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幻想世界物語  作者: 森 日和
双生史
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10/35

ワープ

私は今、東京のとある場所にいる。

かつてそこは私にとっての第二の人生の拠点としていた場所である。

いつか、ここで私が売れっ子漫画家になると誓い、アニメ化を誓い、安東さんに曲を書いてもらうことを誓い、思い出の詰まった、とある東京の家。

しかし、手に入れたお金で電車に乗って、胸の高まる気持ちで私がそこに行っても、愛する家は姿を見せてくれなかった。

代わりに、不気味なオンポロの一軒家がそこには屹立していた。そして、一軒家の前には、何かしらの不気味な雰囲気を醸し出している、一人の女性がいた。

夜だったのであまり見えなかったが、しばらく見ているうちに、その人のことを思い出した。

「あなたは…あの時の?」

「そうだよ〜、君も元気にしてたかい?」

神様はタンクトップもどきのような服を着ていた。十二単を見に纏うあの美しい風貌は何処へ⁉︎とは思いつつも、私は恭しく頭を下げることにした。

「はい元気です。しかしあなたは、奈良にいるはずでは?」

私が質問すると、彼女はにんわりと顔を歪めた。そして、まるでその質問を待っていたかのように、私の方へと詰め寄ってきた。

「確かに、本来私は東京にはいないし、東京に来る予定ならばあったけど、今回はちょっと用事が入ってね。予定を早めてここに来たんだ」

「用事…ですか?」

「うん」

次に、彼女は本来私の家があったはずの、オンボロな建物へと指を向けた。

「少しね、空間の歪みが発生してしまったんだ」

私はよく分からず、しばらくは漠然と美しい顔を眺めていた。ぼうっとしていたのだ。

「空間の…歪みですか。それはまた常人にはとても理解しがたい問題です」

私は話が理解できずに頭の中で縦横無尽に右往左往していたのだが、彼女はそんな私の心中を察してくれたかのように、優しく微笑ましい莞爾の笑みを浮かべてくれた。

「それでいいんだ。ますかけ酒を飲んでるのだから。とにかく今は人手が欲しいの。さ、早く」

そうして私たち二人は、オンボロな建物へと入っていくことになったが、側から見ると、ただの怪しい二人の女子高生ぐらいにしか見えなかったであろう。

「ところで、なぜここで空間の歪みが?」

私は些細な質問をしたつもりであったが、彼女は真剣な顔で答えてくれた。

「君という存在がいるからね」

「え…⁉︎」

「いいや嘘、本当は私が発生させたの」

私は彼女にとって、全くの予想外な顔をしていたのだろう。彼女の顔が、やや慌てていた気がした。

「びっくりしました……では質問を変えます、なぜここに発生させたのですか?」

私の立ち直った質問に、彼女はまた微笑ましく答えてくれた。

「君が絶対、来るであろうところだったから」

「なるほどです!」

ぶっきらぼうに返事をしたが、無論それは友好のために。

私たちは顔を見合わせた。

「それでさ……あ、そうそう、これ持ってくれないかな?」

私たちはまだオンボロな建物の中にいる。暗くてよく見えないものの、彼女から、これから何をするか、などの具体的な説明を受けていた。


「要するに、別空間へと行くためのゲートが、約一時間前に東京のどこかで消えてしまったと……」

「そう、というわけで、これを持ってくれないかな?大事なものだからね」

彼女から渡されたのは、何やら怪しげな重い鞄であった。

「開けて、見てみる?」

「いいんですか?」

神様に唆されて私は鞄の中身を露わにさせた。そしてその中身とやらを開けて見て、途端、私は目を剥いた。

「こ……これは⁉︎」

大量の福沢諭吉が、そこにはあったのだ……

私は言葉も出なかった。

「それは別空間へと行くために必要になるの。それはそうとして、そろそろ時間よ、準備はいい?」

正直なところ、話が急降下して私は全く追いつけていない。しかしそんな私でも分かることがある。おそらく準備とは…私も連れて行くつもりなのだ。

念のため、聞いてみた。

「準備って…私も行くのですか?」

すると、神様は至って真顔で答えた。

「当たり前よ。幻想世界の危機なのだから」

私にとって、幻想世界というまた訳のわからない単語が飛び出してきたのだが、神様の真顔での応答に、私は何故か安心することができたのだ。つまり、私の心の中に、ほのかに決心と覚悟が生まれたということでもあるのだ。

「時間よ、取り敢えず札を周りに散らばせて欲しい」

「あ、はい」

鞄の中の一万円札を、まるで大富豪になった気分で、私は床にぶち撒けた。面積でいうと電車二両分かその位、それほど広い部屋であるはずが、札により床が見えなくなった。

「これで…いいんですか?」

半ば私が半信半疑で聞いたところ、神様はとても笑顔で答えてくれた。

「いいよ。さて、行きましょう」

彼女が私に手を伸ばした。

「はい」


次の瞬間、無数の一万円札が東京の夜空を舞った。それを見て、私はようやく先刻遭遇した、神様の恵みとやらを理解することができた。


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