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一騎当千の災害殺し  作者: 紅十字
第一章 始まりと終わりの道化
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第9話 放課後に集うルーキー

 第四会議室に集まったのはたったの十人だった。

 千風と誠、それに緋澄やイザベル、蓮水といった千風のクラスの中心人物、あとは生徒会のメンバーの五人だ。

 それもそのはず……放課後の、加えて二時間ほど経過したこの時間帯にいる生徒の方が異常なのだ。


 普通の生徒であれば、授業が終わればすぐにでも家に帰り、予習復習に励み、プロの魔法師から戦闘の指南を受ける。そうでもしなければ、この学校で成績を維持し続けることは難しいのだから。


 よってここにいる者は、それを必要としない者か、気絶して寝ていた馬鹿か、単なる暇人か。一つ言えるとすれば、少し余裕のあるロクでもない人間ばかりだ。


「ええっと、集まったのは十人ね……意外と集まった方かしら?」


 千風の面接試験の時にいた、担任の女教師がこの場にいる面々を順に見ていく。


「あの……佐藤先生、今回のカラミティアの攻略難度は……」


 緋澄が担任に攻略する上で最も重要なことを聞く。

 攻略難度とはその名の通り、カラミティアを討伐する際の難易度を示す。ランクが高ければ高いほどカラミティアの戦闘の能力が高く、死ぬ確率だって高くなる。


 一般にランクは大きく分けて三つ存在し、上から神獣型(インフェルノ)幻獣型(アビス)亜獣型(エラー)


 この三つそれぞれにレベルがあり、亜獣型(エラー)は1〜7、幻獣型(アビス)は8〜14、神獣型(インフェルノ)は15〜20となる。


「そうね。ここにいる面子なら、幻獣型(アビス)ぐらいなら倒してしまいそうだけど……今回の相手は亜獣型(エラー)、レベルは5といったところかしら? あなたたちなら、誰も死なずに帰ってこれる難度じゃないかしら?」


「そう、ですか……」


 ホッと見るからに表情を和らげる緋澄。そんな彼女を見たからだろう、皆の緊張感もいくらか和らいだ。


「話を続けましょうか先生。今回のカラミティアの特徴は?」


 生徒会の一人が質問をする。彼の制服の所々に緑の線があることから、その男が三年だとわかる。

 この場にいる生徒会は全員三年生だ。


 ちなみに名桜学園では、赤が一年。青が二年である。


 三年生ともなれば、ほぼぼぼプロに等しい。戦闘経験も高く、ここまで生き残ってきた実績もある。そのチカラは大いに信頼できる。


「気象庁のデータによると、体長は六メートル。平均的なカラミティアより少しばかり大きい……ただその分、動きは遅く集中していれば攻撃を受けることはないわ」


「大きいとなると、装甲が硬そうですね。物理的ダメージは薄い……なら、魔法による大規模な破壊は必須」


 続けるようにもう一人の生徒会メンバーが答える。


「ですね。この中で高範囲魔法を扱える者は何人いますか?」


 それに、緋澄と蓮水。それから、生徒会の人間が二人手を挙げた。

 メガネをかけた書記の少女が作戦をまとめた。


「なるほど、それでは我々生徒会と一年生の二手に分かれて攻略を始めましょうか?」


 だがその提案に緋澄が反対する。


「ちょっと待ってください! 私たち一年と生徒会の人たちでは戦力にあまりにも大きな差が……」

「そうかな? 確かに君たち一年生はまだ実践経験も少ないかもしれない。けど、君たちの名はよく聞くよ。一年生の中でもずば抜けて強い奴らがいるってね。現にそこにいる蓮水君は生徒会に入れるだけの力を持っている」


「それは……そうですが」


 緋澄はなにやら言いよどむ。

 話に割り込むように手をあげる千風。


「待ってくれ。話が一向に見えてこねえんだが……。俺の知らないことをベラベラ喋られても困る……」


 緋澄はうんうん、全力でうなずき始めた。若干目が泳いでるような気もしなくもないが。


「そ、そうよ。彼は昨日転入してきたばかりなの! まだよくわからないことも多いだろうし、私たちだって彼の実力がどの程度かなんて……」


 ちょっと待てと蓮水が割り込んでくる。


「いーや、それは違うね。こいつはまぎれもない雑魚だ。僕の蹴りを避けれない奴なんて初めて見たよ」

「アンタは黙ってなさいよ! だいたいアンタの蹴りを避けれる奴がそうそういたら、私が困りますがっ!?」


 キレ気味に目を見開き、イザベルに救いを求める。

 やっぱりこいつはポンコツなんじゃないか? そんな疑問を浮かべる千風を尻目に、イザベルは答えた。


「しかしですね、お嬢様。わたくしとしても蓮水の意見に賛同するほかありません。さっき転入生さんを襲撃した際、彼は全く反応を示しませんでした。あれは辻ヶ谷君なら、反応できてもおかしくはありません」


 むしろ、誠ほどの者なら反応して当然と、反応せざるを得ないとイザベルは答えた。


「なら、なおさら! 素人同然の転入生を抱えたまま戦うほど私たちに余力なんてないじゃない!? それに私たちは基本的に一緒に戦ってきたこともないし……。即興のチームで連携が取れるとも全く思えない」


 緋澄の言うことは正しい。

 カラミティアとの戦いはチームワークが物を言うといっても過言ではない。それも学生だけによる戦闘だ。プロに実力ではるかに劣る分、チームワークでそれを補うのは最も重要と言える。


 単騎で乗り込んでぶっ倒せるほど、カラミティアは甘くない。

 そんな芸当ができるのは極小数の魔法師だけだ。


 その点で言えば、この一年五人の即興チームは最悪だ。クラスで対立する三つの勢力。そのリーダー三名。加えて千風という素性の知れない初心者同然の転入生。


「この面子でどうチームワークを取れと? 馬鹿馬鹿しいにもほどがあるよ」


 蓮水が鼻で笑う。


「ん? 君たちと我々では転入生に対する捉え方に大きな差があるみたいだね。彼が弱い? そんなわけないじゃないか!」


 生徒会の副会長だろうか? 彼には他の生徒会にはない、襟のあたりに特殊な徽章がつけられている。

 その男の口ぶりは、まるで千風の正体を知っているみたいだ。


 だがそれなら、なぜこの男は知っている? 千風が知る限り副会長との接点はゼロだ。なら、校内で知らない内にヘマをやらかし、それを偶然見られたとか? あり得ない。


「それはどういう意味ですか? 天王寺副会長?」


 誠の疑問に天王寺は小さく頷いた。


「そうだね……君たち生徒は皆、生徒会長の姿を見たことがない。違うか?」


 それに、この場の雰囲気が一気に変わる。生徒会長というワードは禁句なのだろうか?


「はい、確かに俺たちは生徒会長の存在を“物凄く強い二年生”といった噂でしか認識できていません。その実、本当に存在しているのかさえあやふやです……でも、それと千風が強いということと、一体何の関係があるのですか?」


 天王寺はチラと千風の方を見て、


「誠君の認識は概ね正しい。彼の正体を知るのはここにいる生徒会メンバーと、少数の教師陣。そして――如月千風、君だけなんだ」


 間を開けて話した事実に一同の視線が集まる。驚嘆、興味、怒り、嫉妬……様々な感情のうずまく色めきだった視線を前に、千風は平然と一言。


「それがどうかしたのか?」


 思ったことをそのまま口にした。


「ふふ、やはり君は興味深い。会長が気にするのも無理はない」

「何が言いたい?」

「君は知らないかもしれないが、会長が生徒に姿を見せることは、まずない。そもそも、彼は今二年だ。当時一年の頃、前生徒会長――二年で会長を務めていた僕の親友を軽く下し、生徒会長になった。この学校では生徒会という組織は代々学年を問わず、強い者上位六人で構成されてきた。必然、上級生である三年が生徒会に着く。それを、僕の親友は二年にして生徒会長の座に着いたんだ。この意味、わかるよね?」


 ここまで説明してやったんだ、理解しろよ? と攻撃的な視線を向ける天王寺。

 つまり天王寺はこう言いたいわけだ。


 二年にして生徒会長を務めた例外中の例外である、天王寺の親友を一年が容易に上回った。例外中の例外であったにもかかわらず、それを圧倒してしまうほどの逸材。それが、天王寺が言う、現生徒会長だ。おそらく、他の生徒とは格が違うのだろう。


 千風自身、その生徒会長と対峙したからこそわかる。正直言って、あの強さは異常だった。

 そしてその会長が目をつけた千風が弱いわけがないと、目の前の男は言っているわけだ。


 まずい、これは非常にまずいことになった。今の話が本当なら千風のだいたいの実力がバレてしまっている可能性が高い。

 千風の首筋を冷や汗が伝う。


 ――どうすればいい? まさかこんな形でボロがでるとは……。いっそのこと消すか? いや、それこそ敵の思うツボだ。「自分から私は強いです」って主張するような者だ。だが、それならどう言い逃れる?


 千風がこの場を打開する策を生み出そうと深い思考にどっぷり浸かっていると、思わぬところから救いの手が出された。

 パンパンと手を鳴らしながら担任の佐藤が言ってくる。


「はいはーい。みんなして千風クンを虐めないの! ほらー彼すっごい困ってるじゃない? 今考えるのはそんなことじゃない。カラミティアを倒すにはどうするか、でしょ?」


 誠もすかさず千風のフォローに回る。


「そうだよ! 今話さなきゃいけないのはカラミティアにどう対処するかのはずだ! 千風のことは一旦、後回しにした方がいい」


 天王寺がわざとらしく咳払いをした。


「佐藤先生と誠君の言うとおりだね。この場を任された身として申し訳なく思う。気がつけば……僕が場の空気を乱していた」


 すまないと頭を下げる。

 意外と話のわかる奴みたいだ。

 結局、カラミティア討伐は一年チームと生徒会メンバーの二手に分かれて行われることになった。

 話し合いは終わり、屋上にある軍用ヘリを使ってカラミティア討伐に向かう。


 その足取りを拒むように佐藤が、千風を呼び止めた。


「そうそう、千風クンはここに残ってくれる? 話があるから」


 行け、と誠に目配せで合図を送る。察しがよく、静かにうなずくと扉を閉めてくれた。


「で? 話ってのは、なんだよ?」

「あなた、どうしてウチのクラスの子達に実力を隠しているわけ?」


 やはり、その話か。千風はあからさまに嫌な顔をする。

 佐藤の疑問はもっともだ。なにせ、千風は彼女の目の前で同僚である二人の教師を再起不能にしたのだから。


 そんな千風が、優秀とはいえそこいらの生徒には遅れをとるはずがないと、推論を立てることはそんなに難しいことではない。

 だからその疑問は至極当然と言えるだろう。問題は佐藤が千風の話題が上がった時に話を逸らしたことだ。

 千風を庇ったとも捉えることのできるその行動は、今の佐藤の疑問とは大きく矛盾していた。


 本当に答えが知りたかったのなら、あそこで千風を庇う必要はなかった。庇うこともなければ、その理由は自ずと知れる可能性があった。それなのに、庇う必要がなかったのに……。


 であれば、別の理由があるはずだ。例えば逆に庇う必要性があった、とか。

 じゃあ、彼女がそうせざるを得なかった理由とはなんだろうか? まさに今、この状況を作り出すことこそが、佐藤のしたかったことではないだろうか?

 そこまで考えると彼は一人ふむとうなずいた。


「本来、質問に質問で返すのはあまり良くないことだ。けど、この場においてはそうでもない……か? 結局のところ何が知りたい?」


 佐藤はわざとらしく驚いて見せ、千風に拍手を送る。


「あら? 意外と頭の切れる子みたいね? あなたみたいな子嫌いじゃないわ――」


「御託はいい、要件を話せよ。そのために俺を呼び止めたんだろ?」


「そうね……それじゃあ――あなたの背後(バック)には何がいるのかしら?」


 あまりにも馬鹿げた問いだ。わざわざ自分の所属を明かす奴がどこの世界にいる? 荒唐無稽にもほどがある。


 佐藤の言動は千風を試している。

 適当な組織を名に上げるのも悪くはないが、これまでの会話から、佐藤が頭の切れる人間だということは間違いない。即答すればそれこそ、嘘だとすぐにバレてしまう。


 であれば、相手の出方を伺うのが得策だ。


「答えると思うか?」


 佐藤は満足気に笑う。


「ふふふ、合格ね。即答せず、なおかつ組織に所属する事をほのめかす。ここからは先生の独り言だから、聞き流しても構わないわよ?」


 そう言うと佐藤はつらつらと企業名と組織を挙げていく。


「緋澄重工、ヴィーナス製薬、C.I.、気象庁、輝闇(きやみ)……」


 どれも、日本にいて知らない者はいないとされるほど強大な力を持った組織だ。


 ただ一つだけ、千風の聞いたことのない名があった。


 知らないとなると、佐藤の戯言か……よっぽどマニアックな組織なのだろう。


 ――いずれにせよ、キヤミについては調べる必要がありそうだ。


 千風が今後の方針について考えていると、佐藤の瞳が蝋燭の火のように揺らいだ。


「……驚いた、どの組織に対してもまるで反応がない。あなたの力ならこれくらいの場所には所属していると思ったのだけれど……先生の思い違いかしら?」


 千風としては六年ほどプロの魔法師と同じ現場をくぐり抜けてきた実績がある。今さら、初歩的な誘導に惑わされる訳にもいかない。


「嫌だな〜先生、あまりにも俺のことを買いかぶり過ぎじゃあないですか?」

「白々しいわね、そこまで隠さなくてはいけないことなのかしら? そう、例えば――」


 千風はここで一つ、仕掛けてみることにした。


「あまり、人様の事情に首を突っ込まない方が身のためですよ? 先生もまだお若い、東先生……でしたっけ? 先生もあんな風にはなりたくないでしょう?」


 佐藤の瞳に微かだが、怒りの色が宿る。東とやらと同類にされてムッとしたのだろうか?


「それは、私を東先生と同じ風に出来ると言ってるのかしら?」

「真剣にしないでください。かわいい顔が台無しですよ? ……先生の言う、“例えば”の話じゃないですか? 俺に先生をどうこうするだけの力はありません」

「それを私に信じろと? まあ、いいわ。あなたが本当に肝が据わっただけのちんちくりんなら、帰っては来れないでしょ? その態度がいつまで続くかしらね?」


 話はおわり、と言わんばかりに顎で入口を指す。

 肩をすくめ、首を振る。


 屋上から大きな物音がする。どうやら、ヘリが到着したみたいだ。


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