その後.ライム Ⅱ
その日は天気が良いだけあってすごく良い日だった。
買い物に行った市ではちょうど良い材料が投入されたところだったり、今日は一段とおまけしてくれたり。
「ルルン、ルン!」
そしてそのお陰で帰路に着く頃には私は酷くご機嫌だった。
本当にこんなにも買える何て思ってなくて、本当に今日は良い日だった。
買い物袋は酷く重くて、だけどその重さが何故か嬉しく感じる重さで。
「今日はカル………だ、旦那様の好きなお料理にしましょうか!」
私はそう言ってから誰もいないことを確かめて火照った頬をこねる。
誰もいないけども想像以上に恥ずかしかった……
でも、誰も他にいない所ならちょっと位隅で言っていてもバレないはず!
「あ、でも………」
だが途中で私は道中急にくしゃみがしたくなった時を思い出した。
それは普通ならば大したことではないのかもしれない。
事実何時もなら私も普通に忘れ去っていただろう。
けれども何故かその時私は何かを嫌な感じを覚えだのだ。
そうまるで誰かに噂されているような……いや、それも私が望んでいないことについて勝手に明かされているような……
「……帰ったら教えてもらわないとね」
そして私はニッコリと微笑む。
その笑みを浮かべた時プリマさんが震えていることを私は知る由もなく、また歩き出した。
「ライム!」
その、時だった。
「えっ?」
突然私は何者かに手を引かれてバランスを崩した。
私の手を引いている自分、それは酷くやつれているそれでも豪華だとわかるそんな服を着た男性。
「ちょ、やめ!」
私は突然のことに混乱しながらも抵抗しようとして、だが咄嗟のことに反応しきれず押し込まれるように路地裏へと引き込まれた。
何が起こったのか、全く理解できない。
そしてそのせいで恐怖が頭に過ぎる。
「たぁ!」
「グボッ!」
ーーー だが私は仮にも英雄の嫁だった。
身体に走る悪寒、そしていきなり襲いかかってきたことに対する怒り、それを私は足に込めて男の下腹部、つまり急所を全力で蹴り上げた。
その私の攻撃に男がある程度整っているはずの顔をありえないくらいに歪める。
「あふ、ふ、あ、あ、ふ」
そして前かがみになって大切な部分を庇いながら変な動きをし始めた。
当たり前だろう。
確かに私はカルバスと比べれば比にならないほど弱い。
だが、それでも私は戦場で鎧を着て最前線で魔族と戦っていたこともあるのだ。
正直そこらへんのチンピラが集団で現れても余裕で鎮圧できるだけの自信がある。
そしてその私が態勢が悪かったとはいえ、全力で蹴り上げたのだ。
潰れはしなくてもあんな感じにはなるだろう。
「それでは」
とりあえず、今のうちに逃げよう。
そう私は考え、妙な動きをするその男を残して路地裏から出ようとする。
「ま、待て!」
「きゃっ!」
だが、その瞬間私は男に服を掴まれた。
殆ど力が入っていない握りだったが、それでもまさかこんな状態になっても抵抗されるとは思わず思わず私はバランスを崩して転ぶ。
そしてさらにそのせいで足を擦りむき、鈍い痛みに私はその顔を歪める。
「えっ?」
だが、次の瞬間私は言葉を失った。
何故なら、倒れて視界が低くなった私の目の前で揺れる男の服、それは私の見覚えのある衣服だったのだから。
ーーー そう、行方不明となったと言われる王子の衣服に似ていたのだから。
「そうか、ようやくわかってくれたか!」
そして思わず言葉を失った私に対して男は私の背筋に思わず悪寒を抱かせる、そんな笑みを浮かべて笑った。
「迎えに来たよ。ライム」
それから次に王子が告げた言葉、それに次の瞬間私の頭は真っ白になった……