり前でしょう。

今まで元領主達が絶対に自分達は罰せられないと確信していた理由、それは裁判所との癒着があったから。

そしてその裁判所の存在がないと気づき元領主達はようやく自身を守る絶対の存在が無くなったことを悟ったのだ。


「そうですか、では裁判所の方々にお話を聞いて見ましょうか」


そして言葉を無くした元領主達へと私は嘲りを隠そうともせず、そう笑いかけた。

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