その後 プリマ
「本当に!そんなに俺のことを思ってくれていたのか!」
「は、はい……」
それは澄み渡るような青空の日。
私、プリマは尊敬できる上司であるライムの婚約者であるカルバス様とその日お茶をしていた。
中々お洒落な家の中、男女2人きりの状態。
それも相手は英雄と呼ばれるそんな人間。
もしかすれば世間から見ればこれはよろしくないことなのでは、と最初は私は酷く緊張していたが、だがその緊張は親しみやすいカルバス様と一緒にいることでどんどんと和らいで行っていた。
「それにしてもあのライムが俺のことを思ってとはなぁ……」
………というか、当の本人が婚約者のことを考えながら鼻の下を伸ばしているからそんな雰囲気になるはずもなかった。
すごく独り身に辛い場所だな……とそんな風に考えながら私はストローに口をつけてずごーと中身を吸う。
だけど残念ながらもう中の飲み物は殆ど残ってなくて、氷のせいで味の薄まった殆ど水のような味しか感じない。
最初はストローや、氷などの明らかに裕福な家庭しか使えないような高級品に興奮していたが、今は味の薄い飲み物が自分の人生の薄さを示しているような気になって私は内心しょんぼりする。
いや!そんなことはない!
確かに恋愛経験に関しては殆どないけど、それでも別に私は薄い人生を送ってきた訳なんかではない!
凄く濃い人生だった!
………仕事で。
「ど、どうしたんだ?」
虚しくなってずごーとストローから飲み物を飲んでいた私の様子が流石におかしいことに気づいたのかカルバス様が私にそう声を掛けてくれる。
「あはは……何でも無いですよ」
「そ、そうか?」
だが、正直なことを言うことなんて出来るわけがなく私は笑ってそう誤魔化す。
「そ、そういえば!」
「ん?」
しかしそんな適当な言葉でカルバス様が騙せるわけがなく、心配そうな光が宿ったことに気づいて私は直ぐに誤魔化しに掛かった。
「いえ、前にライム様が様子のおかしいことを指摘した時に、落ち込むから絶対にカルバス様には言わないで欲しいと言われていたのですが、今回カルバス様は全然落ち込まれていなかったなと…」
そう、今日私がカルバス様に呼び出されたその理由、それは自分がいない間のライムの様子を教えて欲しいと言うのものだった。
もちろん最初私は断ったが、それでも引き下がらないカルバス様の様子に最終的に私はライム様のことを全て話してしまったのだ。
それが先程までの話で、だからこそ私は酷くご機嫌なカルバス様の様子に驚いたのだ。
ライム様に聞かされていたカルバス様のイメージとは随分と違うように思えて。
「ああ、確かに前までの俺なら無駄に落ち込んでいただろうな」
そして私の言葉にそうカルバス様は苦笑のような笑みを浮かべた。
まるで恥ずかしいことを聞かれたと言わんばかりに。
「だが、今は違う。俺は決めたんだよ。確かにライムには情けないくらい辛い思いをさせてしまった。けども、それに落ち込んでいたって仕方がないだろう。だったらその分あいつを幸せにしてやらないとな」
だが、それでもライム様についてそう語るカルバス様には本気でライム様のことを思っていると言うことが伝えられてきて、思わず私まで顔を赤らめてしまう。
カルバス様は行方不明と間何があったのかを決して語ろうとはしない。
ライム様でさえ多くは知らないだろう。
だが、その時の記憶がどれ程辛いものであれ、それでも今こんな風に幸せに笑えているのなら、私はライム様の言いつけを破ってでもカルバス様に話をして良かったとそう思って笑った。
仕事ばかりで人の心が分からないとよく父には言われるが、それでも今回に関しては珍しく正解だったのではなかろうか!
………だが、とそこで私は顔を真剣なものにする。
「あの、ライム様には私がそんなことを言ったとは言わないで下さいね」
「どうして?」
「どうしてもです!」
ライム様はいつも冷静なように見えて、だが実はかなり照れ屋だ。
………そしてからかいすぎると本気で怒ることを私は知っている。
というか、丁度二日前に思い知った。
おそらく私がライム様の様子をカルバス様に言ってカルバス様がライム様が自分をどれだけ思ってくれているのかを知って喜んでました、なんて言った後漏らしてしまった私がどんな目に合うのか考えたくもない。
………もう本当にこっそりとメイドに気づかれないように下着を洗わなければならなくなるのは嫌だ。
「絶対に、言わないで下さいね!」
そしてその時の私は知らない。
下着を洗う姿、それをメイドどころか執事に見られてしまうという最悪な未来が自分を待っていることを………
◇◆◇
「はぁ、美味しかった……」
それから散々ご馳走になって、私は満腹になったお腹をぽんぽんと叩きながら屋敷に帰っていた。
普段ならカルバス様が送ってくれるのだが、今回私はその申し出を断った。
おそらくもう少しでライム様は帰ってくるだろう。
それからの2人の時間を少しでも多く過ごして欲しかったのだ。
そう思ってしまうくらい、今日は私にとって印象深い日だった。
「素敵だなぁ……」
思わずそうぽつりと私の口から言葉が漏れる。
本当にあの2人はぴったりな婚約者だった。
何方もお互いを大切に思っていて、一度は辛いことがあったが、だがもうその困難は乗り越えている。
今から2人はようやくゆっくりと愛を育んで行くだろう。
「ふふ」
そしてそんなことを考えて思わず私は自然と笑ってしまう。
「何なんですか貴方!」
「えっ?」
その時だった。
すぐ近くの路地裏、そこからそんな女性の怒りの声が響いてきたのは。
そしてそれは間違いなく、ライム様の声で……
「っ!」
私はそのことに気づいた時、路地裏を覗き込んでいた。
「えっ?」
それから私は路地裏の光景に言葉を失うこととなった。
「ライム、迎えにきたよ!」
ーーー 何故ならそこにいたのは行方不明となったはずの王子だったのだから。
「薄幸令嬢は王子の溺愛に気づかない」という新作を始めました!下にあらすじとURLを置いておくので気になった方は是非!
令嬢でありながらも、日々ボロボロの衣服に身を包み朝から晩まで働かされている私、リース・セレストア。だが、幾ら私が働こうと、継母は自分の娘しか見ない。
そんな日々の中、私はこの街に金髪イケメンの王子が訪れることを聞いて、そして決意する。
王子に娶って貰ってこの辛い状況から逃げ出すことを。
だけど、何か金髪のやけにきらきらした男や、自称神獣とかいういたい男などに懐かれて全く思い通りに行かないんですけども!というか、王子様どこ!?
………これはいつの間にか王子の寵愛を受けていながら、そもそも王子に自分が会っていることさえ気づかない逞しすぎる令嬢の物語。
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