ライム Ⅱ
英雄が、私の愛しの人が戻ってきたそう騒ぎになった時私は最初、私は動くことが出来なかった。
ただ、信じられない事態に思考が突然暴走し始めて。
さらには感情が溢れ出して。
そして気づいたのだ。
これで帰ってきたのがカルバスでなければ私はもう、一生立ち直れないと。
そう頭に浮かんだ瞬間、私は本当に帰ってきたのがカルバスか信じられなくなっていた。
そして何もかもが信じられなくなって、疑心暗鬼になっていった……
二年間、本当に長い間私はカルバスを待っていた。
人を雇い、時には自分自身の足で。
そしてそれだけでなく、私以外の人々もずっとカルバスを探してくれていた。
だが、それでも彼は見つからなかった。
世界中を探しても彼は見つからなかったのだ。
もちろん、それでも私は決して諦めることはなかった。
1人、また1人と周囲の人間は英雄を探すことを諦めていった。
そして私を、もう英雄がいないという現実を認めろと、そう諌めようとした。
だが、それでも私は諦めようとはしなかった。
絶対に生きているとずっと信じていた。
だけどもこんなタイミングで、まるでそう、私の妄想が現実になった様なそんな状況に英雄が現れることなんてあり得るのか?
そんな思考が私の頭を支配する。
英雄が帰ってきた、そう周囲が騒いでいるのがわかる。
けれども、その思考に囚われてしまった私は動けない。
今動いてしまったら、全て崩れてしまうのではないか、そんな恐怖で動くことが出来ない。
帰ってきた英雄は次々と証拠を突きつけて、国王と王子を断罪して行く。
そしてその結果どんどん私にかけられていた冤罪は無罪になって行く。
その光景はまさに英雄が私の味方であることを示していて、だがそれでも未だ私は動くことが出来ない。
帰ってきた英雄、それは私の知っているカルバスと少し違っていた。
彼は英雄という存在を誇りに思って、常に力に溢れた目をしていた。
だが、目の前の英雄の目は疲れ切っていた。
そしてその違いに私は気づいてしまって、そのせいでさらなる疑心暗鬼に囚われ私は動けない。
「ライムは俺の女だ!」
「っ!」
ーーー だがその時、カルバスの一言が私の頭を支配していた淀んだ思考を吹き飛ばした。
「っぁ、」
女性を自分の所有物だと、そんな風に叫ぶカルバス。
それは酷く強引で、そして独占欲の浮かんだ言葉。
なのに、その言葉に含まれていたのは絶対に守り切るという、深い愛情だった。
そしてその言葉に私は気づく。
今目の前で立つ、英雄。
彼は本当に自分の愛おしの人であることを。
酷く強引で、自分勝手で、なのにどうしようもなく優しい私の婚約者が帰ってきたこと。
そしてそのことに気づいた瞬間、私は立ち上がり彼へと駆け出していた。
◇◆◇
ー 本当に帰ってきてくれた!
カルバスへと駆け寄る中、私の心の中にあったのは溢れんばかりの歓喜だった。
二年間、ずっと思い続けてきたその人がようやく帰ってきた。
そのことに対する喜びか目から涙として溢れ出す。
その涙のせいで、私の視界はぼやけてしまって、だが何故かカルバスだけはそのぼやけた視界の中でも鮮明に写っていた。
どんどん近づくにつれて私はカルバスが最後に見た時よりも傷だらけになっていることに気づく。
だが、それでも彼は本当に間違いなく私のいとしの人だった。
「ライム!」
「っ!」
だから私はカルバスの元へと向かう進路上に何か人影が自分の名前を呼びながら現れた時、迷うことなく蹴り飛ばした。
「邪魔!」
そして私はその人影を下敷きにして、カルバスへと飛びつく。
「カルバス!」
一瞬、カルバスは私の行動をみて、驚愕に顔を染める。
しかし、私が飛んだことに気づくと直ぐに冷静さを取り戻し、私を抱きしめた。
そしてその見覚えのある暖かさに私の目から先程の比にならない大粒の涙が溢れ出す。
どれだけ望んでいただろうか。
もう、覚えていないほど絶望したその暖かみを全身で感じるように私は抱きしめる腕に力を入れた……




