処分したいおばあさん
処分したいおばあさん
突然、雨が降ってきたので、私はとりあえず雨宿りをしようと、近くのお店の軒先に避難したんです。
そこは写真屋さんでした。
写真屋さんの前では、おばあさんが一人、写真を手に持って、なにやら困った様子で立ち尽くしていました。
雨宿りで手持ち無沙汰だったもので、私は「どうかしたんですか」って、話しかけたんです。
すると、おばあさんは、一人のおじいさんが写っている写真を見せて、言いました。
「これをどう処分したらいいか困ってるの」
写真ってちょっと処分しにくいでしょう?
確かにそれは困るな、と思いながら、提案したんです。
「写真屋さんに引き取ってもらったら」
「ちょっと人様に任せるのはねぇ……」
めんどくさい人だなぁ、と私は内心思ってしまいました。
「では、燃やしてしまえばどうですか?」
ちょっと投げやりに言った提案を、おばあさんはこの案が気に入ったみたいで、「そうね。そうするわ」と、満足そうに、うなずきました。
ちょうど煙草を吸うのにライターを持っていたので、貸してあげたら、おばあさんはその写真に火をつけて燃やしました。
そろそろにわか雨が上がったので、おばあさんに、「じゃあ」と、声をかけて写真屋の軒先から離れようとしたとき、おばあさんに呼び止められました。
「今日はありがとう。もう一つお願いしていいかしら?」
* *
後日のことです。新聞に目を通してたら、社会欄に見覚えのある顔が写っているのに気が付きました。
それは、おばあさんが燃やした写真に写っていたおじいさんでした。
その記事は、そのおじいさんが焼死体で見つかった、という事件を伝える記事だったんです。
私は血の気が引く思いでした。
おじいさんが焼死したことだけではありません。
あの日、最後におばあさんは、私にこう言ったんです。
「今日ここで会ったのも何かのご縁だから、あなたの写真を撮らせてもらえないかしら?」