好きでやってる訳じゃないけどね②
幼い頃からイレスシス教会系の孤児院やアグレム教国の施設を転々としてきた綾奈には、両親の記憶が無い。物心ついた時には既に一人だったし、それを不思議と感じる事も無く、養母養父のおかげでつらいと感じた事もない。ただ、通常は両親と言う者が居て、養ってくれる事を理解した後は、各施設の大元であるアグレム教国に深く感謝していた。
皇成が引率メンバーの一人として参加したあの遊技場での出来事を上層部に報告すると、来るべきお告げの危機に対処する為にカリキュラムが組まれ綾奈を戦士とすべく訓練が始まり、皇成が教官として指導した。
その後綾奈の居た施設の閉鎖が決まると共に兄妹として同居した頃からアンデットが現れ始めて皇成は対処に明け暮れ始め、ついに綾奈を実戦投入する事で世界の名だたる国家正規軍が全滅を繰り返した対アンデット戦における初勝利を得たのだ。
しかし皇成は昨日の綾奈の戦いを見て突然疑問に襲われた。
皇成が今の立場に有るのは運命のいたずらであり、結果としては本当の平穏を知らない身の上故に良かったとさえ思っている。明日の夜にまた目覚める事の出来る眠りにつけるかすら定かでは無いゲリラ時代の経験すら必要とされ、プラスの要素として受け入れられている。
しかし綾奈は?偶然発見された才能を開花させた結果としても、そもそも皇成がそばにいた事、アンデットの出現、幼い頃からの境遇、そしてそのあまりの力と結果に偶然以上の符号を感じてしまった。
アグレム教国は最初から綾奈の才能を見抜いていたのではないか?
しかし特異な射撃能力など想定出来る筈も無いし、今までの過程から綾奈の力を利用しようとしてだけで養ってきた訳では無いとは思っている。昨日の戦果を聞きつけて今日お偉方が集まる連絡を受けて待ちかまえるように様々な質問を浴びせたが、用意された回答しか返って来ない。
いずれにせよ皇成にしても綾奈にしてもアグレム教国に生かされている事実は変わる事は無く、しかも不満の無いものだ。悪意から決定的に綾奈を利用しようと画策してきた証拠でも出てくればともかく、世界最大の慈善団体がいくらなんでもはっきりと悪辣と定義される行為は行わないだろう。
皇成はもやもやしてまとまらない考えの中の妥協案として、綾奈の戦線離脱を容認する許可を得て、後は綾奈次第、としてみたのだ。選ばせるのも酷かも知れないが、それは一人の人間として立ち向かわなければならない選択に思えた。
「例えば後6年、お前が20歳になってから改めて参加するなり判断するなりとしてもいい。」
そこで皇成は一度言葉を切る。
「なんだったら俺も一度組織を抜ける。綾奈が本当に普通の生活を送る為ならな。その上で訓練は続けたいがお前がイヤなら完全に手を切ってもいい。これは踏み絵じゃないさ。今朝からの話し合い会長も納得済みだ。」
グレゴリオ会長が皇成の言葉を引き取る。
「私もチャーター機内で戦闘結果の電話を受けた時は正直信じられ無かった。我々に伝わる資料でも、いかなる時代でも救世主の様な存在は現れた様だが今現代における救世主は君なのかも知れない。が、やはり違和感は有る。今まで君の世話をしてきた訳ではない。等しく神の子としてお世話させていただいて来た、のだ。我々とて大人の集団だから表も有れば裏も有るが、この件についてはアグレムの総意として綾奈君をこのまま闘いに参加させるべきか迷っている。」