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一騎当千の災害殺し  作者: 紅十字
第二章
59/64

第59話 吸血鬼

 迷宮の最奥。

 つまりは、災害の大元となるバケモノがいる場所。


 瞼が焼かれるような痛みに耐えながら、千風はその奥に潜む影を捉えようとした。



 彼の眼前には、無限に広がっていると錯覚していしまうほどに広大な空間があった。

 空間の中央にぽつりと、玉座のようなものが置いてあり……。


 そこに人影のようなものが見えた。



「おや? また、誰か来たみたいだね?」


 そうバケモノが、人の言葉を()()()

 流暢に、場所が場所なら、人間として接してしまいそうなのほどに、違和感がない。

 その違和感のなさが、千風に例えようもない気持ち悪さを植えつけた。



 バケモノが人の言葉をしゃべることなど、普通はない。

 つまり、今目の前で起きていることは異常なことで。


 その異常なケースを千風は知っていた。


 高位の災害因子。

 具体的に言えば、神獣型(インフェルノ)

 ここに在ってはいけないはずの存在。

 難度15などでは到底表せないほどの強さを内包した、正真正銘の災害。


 ひとたび発現してしまえば、都市のひとつが吹き飛んでもおかしくないほどの厄災を振りまくバケモノだ。



「お前、吸血鬼か?」


 そう発した声は震えていた。

 平静を装ったつもりだが、これでは怯えていることが手に取るように分かってしまう。


 ニヤリと、およそ人間の美貌とは思えないほど精緻に作られた吸血鬼が嗤う。

 楽しそうに舌なめずりする姿にさえ、畏怖と同時に息を漏らして感動してしまう。


「へえ……どうやら君はワタシを知っているようだ」


 新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに、両手を大げさに掲げる。

 それでいて、物腰が柔らかく、落ち着いた雰囲気からは圧倒的なまでの圧力を感じた。



 最悪の相手だ。

 吸血鬼は災害因子の中でも上位に食い込むほどの厄介さを持つ種族。

 単純な身体能力でさえ、個体差はあるものの、人間の六倍はくだらない。


 そして、目の前の吸血鬼は人語を話し、人間離れした美貌を持つ。

 吸血鬼のなかでも高位の存在であることは間違いない。




 吸血鬼の腕の中には眠ったように動かない、藤堂の姿があった。

 彼女はすでに吸血鬼によって殺されてしまっている。




 それを泣きながら見つめる飛鳥と誠。

 全身傷だらけだが、二人とも無事のようだ。


「気になるかい?」


 視線を感じ取り、笑う。


「そりゃあ、そいつらを救うために俺はここにいるわけだし」

「はは、面白いね君。生身で吸血鬼に敵うはずのないニンゲンが、魔法も使わず……どうやって彼女たちを救うというのかな?」


「なっ――!?」


 確信をついたのか、はたまたブラフか。

 真相は分からないが、吸血鬼に魔法が使えないことは、不意打ちとも言える発言のせいで露呈してしまった。


 そして、それは飛鳥たちにも伝わってしまう。


「驚いたかい? 別に不思議なことなどないさ。ワタシには魔力の流れが見える。けれど、君の身体からは魔力の奔流が全く感じられない」




「――始祖か?」


 ぴくりと、吸血鬼の片眉が動く。

 機嫌を損ねてしまっただろうか?


「まあ、そう気を張らないでもいいよ。今すぐ取って食おうってわけでもないしさ?」


 その言動には節々から、強者ゆえの余裕が感じられる。

 実際そうなのだろう。

 ここにいる三人は、吸血鬼の前では羽虫にも満たないクズ同然の存在だろう。


 どう足掻いたところで戦局は変わらない。

 そう、うなずかせるだけの力を、目の前の吸血鬼は持っているのだ。


 完全に手詰まりだった。

 チェックを掛けられている。

 残された手は限りなく少なく、そのどれもが次の一手で潰えるモノだということを千風は理解していた。


 だからこそ、千風は動かない。

 動いてしまえば、それで全てが終わってしまうから。


 こうして、吸血鬼の話に乗っかって時間を稼ぐだけしか、千風には残されていなかった。



「君は始祖を知っているようだ。どこかで見たことがあるのかな?」

「いや、実際に目にしたことはない。ただ、話に聞いていただけだ」

「いいね、その態度。ワタシが始祖だと知ってなお、平静を保とうとする。大した度胸だよ」



 家畜を見下すような、上からの物言い。

 だが、そんなことに今さら腹を立てている余裕など、千風にはなかった。


 彼の脳内では今でも、どうやれば二人を救えるか、その解決策だけが巡っている。

 どうにかして二人を助けたい、その一心で。


「ニンゲンは強欲だねえ。こんな絶望的な状況でさえ、誰かを助けようと必死で考えてる。ワタシには分からない感情だ」

「それを笑いながら見てるあんたは悪趣味だな。今すぐにでも俺たちを殺せる力があるんだろ?」

「そうだね。でもそれはしない、ナンセンスだからね。吸血鬼は寿命が長いんだ。簡単には死ねない。だから、刺激が欲しいんだ」


 それこそ千風には理解しがたいものだ。

 力を持つモノの考えなど、理解したくはない。

 いつだってこの世界は強者が正義で、弱者はそれに泣きながら従うしかないのだから。


「なら、どうする? 俺たちを死なない程度にいたぶるか?」

「それもアリだけど……それじゃあ長くは遊べないよね? 言っただろ、ワタシは暇つぶし――がしたいんだ」


 口調が心なしか汚くなった気がした。

 しかし、依然として吸血鬼に動くような気配はない。



「この二人、見逃してあげようか? もちろん、君が条件を飲むようなら、だけど……」

「条件は?」

「早いねえー。その見境のなさ。藁にもすがる思い、嫌いじゃないよ。条件はそうだね――君の命と引き換え、なんてのはどうかな?」




「分かった」

「はは、その言葉に嘘偽りはないとみた。その目は覚悟したヤツが見せるモノだからね。良いよこの二人は解放する」


 吸血鬼の腕が霞む。


「きゃあ!?」

「うわ!」


 短い悲鳴が聞こえる。

 それは、吸血鬼によって二人が投げ飛ばされた証拠だ。


 千風のすぐ隣に飛鳥と誠がいて。

 二人の姿を近くで見られるだけで千風は満足だった。

 たとえ、ここでこの命が潰えることになったとしても。


 二人が、そしてイザベルが。

 三人がこれから先の人生を笑って過ごせるなら、それで……。

 千風に迷いはなかった。

 最期の別れを惜しむように、ゆっくりと瞳を閉じると。



 千風は優しく飛鳥を抱き寄せて。

 耳元で小さく囁く。


「悪いな、飛鳥。今度ばかりはどうにもならねえわ」


 満面の笑みでそう笑って。

 泣きじゃくる飛鳥の髪を優しく撫でると、静かに引き離した。



「誠、お前には世話になったな。編入してきた俺を歓迎してくれていたのは、お前だけだった」

「やめてくれ、千風。そんな話が聞きたいんじゃない。お前なら、この状況でもなんとかできるんだろ?」



 期待のまなざしを向ける誠。

 しかし、千風はその期待を裏切るように首を振って、否定した。


「今回ばかりはどうにもならねえ。これは俺の未熟さが招いた結果だ。覚悟はしてる、魔法師なんていうのは、初めからこういうもんだろ?」

「じゃあ、なんで俺なんかを救いに来た!」


 怒りの混じった叫びが、爆発する。

 千風はいつも、誠や飛鳥には相談せずに行動してばかりで。

 そのたびにイザベルなんかも怒ったりしていた。


 走馬灯のように、今まで過ごしてきた学園生活が脳裏をよぎる。

 こいつらと過ごしてきた日々は幸せなモノで。

 些細なことで笑い、くだらないことで喧嘩して。



 これからもそんな日々が続くと思っていた。

 けれど、それは幻想で。

 やはり、千風たちが住む世界というのは、いつだって死と隣り合わせなのだ。


 今回はたまたま千風が選ばれた。

 それだけの話に過ぎない。


 そう、まるで他人事のように、自分の死――運命を受け入れようとしていた。



「はは、自惚れるなよ。飛鳥を助けに来たついでだよ、ついで」




 ついでな訳がなかった。

 誠は親友だ。

 誰よりも側にいて、肩を並べて戦っていきたい、とそう思えるようなヤツで。

 良いやつで。バカで、ムカつくほどにイケメンなヤツだ。

 だから、救いたい、死なせたくない。生きていて欲しかった。




 そんな千風の気持ちが届いたのか、


「馬鹿だよ、千風は。お前がそんな風に思ってないことなんて分かってる。俺が千風に対して抱くものと同じモノを、千風は俺に対して持ってるだろ?」

「勝手に想像するな。だからお前はキモいんだよ」



 千風は笑う。盛大に笑った。

 こんなやりとりができるのもこれで最期かと思うと、少しだけ悲しくなってきて。


 それでも、二人を救うと――二人のこれからに思いを馳せたいと思ったから。

 だから、これから先の道に千風の存在はいらない。

 三人で幸せに過ごして生きくれれば、それで彼は満足だった。



「そうだ誠、これ」


 思い出したように千風はポケットから一枚のカードのようなものを取り出した。

 それは、エリカの形見で。彼女が魔法師として承認されたライセンスだった。


現実(あっち)に戻ったら、エリカさんの知り合いに渡してあげてくれ。それしか残せなかったけど、ないよりはマシだと思うから」


 誠はそれを受け取る。

 受け取ることしかできない。



 それを見届けた吸血鬼の体躯が爆ぜた。



「があっ!?」


 首を捕まれたまま、千風は壁に叩きつけられて。

 思わず意識が飛びそうになる。


 片腕だけで千風の身体は簡単に浮いてしまう。


「もう、良いかな?」

「ああ、最期にあいつらが無事にここを去るのを見届けさせてくれ……」



 つまらなそうに、吸血鬼は二人の姿を見て。

 千風はうなずく。

 千風に視線を送る二人に、早く行けと。


 楽しかったと。

 そう、アイコンタクトを送って。


 それを最期に飛鳥と誠は、災害迷宮から泣きながら姿を消した。








 ***
















 氷室が病室を飛び出し、災害迷宮へ向かっている頃――。

 武道館の前で二人の男女が話していた。


 女性の方はローブのようなものに身を纏い、なるべく顔を見られないようにしながら、隣の男に話しかける。


 彼女はマキノ。

 彼女時枝玄翠の秘書を務める魔法師。

 現代において最強と謳われる時枝の秘書を務めるのだ。

 彼女もまた、その身に人間とは思えないほどの力を宿していた。


 そんな彼女が優しく笑う。

 その笑みは何処から見ても二十台の美女が笑うようにしか見えなくて。

 マキノの美貌に男は少々照れているようだった。


「久しぶりね空くん。あなたが気象庁に配属されて二年かしら?」

「いやですね、マキノさん。忘れちゃったんですか? ボクが飛ばされたのは千風のやつが【十二神将】になってすぐですよ?」


 千風と、そう口にした男――空は少しだけおどけた態度で笑って見せる。

 空は千風の正体を知っている数少ない人間のうちの一人だ。

 彼もマキノと同様にローブを羽織っている。


 黒に赤のラインが入った軍服は気象庁特有の制服である証。

 その胸ポケットには動物を模した――銀の徽章がつけられている。



「まあ、何だっていいわ。空くん、任務内容は把握しているわよね?」

「興味なしですか……別にいいですけど。確かここにアリス、梅花学院の生徒会長がいるだとか?」


 年甲斐もなく、拗ねた子供のような表情を浮かべながら、空は呟く。

 しかし空の容姿は年齢に比べればかなり若い。

 職場では空のことを狙う女性職員が何人かいるわけだが、それを彼は知らない。




 今回空が受けた任務は、アリスの殺害。

 それも、時枝から書状が届くという異例の任務である。

 今まで殺人を依頼されたことは何度かあったものの、まさかその対象が学生になるとは思いもよらなかった。


 そしてアリスの殺害に対して、時枝の秘書であるマキノも任務に配属されるとなれば、その重要性と危険度は計り知れない。


 アリス。

 資料に目を通す前からその名は知っていた。


 神代・E・天音(あまね)

 時枝と同じく日本を代表する魔法師の一人。

 気象庁の最高責任者であり、時枝に意見できる唯一の人間だとも言われている男。

 その娘がアリスなのだ。


 空直属の上司にあたるのが天音であり、本来であれば上司の娘を殺害することなど考えられない。

 天音から直接制裁を受けたって何ら不自然などない。

 しかし、天音から空に対して指示がきた形跡はない。

 彼ほどの男が、時枝が娘を殺害する計画を画策していることを知らないわけがない。


「黙認、ですかね?」

「どうかしら? あの方々の考えが一般人に理解できるとは思えないけれど」


 ――それもそうだ。


 軽く首肯して、空は眼前の人々を睥睨(へいげい)した。

 人で溢れている。

 今日は国民的アイドル月影陽のコンサートが開かれるらしく、その賑わいはかつてないほどのものである。




 空は五年前、つまり気象庁に配属されるまではC.I.に務めていた。時枝のことはある程度知っているし、それなりに千風とも関わりを持っていた。

 時枝と共に災害迷宮に挑んだことも普通の人よりは多いだろう。


 時枝は人の死を嫌う。

 無差別に、何の意味もなく、失われていく命に苦痛を覚えるのが、時枝だ。

 人を殺すのが嫌いで、人の笑顔を見るのが何よりの幸せだと言わんばかりの、絵にかいたような聖人。

 そんな彼が、むやみやたらと殺害という言葉を使うはずがないことは知っている。



 だからこそ、神代アリスには何らかの裏があるのだ。

 それも時枝が気に掛けるほど――それこそ、日本……はたまた世界に影響を及ぼすほどのナニカが。


 だから、殺す。そうなる前に。

 多くの人の命を奪うなら、たった一人の命を犠牲にできる。

 それがたとえ、天音の娘だとしても……。

 そういうことだろう。



 事前に目を通した資料では、アリスは一年にして梅花学院の生徒会長を務めるスーパーエリート。

 天音の娘として恥じないほどの実績を残している。

 加えて、中学時代には名桜杯において優勝した経歴も併せ持つ。

 それ以外の情報はほとんど無に等しいほど、微細なものであるが。



「なんか、物騒な時代になりましたね……」

「これ以上そうならないようにするのが、我々仕事でしょうに」

「まあ、そうですけど」


 それでも。


「人を殺すことに対して抵抗がないわけではないんですよ?」


 空の悲し気な瞳には人々の往来が映る。

 現実世界にいながら、自分だけ別の世界にいるようなそんな気持ちに襲われながら。

 空はマキノに視線を戻す。


「そろそろ時間です……行きましょう」

「ええ」


 マキノが頷いた時だった。


「あの――!」


 前方から全速力でこちらに向かってくる影を、二人は捉えた。


 白いローブを羽織り、黒の軍服に身を包む少年と少女。

 見るからに同業者――魔法を学ぶ生徒であろうことは分かった。

 制服の特徴からして名桜学園の学生だろう。


 少年の方は身長が高い。

 短めの茶髪の間から覗く瞳からは焦燥のようなものを感じられた。

 整った顔立ちには脂汗を浮かべ、尋常じゃない雰囲気を醸し出している。


 赤髪のポニーテールの少女も同様だ。

 幼い顔はくしゃくしゃで、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていた。


「助けてください!」


 少女が叫びにも近い声音で泣く。

 見た目は中学生ぐらいにしか見えないが、名桜学園の制服を着ていることからも彼女たちが一般人とは違うことは分かっていた。


 そんな彼女たちが、泣いたり、焦ったりする理由など限られてくる。



「どうされました?」


 分かっていてもそう、尋ねた。

 務めて優しく、マキノは語りかける。

 そうすることで彼女たちが落ち着くように。


 少年がマキノの眼前にカードを突きつけた。

 それは魔法師が持つことを許された証明書ライセンスだ。




 茶髪の少年は、これを見れば分かると言わんばかりに訴えかけてくる。

 口元を一文字に引き結んだ様子から、何が起きたかの容易に推測できた。


「――死にました。俺たちを助けて、エリカさんたちは」


 瞳が揺らぐ。

 ライセンスの写真に写りこむ姿はマキノの見知った人間で。


「エリカ……?」


 少年から告げられた一言がマキノは信じられなかった。

 エリカ。その名をマキノは当然、知っている。

 知っているも何も、彼女に命令を与えたのはマキノ本人だ。


 彼女の任務も十分に理解している。

 学園側から要請された、生徒の護衛。

 そして、エリカほどの実力者であれば、今回の災害迷宮で死ぬ確率など、ほぼゼロに等しいはずだった。

 生徒の安全も十分に約束されていると、そう確信していて。


 そう思って彼女を先に派遣した。

 万が一アリスと衝突しても彼女なら対応できると信じていたから。

 エリカであれば、将来的に【十二神将】になれるだけの素質はあった。

 そんな彼女が難度15などといった低レベルな迷宮で死ぬはずがないと高を括っていた。


 だが、そのエリカが死んだのだと、少年は告げた。

 血で滲みボロボロになったライセンスが、なによりもその事実を物語っていて。


 否応なしに、マキノはその事実を認めるしかないのだ。

 エリカは死んだ。

 なら、エリカは死んだものとして今後の任務に当たらなければならない。


 エリカほどの魔法師が死ぬのだ。

 それ相応の覚悟と実力を持ち合わせた魔法師を動員する必要がある。



 マキノは一度だけ、ゆっくりと瞼を閉じて。

 すーっと深呼吸を挟むと、


「事情は分かりました。おおかた何人かの生徒がまだ、迷宮内に取り残されているということでしょう?」


 空にアイコンタクトを送る。

 空は何も言わずポケットから一ミリの厚さにも満たない、携帯端末を取り出すと、すぐに本部に連絡を取り始めた。





「ニ十分後にはボクの部下が来るそうです。それと彩里(いろり)さんも」

「そう、彩里も……」

「あの……!」


 赤髪の少女が必死の形相でこちらを見つめる。


「心配は要りません。我々があなたたちの友だちを救います」


 二人の表情が安堵と期待で入り混じる。

 少しだけ落ち着いたようだった。


「だいじょうぶ。キミたちはここにいなよ? ボクらが助けてくるから。行きましょうか、マキノさん」


 そう言うと、空の全身が青白い光で包まれる。

 魔法を唱えたのだ。

 災害迷宮に侵入するために。

 こちらとは、違う、裏の世界。

 ――【切り離された残片世界(レムナント)】へと介入するために。



 空の魔法を展開する速度には目を見張るものがある。

 その速度が故、()()()()になったと言っても、過言ではない。

 当然、それ以外の実力も並外れたものなわけだが。


 空の姿が消える。

 マキノもそれに続くようにアクセスを始めて。





「いくよ、誠! 私たちも千風を救うために、陽をとめなきゃ――」


 その直前、千風と。

 マキノがよく知る人間の名が聴こえて。




 ――そう、死にかけているのはあなたでしたか……。なら、なおさら。救う必要があるわけですね。


 マキノの口元から嘆息が漏れる。

 いつだってこうなのだ。

 どうやら彼女は厄介ごとに巻き込まれる体質のようで。


「仕方ありませんね」



 一言だけ呟いて、レムナントへと旅立った。




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