第一話
僕が産まれた世界は平々凡々としている。
平々凡々と暮らし、中学生になった。
中学生ぐらいになると世界の構造について、だいぶ理解も深まってくる。
世界の広さや社会がどのように回っているのか。
どうやら僕は、この世界での立場はあまり良くない階級に産まれてきたらしい。
色々な種族が繁栄している中、あまり、いやかなり短い寿命が全てを物語っている。
僕はヒト種。 寿命はだいたい100年ぐらいが平均的だ。
小学校の担任だった先生はエルフ族で300年は生きれるらしい。
100才でも綺麗で人気があった。 どういう訳かエルフはヒトのように、決して太ったりしない。
ヒトはこんなところでも劣っているように感じる。
獣人と呼ばれるヒト達はあまり学校には来ない。
主に肉体労働を生業としているので、中学生になる前に仕事につき始めるからだ。
彼らもまた、寿命は100年ぐらいとなる。
獣人は獣人でも、高位の獣人が存在しているが、レアなので別にいいだろう。
他にも国を動かしたりする人達の中には神と呼ばれる種族もいるんだそうだ。
同じ世界で暮らしていながら、さっぱり意味がわからない。
僕たちヒト種に課せられた運命は、神でも、エルフでも、高位な獣人でもない平々凡々なる人生が待ち構えている。
さて、大体の世界をわかってくれたかと思う。
僕の名前は綾瀬だ。 公立中学に通う15才で、まさに高校受験真っ盛り。
身長がお父さんに似て低く、スポーツは得意ではないから、所属している部活は科学研究部だ。
科学研究部には化学部、天文部、そして何故か写真部がある。
僕はカメラ部所属だ。 なぜ写真部が科学研究部なのかって?
暗室を科学研究部の連中がゲームをやるのに占有していたお陰で部室が混同され、部員も少ない事から気付いたら吸収されていた。
酷い扱いである。
写真部には部員が二人しかいない。
僕と生田君の二人で写真部を切り盛りしてきたが、新入部員は入ってきていないので、僕たちの年代で廃部は間違いないようだ。
あとしばらくは入部期間があるから、そこでなんとか新入部員を募りたいところだ。
生田君は何故かエルフ族でありながら写真部に入ってきた変わり者で、平凡なヒトである僕にたいしても普通に接してきてくれる優しい友人だ。
そんな彼とも喧嘩はよくする。
お互いに両親から受け継いできた大切なカメラがあり、ニャコン派の僕はカノン派の生田君とは口論が絶えない。
お互いにカメラを愛しているからこそ口論が絶えないのであって、お互いにそこはわかっているから、いつも気が付くと仲直りしている。
今日も授業が終わったので部室へと向かう。
部室は3棟ある校舎の最も北側にあり、1階の端にある。 要するに最も端っこで人は滅多に来ない。
部室の前の廊下は一直線で、人影があるとすぐに見える。
真ん中の校舎から端の校舎へ向かい、廊下を曲がったところで部室の前に人が立っているのが見えた。
遠くからでも一目でその人が女性であることはわかり、しかもかなり身長が高く…
白色に輝く長い髪はヒトではない、高位の存在であることは明白だった。
そのヒトは部室の前に展示してある写真に見いっているようで、少し屈んだ姿のまま、じっと写真を見つめていた。
歩いていくと、あちらも僕に気付いたようで会釈をした。
正面から見ると彼女の美しさは更に際立ち、僕の存在は彼女を引き立てるだけの役になるのは明白で、気恥ずかしさを覚えた。
こんにちは、何か良い写真はありました?
声をかけると彼女は1枚の写真を指差し、
季節を感じる素敵な写真だと思いまして。
と答えた。
その写真は去年の秋、僕が撮影した写真だった。
生田君と公園へ撮影に行った際、紅葉した銀杏の前で生田君を撮影したものだ。
景色の美しさを前に出したかったのでf8.0で撮影したので、銀杏の葉がそれとなく見えるぐらいのボケ具合で、狙った通りに撮れて嬉しかったのでプリントして展示しておいたのだ。
もちろん生田君は恥ずかしがり、それならばと僕を被写体にした写真も横に展示してある。
お互いに展示をすれば恥ずかしさも少し屈みながら薄らぐものだ。
話は戻り彼女は僕が撮影した写真を選んでくれたのが嬉しかったが、エルフでもあり美しい被写体でもある生田君を選んだのか、そのときは聞くことは出来なかった。
今日はどうかしたんですか?
ええ、写真部に入りたいなと思ったんです。 あなたは写真部の方ですよね?
えっ? 写真部に?! 本当ですか?
本当です。 3年の車田です、よろしくお願いします。
突然現れた新入部員、しかも異性が入って来たことに驚きを隠せないでいるところへ生田君がやってきた。
生田君に新入部員であることを告げると、彼もまた驚きを隠せないでいたが、お互いに喜びの表情だった事は間違いない。
初日でもあり彼女に部室を説明し、活動内容でもある写真を見せてあげた。
途中、カメラのメーカーで生田君と喧嘩になりかけたが、車田さんはオリンポス派であり、喧嘩にならずに済んだ。
彼女は家庭の都合で引っ越しをしてきた為、3年生で入部をしてきたらしい。
部活について説明をしたあと彼女は入部届けを提出して帰路へついた。
それから小一時間ほどで夕方になり、僕と生田君も帰ることにした。
驚いたね、まさかあんな新入部員が入ってくるとは思わなかったよ。
僕から切り出したが、
でも3年生じゃ廃部はまぬがれないよね。
生田君は笑いながら、少し寂しそうに答えた。
廃部は悲しいけど女の子、それもとびきり可愛い子が入ってきてくれたことで、中学校3年が明るくなるように感じた。
帰宅をすると、いつも通りお父さんとお母さん、お兄さんと4人で食卓を囲んで晩御飯だ。
今日、新入部員が入ってきたんだ。
ほぅ? どんな子だい?
お父さんの食い付きが早い。
それが、物凄く可愛い女の子なんだ。 何かの神様かもしれない。
お前がそんなに褒めるなんて珍しいな!
お兄さんも会話に食い付いてくる。
でもさー、ここまで格差を感じると情けなくなったよ。
僕なんかより背は高いし、キラキラ輝いて見えるんだ。
少し悲しくなっ…
えっくしっ!
僕が話している最中、お父さんがくしゃみをした。
少し遅れてテレビにテロップが流れてきた。
たった今、宇宙船が墜落をし、300人以上の人が消息不明になったらしい。
やだわ、お父さん風邪ひいたの?
お母さんは優しい笑顔でお父さんを気遣う。
大丈夫大丈夫とお父さんは言いながら、あんまり卑屈になるもんじゃない。 ヒトだって良いことはたくさんあるんだ。
そう言いながらまたくしゃみをした。
テレビでは消息を絶った飛行機が市街地に墜落し、大惨事に発展したとニュースになっていた。
まぁ…不幸な方々ね…。
いつも笑顔のお母さんも、少し寂しそうな表情をしていた。
ごちそうさま。
そう言い残し、僕は受験勉強に望むことにした。