表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

その後 ライム

「はぁ、いい天気……」


私、ライムの頭に広がるのはまっさらな青空だった。

澄み渡っていて見ているだけで何だか明るい気分になれる、そんな快晴。


「うふふ」


そしてそんな風に思えるようになったて良かったと私は小さく笑った。

2年前、カルバスの行方が分からなくなった時の私は相当荒れていた。

そんな時は目に入るものすべてに私を責められているような気分になって、素直に周囲のものの美しさを見つめることなど出来なかった。

いや、それどころか空がどんな綺麗な快晴であっても気づいていなかったかもしれない。


ただ必死にカルバスの行方を捜させようと人に頼み、そしてそれ以外の時はずっと魔族に襲いかかられたせいで滅亡まで追い込まれた王国を立て直すために働いた。


だが、カルバスの残した国を守るためなんてただの口実でしかなかった。

本当はただ何か動いていないとカルバスのことばかり考えてしまうから。


だから私は全く気にしてもいなかった。


カルバスの行方不明の原因や、そして自分の評価が全て国王に吸い取られていっていることさえ。


「………本当にあの時私はカルバスのことしか考えていなかったのね」


そしてその時のことを思い出して私は苦笑しながら呟いた。

あの時は今から考えれば相当酷い状態だったろう。

自分の大切な仕事仲間が殺されたと聞かされ、そしてその罪を被せられた時になるまで国王の企みに気づくことはなかったのだから相当だ。

聞いたことはないが、プリマにその時の様子を聞いたとしたら立ち直れないくらいのことを言われるかもしれない。


「うん、後で絶対にカルバスにその時のことは言わないように言っておかないと……」


そして私は人知れずそう決意する。

別にそんな時の状態を知ったところでカルバスが私を軽蔑することはないだろう。

だが、それでもカルバスはその時のことを聞いて気に病むかもしれない。

少なくとも2年前までのカルバスは人一倍どころか、三倍程度責任感が強い人間だった。

出来れば今の彼にそんな心労を負わせたくない。


「特に夜に影響が出たら………えへ、えへへへ……はっ!」


いつの間にかきちんと真剣なことを考えていたはずのに、思考が惚気方法へと脱線していることに気づいて私は直ぐさま辺りに人がいないかを確かめる。

………実はこの頃の私の悩みはカルバスが帰ってきてから直ぐに顔が緩むようになってしまったなんていう、あまり人様には言えないものだったりする。

というか、知られたら私は自殺も辞さない。

こんな独り言聞かれたらそれこそ自殺ものだ……


「でも、本当に変わったわね……」


そしてしばらく私は辺りを見回していたが、いつの間にか興味は他のことへと移っていた。

私の視線の先にあるもの、それは綺麗に整えられた路地裏だった。

前国王が処刑される前はこんな場所は酷く汚かった。

それは魔族に襲われたという衝撃が未だ抜けていなかったというそんな理由もあったが、だがそれでも一番の理由は国王が限界だったということだろう。

私の国直しを本人から何も言われないのをいいことに全て自分の手柄とした国王は賢王として讃えられる存在だと国民の目を欺いていた。

だが、本人にはそんな能力などほんの少しも存在しなかった。

確かにカリスマを持ち、常に堂々したその姿勢は英雄が行方不明となったその時には唯一縋れる存在だっただろう。

だがそうやって完璧に民衆を騙したつもりでも少しづつ無理は重なっていたのだ。


そしてそれが汚い路地裏のように、様々な場所にありとあらゆる形で現れていたのだ。


だが、現在路地裏には一切の汚れは存在しなかった。


「………少なくとも今は、しっかりやっているみたいね」


そしてそれを見て私は今、国王として愚王のせいで乱れた王国を立て直している人物を頭に浮かべる。

国王が処刑され、王太子が逃げ突然回ってきた王位に驚きながらも、王族の犯した罪は何としても自分が濯いで見せると王位についた愚王の弟だった人物、ハーバルト。


ハーバルトは愚王の弟ではあったが、未だ若く二十代の青年だった。

さらに愚王に意見を申して捕らえられたとかでかなり痩せていて、あまりにも国王としては頼りなく見えた。


その鋭い眼光以外は。


その目を魔族に責められて殺されたが名君であった先先代と同じ目だと彼に王位を継承するようにいったカルバスの言葉を未だ私ははっきりと覚えている。

そして、そのカルバスの言葉は間違っていなかった。


「ふふ。今日はお祝いしよう」


路地裏の光景や、ぞろぞろと歩いてくる人々の明るい表情を見て私は思わずそう笑う。

この頃カルバスは魔界での記憶が蘇ったのかよく悪夢に魘されていて、疲れている。

けれどもこの話を聞けば多分嬉しそうに笑ってくれるだろう。


「早く買い物を終わらせないと!」


そして私はスキップをしそうな程軽やかな足取りで市場へと向かって歩き出す。

その顔は幸せに溢れていて……


「ライム……」


だから私は気づいていなかった。

後ろから見慣れないくたびれた、それでも豪華な服を着た人間が自分の後ろをつけてきているというそのことに……

これからの更新ですが、2章に入るまで後日談や、幕間、エピローグなどは三日起きに更新させて頂こうと想います。

それから2章に入ってから、ある程度ぽんぽんと投稿できれば、と。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=11137073&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ