その後 マーザス
そこは酷く汚れた場所だった。
だがそれは当たり前のことだった。
私、マーザスがいるのは王族貴族、いや、平民でさえそんな場所には入り込まないそんな場所なのだから。
そしてこの場所で時々見かける人間達は酷く汚い格好をしていた。
それこそ、この場所と大差ないそう言ってもおかしくないほど。
「くそ!」
そして私自身もそう言ってもおかしくないほど自分が汚れていることを悟っていた。
服は当初の豪華さが嘘のようにボロボロほで洗う暇などなかった身体はもう既に感覚が狂っている鼻に激臭を届けてくる。
それは私が王子として過ごしていた時からは信じられない程の状態だった。
だがそれは当たり前のことだった。
何故なら私今の私は王子ではないのだ。
犯罪者として王国に追われる身なのだから……
◇◆◇
私が意識を取り戻した時、その時にはもう全てが終わっていた。
何があったのかそんなことは分からない。
だがその時には全ての罪が暴かれ、そして私は犯罪者となっていた。
そして私がその場所から何とか逃げ切れたことはただの奇跡でしかなかった。
本当にただ運が良かっただけ。
しかしその幸運が続くことはなかった。
逃げ出したものの、それでも少しの金銭と目立つ王子の正装で出てきてしまった私は直ぐに自分の格好を変えなければならなかった。
だが、着替えるという一番手軽な方法を選択する、そんな暇など私にはなくて……
そして私が選んだのは貧民としてスラム街に紛れ込むことだった。
まず服を躊躇なく汚し、そして私は貧民に紛れ込んだ。
追っ手もまさかそんな手を私が取るとは思っていなかったのだろう。
時々すれ違うことはあったが、それでも眉を潜めて距離を取られることはあっても王子だとそう勘づかれることはなかった。
そして何とか逃げ切った私だったが、その後の生活は決して良いものではなかった。
食事など一切買うことはできず、私に出来たのはただ他の貧民と同じように残飯を漁る日々。
それは本当に辛い日々だった。
そう、捕えられた方がマシな生活を送れたのではないか、そんな風に思ってしまうほど。
だが、それでも私はそこまで堕ちても必死に逃げ続けた。
頭にあったのはただ一つ。
ライムが私を待っているというそのことだけ。
今彼女がどうなっているのか、そんなことは私は知らない。
だが、私と結ばれたいという彼女の心を無視して強引にことを進めるような奴らがライムにどんな下卑た感情を持っているのか、それは想像に難くない。
だから私は決めた。
確かに今の私は罪人かもしれない。
それでもライムは私を選ぶ。
選ばなければならない。
だから彼女を迎えに行く為に今は必死に泥を啜っても逃げ切ろうと。
そう決めた私の周りには一切味方は存在しなかった。
だがそれでも私は孤独ではなかった。
自分のをライムが思って待っていてくれる。
そう考えるだけで無限の力が身体の底から溢れてきた。
そして等々この日が来た。
もう、追っ手が自分を追いかけていないことを私は分かっていた。
それを入念に確かめそして行動を始めた。
今まで汚していた王子の正装の服、それを洗い干したものを取り出す。
少し窶れ、そしてもう正装としてきれないような状態になっていたが、それでもライムが分かりやすいようにと私はその服に袖を通す。
そして数少ない金銭を惜しみなく使い準備を推し進めて行く私の顔にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。
「待っていてね。愛しのライム」
最後にそう告げた私の顔には、ライムが自分を思っているという確信、いや、狂信的な光が宿っていた………
投稿遅くなって申し訳ありません。
そして今回からは少しづつ後日談というか、次回のプロローグな様なものを更新させて頂きます!
不定期ですが、よろしくお願いします!