城壁都市 中
「?!」
「な、なんすか?!!」
大きな爆発音がして二人が振り返る。
見ると、一つ向こうの大通りで黒い煙が立ち上がっているのが分かる。
「あっちはたしか、露天通りだったと思います。さっきのお店に来る途中に通ってきましたから」
とぺトラが少し興奮した様子で言っている。
「ちょっと見にいきましょうよ、コンスタンさん!」
「まあ、遠巻きに見るだけならいいが」
と少々乗り気でない調子で応えるコンスタン。
二人が露天大通りに行くと、既に様子を見に来た野次馬で大通りは人であふれていた。人々は先ほどの爆発音を聞いてやって来て、一体何が起きたんだという疑問とそれへの不明瞭な回答を口々にしている。これだけの人がいると周囲が見渡せず、一体何が起きているのか分からない。
「おい、結局なにが起きたのか人が沢山いて分からないぞ」
とコンスタンがぼやく。これだから行くのは気が進まなかったんだ、という口調である。
「なんだか、向こうの商工会議所みたいな建物が爆弾か何かで吹っ飛んだらしいっす。黒焦げになった建物が見えますし、周りの人の会話を聞いているとそんな感じっす」
「そうか、お前の身長なら人混みにいても頭2つ、3つは浮くものな。遠くまで見通せる」
「へっへっへ。そういうわけっす!こんな時に便利っすよ、この身体は!」
と親指を立て、自慢気な顔なぺトラ。
たしかに身長が250cm以上もあれば、今のように大通りが人であふれていても、遠くまで見通せる。
「他に分かることは何かあったか?」
「さっぱりっす!」
と親指を立て、なぜか自慢気な顔なぺトラ。
「……。清々しい返事だな……」
「へっへっへ……」
仕方なしにコンスタンは適当な客足が途切れている路店へ向かう。店の前面には『ジェラトリア・ベネット』と錆が目立つ看板が置いてある。アイスクリーム屋である。横のぺトラが「美味そうっす」とつぶやいている。
コンスタンが店の店員へと状況を尋ねる。
「なあ、一体何が起きているんだ?」
「ん?ああ……、あれは多分、保守派の起こした騒ぎだろう。ここ最近、保守派と自由派のいざこざが多いからなぁ」
と面倒そうに路店の店員が答える。
「なんだ?保守派と自由派って」
「ん?あんたら、トルチェッロに来るのは初めてか?」
「そうだ」
「この都市は昔から暮らしてきた先住民とここ200年ほどで移り住んできた移民の大きく分けて二つに分かれているんだ。昔から住むやつが8割、それ以外が2割ってところだな。で、まあ、よくあるっちゃよくある話だよ。一部の勢力ではあるが、昔から暮らしてきた先住民が新しくきた移民を追い出したがっている。もちろん、移民たちはやられっぱなしっていうわけにはいかない。反対活動を繰り広げている。それらの前者が保守派、後者を自由派って言われている。
保守派の主張は、トルチェッロは昔からこの都市に住んでいた人間のものだっていうもの。
自由派の主張は、そんな排外主義ではトルチェッロは必ず衰退するってもの。
まあ、どっちもどっちだな。
で、何を買うんだ?」
と店員が最後に購入を促す。こんな一文にもならない会話では商売にならないのだから、当然の言葉である。
「失礼した。では、これを一つくれ。いくらだ?」
とコンスタンが店員の言い値で購入する。
「保守派の活動が大きくなってきているのは現市長が移民の出身ってのが大きい。保守派が危惧しているのは、このままでは先住民の影響力が落ちたまま戻らないのではないか、ってことだ。
一方、自由派はここで自分たちの立場を確立させなければ、移民全部が排斥されかねないと危惧している。
俺か?俺はここに商売しに来ているだけだからな。ことを荒立てなければ正直言ってどうでもいいと思っている」
「なるほど。まあ、おおよそ状況は想像がつくようになったな。
ぺトラ、追加注文だ。好きなのを選べ」
「え!?いいんですか?」
「ああ」
「じゃあ、このリモーネとペスカ。あとナッツで!!」
「そんなに食べるのか……。さっき、昼食をとったばかりだろ……」
「何言ってんすか!女性にとってデザートは別腹っすよ!」
お気づきの方もいるとは思いますが、出てくる名称はイタリア地方由来ものです。とはいえ、作者はイタリアが大好きとか、そのようなわけではないのですが。
また、名称に深い意味や意図は一切ございません。そこで気を使えるのが、人気作家なのでしょうね。
ちなみに、最後にぺトラが注文したのはレモンとモモとナッツのアイスクリームです。
ああ、美味そう……。