好きでやってる訳じゃないけどね①
「どうせお兄ちゃんは居ないだろうし。」
綾奈は小声でつぶやきながらカギを開けてリビングに進むと兄の姿は無かったが書き置きで「集会場に来て欲しい」の文字が目に入る。
綾奈は眠いのに、と思いつつ手早く着替えてジーンズを履くとエレベーターに乗って操作盤の下に持って来たカギを差し込み捻る。操作盤には1階迄の表示しか無いが、もともとこの建物には地下に駐車場が有り、そこまでエレベーターで行くことが出来たのだ。
今の地下部分はスロープ状の入り口が道路に解放された一部が共用の自転車置き場になっておりそこで仕切られてそれだけの空間に見える。たがその奥は改造され防音設備が施された秘密部屋になっておりそこの会議室を集会場と呼んでいたのだ。
3重のディフェンスラインを経て自転車置き場の端っこに有る扉からも出入り出来るが基本的には改造されたエレベーターを使う。会議室の他に万一の事態に籠城出来る様に水や食料のストックとベッドが4つ収納されている小部屋や武器庫がある。
会議室は備品を端に寄せて修練場としても使い小部屋はかなりの医療設備が有り治療室として使っている。籠城戦の経験は無いが治療室としては数ヶ月に一回は利用されていた。
コンコンコンコン。
4回ノックは合言葉であり合図だ。部外者が入り込む可能性は極めて低いが一応決まっている。皇成は普段の生活では綾奈は家族でもあるし結構無頓着で、年頃になって来た綾奈からすると気を使って欲しい場面も有るのだが、集会場の出入りに関する事だけは口が梅干しになる程度に躾られて来た。
返事は待たずにドアを開けて中に入る。
「コンニチワ?」
皇成の他は若い会員ばかりだろうと思っていたら年上が2人、10人掛けのテーブルに座っていた。
「こんにちは綾奈君。昨日は見事だった。昨日の班員達も会いたがっていたんだが単に作戦が成功しただけでありあまり有頂天になっても意味が無いのでね。」
最も奥の席に座っていた男が語りかける。明らかに日本人では無いが完璧な日本語だった。
「ん?そうか、私を覚えていないか。私は赤を殲滅する会会長のグレゴリオだ。5年位前に一度会っているんだか少しの時間だし君も小さかったからね。」
綾奈もなんとなく覚えている。
「はい。いつもお世話になっています。」
すでに同席の者達とさんざんとなやりとりをした後らしい皇成がいきなり切り出してくる。
「綾奈、正直に言って欲しい。もう自分の立場は分かっていると思うが昨日の力はあまりにも圧倒的だった。期待したのも訓練したのも俺だがそれでも凄過ぎる。もともと作戦に参加させたのも、班の全滅を逃れてお前に怪我が無ければ上等と考えていた位なんだ。」
皇成は上位に当たるであろう面々を前に、逆に皆に言い聞かせる様に発言する。日本支部の副支部長で実動班の総班長だから偉いと言えば偉い。それでも萎縮して然るべきメンバーを前に言うべき事として、はっきりした言葉を紡いでいた。
「お前がイヤだと言えば戦闘参加を強制はしない。これからは、ほぼ全戦で参加要請が来るのは間違い無い。お前が負傷する可能性も高まるし疲れもする。何よりいくら化物でも人間のカタチをしたモノを殺すんだ。組織は奴らを滅する為に存在するが、一応宗教団体だし年端もいかないお前にやらせるべき仕事なのかは大いに疑問なんだ。」
サラサラのストレートを肩口にかかるくらいに整え、奥二重が愛らしい綾奈は、どう見ても大人し目の女子中学生だ。それほど大人しく無いのは良く有る話しでも、まさか両手にサブマシンガンを持って屈強な軍人上がりが簡単に殺られる敵を滅していく様には見えない。
「矛盾している事は分かっている。お前を対アンデット兵器に仕立てたのは俺だ。また、お前にも世話になっている恩も義理も有るだろう。だけどそんな事を気にする必要が無いことも今確認した。単なる中学生として、普通の女の子として過ごしていってもアグレム教国が綾奈を見捨てる事は無い。」