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マーザス

私、マーザスが彼女ライムと出会ったのはいつだっただろうか。

その詳しい日は覚えていない。

けれどもその時の美しい夕暮れだけは心に残っている。


「王子様は可愛いですね」


歳は2つほどしか分かられていないそのはずなのに、何故かライムは出会った当初私をそう子供扱いした。

その当時、王子であり既に周りから敬われる立場にあった私に物怖じすることなく。

そしてその時私は悟ったのだ。


ーーー ライムが自分に惚れたことを。


だからこそ、私は酷く不可解だった。


何故、私ではなくカルバスという少し腕っ節が強いだけの男にそんな蕩けたような顔を見せるのか。


私が助けてやると言っても困ったような顔で断ったのか。


何故、妾にしてやると身体触った時に嫌悪感に満ちた表情で私を見たのか。


それは私には最初全く理由が分からなかった。

だが、ようやくある時悟った。

それはカルバスが姿を消し、涙を流すライムの姿を目にした時。

その時の彼女顔は悲痛に歪んでいた。

だけど私だけは悟った。

彼女は決して悲しんでいるのではなく、喜びの涙を流しているのだということを。


私に足りなかったもの、それはただライムへの積極性だったのだ。


何故なら、ライムは私に恋をしている。


「何故、またお前が!」


だからこそ、私はどうしても内心に宿る激情を抑えることが出来なかった。

この二年間私は必死に周りも認めてくれるように手回しした。

ライムが素直になれるように積極性を発揮して動き回った。


「あれは、英雄様……」


「生きて、おられたのか?」


民衆が騒ぐ声が酷く感に触る。

そして全ての準備は整ったはずなのにまた奴は現れた。

私とライムの恋にお前の存在は必要がない。

そう何度内心で叫び続けたか、もう自分でも分からない。


「英雄っ!」


そう、小さく呻くように呟いた声には隠しきれないだけの憎悪が籠っていた……





◇◆◇






「やることは決まってるか……」


ライムの喜びに溢れた表情、それを見て私はそう小さく呟く。


あれだけ浮かれた表情を何故私に向かって浮かべない?

お前は私が好きなんだろう?

いや、好きなはずだ。

そうじゃないとおかしい。


「全て、あの男のせいだ!」


そして胸にぐるぐると回る感情を全て込めた低い声で私は今翼竜から降りてきた男に対して吐き捨てる。

もしあの男を私が今、殺せばどうなるだろうか?

そうなればあのライムの蕩けた表情は私へと移ることになる。

英雄よりも強い、この私に。


そしてそうなれば私はライムを妾にするつもりだった。


おそらく身分的にライムは王妃になることはできないだろう。

だが、それでも毎晩愉しませてやればいい。

その未来を想像して私の口元に笑みが浮かぶ。

あの美貌が自分の下になって喘ぎ声を上げる姿が今からでも楽しみだ。

もちろん他にも妾を取ろう。

ライムに飽きた日は他の妾で遊び、それ以外ではライムの身体を使う。

それは夢のような生活で、私の口に自然と笑みが浮かぶ。


「ふははっ!」


そしてその気持ちの昂ったまま、私は英雄へと飛び出して行く。

どんどんと英雄と私の距離が近づいて行き、だが未だ英雄が振り返ることはない。


「っ!王子!?」


民衆が剣を前に英雄へと走って行く私の姿に次々と声を上げ、英雄は私が駆け寄っていることに気づいたかもしれない。

だがもう全てが遅い。


「私の勝ちだ!」


そして私は勝利を確信して、満面の笑みを口元に浮かべ、


「ぐべっ!?」


ーーー 次の瞬間顎に強烈な衝撃が走り目の前が回った。


しかも、それは決して顎を叩かれ脳が揺れたことによる現象ではなく、顎を叩かれ身体が空中で一回転しているからであることを私は悟る。


そしてそのことに対する驚愕を最後に私は意識を手放した。


………その時の私は目覚めた後には全てを失うことになるなど、一切思っていなかった。

一瞬で退場する王子……

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