その後 マーザスⅡ
ライムを迎えにいく。
そう決断した私がとった行為、それはいざというときのために調べておいたライムの行動範囲に張り込むことだった。
それは私が王子であったとき自らの足で調べたもので、ライムへの一途な私の愛の証明のほかならない。
「これを知ればライムはどんな風に喜んでくれるだろう………」
だからこそ、ライムが一番多く通っていた市場の道で待ち伏せをして位置に目でライムの姿を発見したとき、私はまるで神が恋路を応援しているかのような幸運に歓喜した。
そう、思わず平静を失って抱きついてしまうほどに。
思わず興奮して抱きついてしまった私に当初ライムは混乱し、抵抗した。
そしてそのせいで私は看過できないほどのダメージを負うこととなったが、だがそれでも私の興奮が冷めることはなっかた。
確かに今の私の姿はぼろぼろで一目で判断することがライムには出来ないかもしれない。
だがそれでも私は確信していた。
そう、ライムが私の迎えを英雄などと呼ばれ勘違いしている男の元切望していることを!
「っ!」
だから私はそうライムが絶句したとき、ようやく気づいてくれたかと笑った。
そう、私のみにまとっている服それが少々くたびれてはいるが正真正銘の王子だけが身にまとえる正装であることに気づいたライムの驚愕をかんじながら。
「迎えにきたよ。ライム!」
そしてそれから私は大きく手を、そういつでもライムが飛び込んでこれるほど開いて叫んだ!
次の瞬間胸に柔らかいライムの身体が飛び込んでくることを疑わずに。
「ぶべっ!?」
ーーー そして次の瞬間、心底気持ちが悪そうなライムが放った拳によって私の身体は吹っ飛んでいった………
◇◆◇
「ぐっ!」
蹴り飛ばされた私はろくに反応もできず壁へと叩きつけられた。
その衝撃で肺から空気が絞り出されて、ライムに会えていたことで興奮していた頭が少し冷静になる。
「な、何で……」
だが、それでも何が起きたのか私には分からなかった。
ライムは私のことをずっと待っていたはずで、なのに何故拒絶されたのか私には全く理解ができなかった。
「私は既婚者です!」
「っ!」
だが次にライムの告げた言葉、それでようやく私は気づく。
あれ?これではまるでライムがあの男に、英雄と呼ばれて勘違いしているだけの男に惚れているみたいじゃ……
「私には、かっこいい旦那様がいるんです!」
「なっ!」
そしてその私の推測を肯定するかのようにライムは言葉を続けた。
そう告げた顔は羞恥からか朱に染まっていて、だがそれでも幸せそうに微笑んでいて、ようやく私は悟る。
嘘だと今まで思い込んでいた。
だけど本当にライムはあの男のことを思っていて……
「ふざけるな!」
次の瞬間、思わず叫んだ私の顔にライムの足がめり込んでいた。
◇◆◇
ライムに蹴られ、激しい痛みが顔に走り鼻から血が垂れるのがわかる。
だがそれでも前回と違って今回は私の頭の熱が消えることはなかった。
ライムに裏切られた。
そのことだけが何度も何度も頭の中をぐるぐると蠢いていて、その屈辱に私は思わず唇を噛みしめる。
こんなこと許すことなんて出来るはずがなかった。
私がどれだけライムのことを思っているのか、ライムは知っているのか?
だったら何故あの男なんかを選ぶのかとそう叫びたくなる。
「何で、私じゃない!」
「えっ……」
「っ!」
そして耐えようとして、耐えきれずに漏らした言葉。
だが、それに対するライムの反応は言外に気持ちが悪いと言っているような表情だった。
その表情にさらに私は怒りを覚える。
必死に私はライムに尽くしてきた。
あのいらない男を遠ざけたりと、2年前からずっと必死に尽くしてきたのに、なのにライムはまるで私を取るに足らない存在のように見る。
そしてそれが一番私の胸を抉っていた。
今の現実が私にはどうしても納得することが出来るはずがなかった。
私はライムのことを心の底から思っていて、だからライムも私のことを心の底から慕っているはずが当然で。
「………ない」
そしてだからこそ、ライムが私のことなど何とも思っていないそう知った時私の胸に溢れてきたのはライムに対する抑えようのない怒りだった。
「裏切ったお前を私は絶対に許さない!」
「えっ?」
その私の言葉にライムの顔に始めて動揺が走る。
それは嫌悪感や、恐怖心といったマイナスな感情。
だが今の私はそんな感情だとしてもライムに見てもらえていることに快感を覚えて思わず口元に笑みを浮かべる。
「ひっ!」
そしてその私の笑みを見たライムは身体を両腕で抱きしめ、この場を逃げるように早足で歩き出した。
その後ろ姿を見ながら、私は誓う。
いつか絶対にライムを殺してやると。
ーーー そしてその後を追い、お前を私のものにしてやると。
また直ぐ逢いに行くと、ライムの背中を私は目をもそらさずに眺め続け……
「あ、あの……」
「っ!」
そしていきなり振り返ったライムの行動に思わず間抜けな声を漏らした。
だが何処かこちらを見る視線に心配げな色が宿っていることに気づき俺の胸は高鳴る。
「幾ら女の人を騙すためでも、行方不明の王子の格好を真似るのはやめた方が良いですよ」
「はっ?」
だが次の瞬間、私は全く予想もしていなかったライムの言葉に絶句した。
決して私は偽物などではない。本当に正真正銘の王子で……
「その、もっと王子様は……」
だが、そう言いかけて悩ましげに言葉を詰まらせたライムの姿に私の頭に嫌な妄想が浮かぶ。
だが直ぐに私はその妄想を頭から振り払った。
いや、そんなこと有り得るはずがない。
ライムが実は王子のことを全く意識していなくて、少しでも格好が変われば分からなくなってしまう程度しか覚えていないなど、有り得る訳が……
「そう!もっと影の薄い人でしたよ!」
「………え?」
そして次の瞬間、まるで思い出せないのは王子の印象が低かったせいに違いないというように、笑顔でそう告げたライムの姿に、私の心がぽっきりと折れる音がした……
◇◆◇
それから何か周りにで慌ただしく起きていた。
ライムの知り合いらしき女が出てきてライムをどこかに引きずっていって、その後衛兵達が現れたのだ。
だが、それでも私は一切動くことはなかった。
覚えられてすらいなかった、その事実にもう何の気力さえ湧いてこなくて……
それから数日後、捕らえられた王子が廃人のような姿で現れ、麻薬をしていたのではないかなどという話が広まっていったという………
次にプリマ視線の話があって、エピローグで一章は終了します!