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天才商人ハンネ

サーナイ伯爵領の筆頭商人ハンネからの依頼を受けて3年が過ぎた頃、シーナ達はハンネから依頼があると呼び出されていた。


「なんかさらに店がでかくなってるなぁ……」


「相当稼いでるのね」


本店兼家を眺めながらシーナとキャンベルがぼそっと呟く。そこには今の自分達の家が狭く感じることから生じる羨望の意があった。

といってもシーナ達の家は実のところ相当広い。孤児や猫が大量に住んでいるため人口密度が高すぎて狭いだけだ。


「うむ、なかなか良いじゃねえか。いい建築士雇ってやがる」


ライオネルの代わりに来たメンバーで、3年前間の間に入ったドワーフのガンテツは大きさではなく建築の腕に着目していた。もの作りに秀でた種族らしい着眼点である。



ーーーーーーーーー


「依頼人として会うのは久しぶりですね、皆さん」


以前にも増してよりできる商人らしくなったハンネが、以前とは比べ物ならないほど有名になったシーナ達に挨拶をする。


「ああ、久しぶり。んで? 今回の依頼って? また親父さんがさらわれでもしたのか?」


シーナの言葉にクックッと喉から笑うハンネ。


「違いますよ、シーナさん。親父は元気にしてます」


シーナ達によって助けられた後、リューベックはカンラージにあった自分の店を部下に譲り、サーナイ伯爵領に引っ越しハンネ達と一緒に暮らしていた。

同じく結婚相手が既に亡くなっているママネに似た年配の女性と知り合ったとかで熟年の恋に燃えていたり、1年前に産まれたハンネの子供を思う存分可愛がったりと大変楽しい生活を送っている。まさにハンネの言った通り元気にしていた。


「今回の依頼は丁度今ここに居てくださる、キャンベルさんとガンテツさんという一流の職人の方にお願いしたいと思っています」


ハンネの言葉にシーナ達は軽く驚く。


ガンテツ自身は『夜会』のメンバーであるという以外にも天才の鍛治師という側面でも有名だが、キャンベルが大魔法使いであることの他に魔法具製造のエキスパートであることを知っているのは相当珍しいからである。


「わしとキャンベルに作ってもらいてえってこたぁ……魔武器か?」


ガンテツの質問に首を横に振るハンネ。


「いいえ私が作ってもらいたいのは、空間倉庫です」


「……空間倉庫。つまり収納袋の部屋版ということかしら?」


「はい。それですね」


うねりをあげるガンテツは重々しく口を開く。


「わしとキャンベルがいたら多分作れるのう。だが空間倉庫なんていったい何に使うんじゃ? 商店で扱う物でも入れとくのか? いやそれじゃ品質がダメんなるか……」


この世界での収納袋とは字の通りただ単純に物がたくさん入るだけの袋である。またそこにに入れた物の時間が止まるわけでもない。

だから世界でも収納袋というのは大荷物を運ぶための道具でしかない。


そしてガンテツがぼやいた通り、食材だけでなく武器や防具の材料や魔物から剥ぎ取られたものもまた時間が経てば品質はかなり悪くなる。


だからこそガンテツのこの疑問はもっともなものだった。

それ故にそれを問われることはわかっていたのだろう。ハンネは即答した。


「シーナ様、以前うちの商店で商人としてご会いしたときのことを覚えていらっしゃいますか?」


この件に関しては自分は関係ないとばかりにボーとしていたシーナは突然話し掛けられたことに少し驚き、その後ハンネの言葉をかみ砕き、答えた。


「ああ……そういえば会ったな。世間話したのを覚えてるよ」


2ヶ月ほど前のことだった。

個人で受けた軽い討伐依頼を終えた帰りに食材を買いに入ったハンネの傘下の商店で、これまた偶然にも自分で視察に訪れていたハンネに遭遇し、愚痴を聞いてもらっていたのだ。


「それならば話が早いです。私はその時シーナ様に聞いた『銀行』なるものに素晴らしいものを感じましてね。サーナイ伯爵にも許可をいただき、我が商会でやってみようと思いました」


銀行? と首をかしげるキャンベルとガンテツにシーナから聞いた銀行について説明するハンネ。


「なるほどのう。お金なら空間倉庫に入れても問題ないわい」


「ええ、素晴らしいアイデアね。まったくシーナったら私たちにそんなこと言ってくれたことなかったのに」


頭の回転の早いガンテツとキャンベルは銀行の仕組みを理解し、感嘆の声をあげた。


「それで、どれくらいの大きさにするつもりなんじゃあ?」


「サーナイ伯爵領に住んでいる人が全員入るくらいにしたいですね」


ハンネのその言葉に驚くシーナ達。

サーナイ伯爵領はなかなかに栄えた街であり、だいたい2万人近くの人が暮らしているのである。それが全員入るとはどれだけ大きな規模なのかは容易に想像がつく。


「この領にある金全部集めてもそんなにないと思うけど……どうしてなの?」


キャンベルの問いに対して薄く笑ったハンネ。


「ここは《奈落》が近いですからね。もし何かあった時に人を助けられるから……ですかね」


ハンネの言葉に感心したようにうねるガンテツ。




父の人の良さを嫌ったハンネ。だがそのハンネ自身もまたリューベックのように良い商人になっていることには本人以外は気付いていた。



そしてこの銀行の金庫兼避難所が必要になるとはまだ誰も想像もしなかった。


サーナイ伯爵領魔族襲来まで

【約9年】

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