公園でヤのつく人と友達になったらその上司がヤンデレでした。
ちょこっとした妄想から発展しました。
最後は若干力尽きてます。
雪が降り積もる中、冬美はフラッと公園にいた。
ブランコにのり、ポケ~とのんびりコンポタージュを飲んで雪を眺めていたら、何かが飛んだ。
「ギャァアァ……っ……」
よくみれば、それは宙をまう男だった。
ドサッと落ちて、動かなくなった男。
「…………」
冬美は状況を理解できずに無言でコンポタージュをすする。そして公園に視野を広げた。
「……ここ、いつから殺人事件現場になったんだろ?」
冬美が思わずそう呟いてしまうほどに、公園は悲惨であった。
20代前半、もしくは後半くらいの男達5人くらいが血を流して倒れている。
というか、何でいままで気づかなかったんだろうか……
「……あ゛?子供が何みてんだ!?」
怖い人がこっちを見た。
メリケンサックしてるし、顔は美人だけど目がイッちゃってる。
あ、殺される。
私はそう直感で分かった。このままでは殺されてしまう。どうにかしよう、そうだ!コンポタをあげよう!!この飲みかけコンポタを!!
若干頭をヒートさせながらも、意味不明な結論を作り、顔をカチコチに固まらせながら手にあるものを差し出した。
「コンポタ……です……あげる」
男の人は無言で受け取ってコンポタを見た後一気に飲み干した。
けれどその目はこっちに固定している。死ぬほど怖い。何でコイツこっちを見てるんだろ、首と目の位置が可笑しい。
仕方がない。
「こんぺーとーあげる」
私のおやつ、こんぺーとーをあげた。
男の人はそれをジィっと見て、金平糖を口の中に含んだ。
ガリ ガリ ガリ
どうしよ……帰っていいのかな?いいよね?
冬美は自分に問答しながら、帰ってもいいよなと結論づけた。
「ばいばい」
手をふって公園から離れた。
ガシッと思いっきり腕を掴まれた。いや、捕まれた。
「えっと……なんですか?」
後ろを振り向けば、やはり男性が掴んでいた。綺麗な顔だけど、すごく怖い、雰囲気が可笑しい。
「一緒にお茶でも飲む?」
「……いやで……いえ、飲みましょう」
風のせいで男性のジャケットの内ポケットから黒テカりする物体がチラリと見えた恐怖で思わずOKしてしまった。
お茶は男性が自販機から奢ってくれ、ベンチに座って二人で飲むことになった。
「あー……いい雪だな」
「そうですねーいい雪です」
シンシンと綺麗に降り積もる雪、赤く染める液体、綺麗な花壇、の横で寝ている真っ赤な男性、コポコポ水を出す噴水、口から血をゴボゴボ出す死体もどき……
うん、いい雪だなとか言ってる場合じゃねーな、完璧にヤベーぞ。
なんだっけ、小学校で習ったかな?公園で殺人犯と出会ったらどうしたらいいかなとか……
「えっと……この人たち病院に……というか、生きてます?」
「安心しろ、キッチリ殺しているから病院はいらん」
「そっかー」
たしか、警察の番号って何番だったけ?
ここら辺に公衆電話は無いかな……無いや。
冬美は温かいお茶を飲みながら、どうしたものかと思って再び男性の方を見れば、何故か涙をポロポロと流していた。
「え……!?ちょ、おじさん大丈夫ですか!?」
「すまねぇ……生身の人間と……普通に……うぅ……喋ったのは……久しぶりで……優しくされたのも……久しぶりなんだ」
片手で顔を覆い、小学生には理解し難いことをカミングアウトされ、何を言ってんだこのオッサン……と思いながらも背中を擦れば更に泣かれた。
「明日もこの時間に公園に来てくれ!」
「……うん、いいよ」
人に優しくしましょう。という学校の教えと、困った人がいたら助けてあげようね。という母の教えを守っている冬美は嫌々ながらもそれに頷いた。
その日から、冬美と男の奇妙な関係がはじまった。
公園で男性と喋り、少しすれば泣かれ、10分か15分くらいで帰られる毎日。
時々、高そうな指輪や服といったものを渡されるが全部いらないと突き返す。それをすれば何故か男性は感動したかのように泣きわめく。
そのたびに金平糖をあげればまた泣かれる。
「お前はいい子だな!明日もまた来いよ」
「う、うん」
しかし、その男性や自分の置かれた状況が明らかに異常な事態を流石に異常だと自覚し始めていた冬美はその公園に行かなかった。
後から聞けば、その公園はヤのつく職業の人がよく使う場所らしく、滅多に人が通らないらしい。
マジでなんちゅーとこに行ってしまったんだろうか。
「もう絶対にいかない……」
冬美はそう決意し、その公園に行かないようにした。
そして、平穏でごく普通の日々がまた始まると思った……だが、それは残念ながら長くは続かなかった。
その日は、学校の下校時間であった。
友達と一緒に帰っていたが、途中で別れ、人気のない道を歩いていると、道角から何かが表れた。
「こんにちわ~」
無邪気そうな、優しそうな笑みを浮かべた男性がいた。
「こ、こんにちわ」
思わず返事をしてしまう冬美。
「僕の名前は咲哉。よろしくね、よろしくついでにちょっとさ、ちょこっとだけお話ししたいんだけどいいかなぁ~?ん?」
幼児に喋りかけるような甘ったるい声を出しながらそう言ってくる男性。
若そうだが顔が童顔なので年齢がよく分からない。端正な顔立ちで、優しげで友好的な態度を取っているものの、オーラはそれに見合わないほど重苦しい。
危険だと感じた冬美はフルフルと首を横にふる。
「ちょこっとだけでいいんだよ~ちょこっとだけお話ししようよ~」
ギリギリィっと冬美の肩を掴み、力をゆっくりと強めていく。危険の度合い的には今、ここで怒らせる方がヤバイと感じた冬美は、ゆっくりと首を縦にふった。
「……わかった」
「わぁーい、よかった!」
咲哉は嬉しそうに笑いながら、近くのビルに若干嫌がる冬美を引っ張り込んだ。
ビルのエレベーターにのり、最上階につけば、そこは少しお洒落なオフィスルームだった。
「こんにちは、冬美ちゃんだったよね、よろしくね」
ニコニコ笑みを浮かべる咲哉の後ろに、いつの間にいたのか黒いスーツを来た屈強な男が待機していた。
「まずさ、僕には可愛い部下がいるんだ。頭いいのにバカっていうか……そこが可愛いんだけどね。凄く強い子なんだけど、精神面的にはちょっと脆い部分もあってさ……まぁ、だから僕が守ってあげるんだけどね……
あぁ、話かズレたね」
と、少し咳払いをしながら話を続けた。
「その部下がね……最近、友人を作ったらしいんだよ。とはいっても公園で10分20分くらいしか喋らないらしいけど彼的には友達らしいんだよ、バカ可愛いなぁ…友達いないからなぁ…っと、まぁ……ここまで言えば分かるかな?」
「はい……まぁ……」
あの公園の男だなと冬美は理解した。
しかし、何のために?
「あっちがさ、最近公園に君が来ないって落ち込んでいるんだ。そこが可愛いんだけどさ、ちょっと可哀想で……なんで公園に行かないのかな~?」
「だってヤクザじゃん」
率直に愚直にストレートに冬美がそういうと、咲哉はヒクりと口許をひきつらせた。
無邪気というのは怖い。無知というのは怖い。それを言ってしまったらお仕舞いで、正論を絶対の武器だと思っている。
正論なんてものは、何も守ってくれないのにだ。
「うんうん、そうだね~まったくそうだよ。それが当たり前だよ~うんうん、子供はそれが一番だよ、それが当たり前だよ、うんうん」
声は優しいが冷え込んでいる。
冬美の警戒心をある程度讃えたあと、笑顔を消し、懐にある『何か』を取り出して笑顔でいった。
ガチャリ
額にヒヤリとした感触が広がった。
まるで、恋人を侮辱されたかのよう
まるで、子供を傷つけられた母のような……
そんな目をして彼は笑った。
「ここで脳天が吹き飛ぶのと、彼の友達に戻るのどっちがいい?」
警戒心とかそんなレベルでなんとかなる話ではなかった。
冬美は身体中の血液が抜けるような錯覚に見舞われる。そして、追い打ちをかけるように、咲哉は無邪気に邪気のある笑みを浮かべた。
「言っておくけど、警察に駆け込んでも無駄だから、まぁ断ってもいいけど、そうなったら君の家を潰してあげるね。あとは君の友達も消してあげる。でもね、受け入れてくれるなら大丈夫だよ、ちゃんと報酬も払うしさ、まぁ地獄がみたいなら別にいいんだけど……どうする?」
選択肢など存在しない。選べる余地などない。
正論でなんとかなるlevelでない。小学生の冬美が対応出来る訳もないし、理解も余り出来ていない。
ただただ、ヤバイ状況であるという端末的な情報だけが頭をグルグルと周る……
「あの……いつまでですか?いつまで……やるんですか?」
一抹の希望にすがろうと、そう問うた。
仮に100年と答えられたら最早絶望しかないのに、冬美の小さな脳ではそこまで考えが及ばず、そして、咲哉はそれに対してクスリとわらっていった。
「彼が飽きるまで、飽きたら晴れて君は解放される。大丈夫さ……まぁ、でも……」
何かを言おうとするまえにドアが開いた。
何だと思ってみやれば、そこには公園の男がいる。少し長い髪をゆらし、肩で息をしながら此方をむいた。
「俺の……友達が来てるってホントか!?」
「うん、本当だよ……ほら」
隠れるようにいた冬美の背中を強引にボンと押し、男の前に出した。
「どうやらね、少し風邪をひいてたみたいで公園に行けなかったみたいなんだ。それで困ってるみたいだから此処に案内したんだ、そうだ、公園以外でも友達になりたいってさ」
嘘八百。よくこんなに嘘がつけるものだなと冬美は思ったが、何も言わないようにする。
うんざりとする冬美とは対象に男は嬉しそうに目を輝かせた。
「スゲェ嬉しい……冬美、何処か遊びに行こうか?あ、友達になったから俺のことは本名で狂兎って読んでくれ」
嫌だと答えたかったが、肩をギリィっと咲哉に捕まれたので首を激しく上下に動かす。
「じゃあ行こうぜ……」
そう言って、狂兎は冬美を引きずって部屋を後にした。
「(飽きるまでの間だけだ)」
冬美は自分にそう言い聞かせる。
すぐに飽きると、こんなの長く続かないと自分に言い聞かせて、唯一の希望にすがって……
そんな彼女をみて、一人の男が笑った。
「狂兎は一度執着したら一生執着し続けるんだけどね」
希望など、逃げ道などない。
冬美
ごく普通の小学生。
狂兎
冬美を友人として執着しているヤクザ。
咲哉
組長。狂兎を溺愛している。冬美を脅す