いろいろ有ったけど災い転じて福となる?
“赤を殲滅する会”はアグレム教国に古くから存在する組織で、英語の“Party to destroy the red”を直訳したネーミングの組織だ。少々間抜けな感も有るが皇成は気にしていなかった。
皇成の両親がイレスシス教徒だった為、軍事訓練を受けた洗礼者としてアグレム教国の目に止まったのだ。
皇成は小さな頃から父の仕事の関係で中東のある国で育ったが、そこは世界第二の規模の教義を持つ宗教国家であり、内紛が絶えずイレスシス教徒大虐殺事件で両親を失ってしまう。幼かった皇成だけでは日本に帰るどころか出国する手段もわからず、金も無く頼れる者も皆殺しになってしまった事でストリートチルドレンになり生きて行く為にゲリラになるのはやむを得ない流れだった。
両親を殺した敵の宗教に与する事は出来なかったから、少数民族の集団に身を投じて戦闘員となった。そして訓練より実戦が多い毎日の中で、もともと運動神経が良く射撃センス有ったらしく、たちまち一兵士として活躍するようになる。
戦いに明け暮れて数年経った頃、政府、宗教指導者、各部族代表が結んだ形だけの停戦合意を真面目な顔で確認しに来た国連監視団が来国した折に、偶然近くにいた事もあり出かけて行って監視団の一人に話しかけてしまった。
始めは若いとは言え銃を持つ姿勢も様になっている立派なゲリラの皇成を警戒していたが、皇成が頭に焼き付いて離れない虐殺の光景を説明すると、あまりのリアルさと見た目からして明らかに同国人では無いのにパスポートを所持していない事から調査対象者とされた。
日本人夫婦と子供一人が虐殺事件時に行方不明になっていて、当時の大まかな居住地や父の仕事内容が一致した事で血液が採取され日本の医療機関に有った該当日本人のDNAと照合された結果、行方不明の子供である事が判明したのだ。
ゲリラ活動は一種の犯罪行為であり、当事国では極刑も有りうる犯罪者扱いもされかねないが、これまでの事情と14歳と言う年齢を考慮して高度な政治的駆け引きで超法規的措置が取られ、日本へ強制送還の形で戻って来られたのだ。帰国しても身寄りが無い為とりあえず日本政府に紹介された施設で過ごしていたが、近くに有ったイレスシス教会には何度か足を運んでおり神父にこれまでの境遇を話しもしていたのだ。
本格的な戦闘経験者。ヨーロッパでは珍しくないそんな属性も日本人では稀だ。一信徒に過ぎない両親のしかも礼拝などろくにしなかった敬虔とは言えない子供だが、日本人でイレスシス教徒であり本当の戦争を知っているのは確かに稀だろう。
それでも初めて神父経由でオファーを受けた時には意味が分からず保留とした。
イレスシス教の総本山国家と言うべきアグレム教国直属の戦闘部隊へのスカウト。アニメか漫画な世界の話しに疑いを通り越して怒りさえ感じた。しかし赤を殲滅する会会長のアンドリュー・グレゴリオ司教が直々に日本まで面談に訪れ
「これは映画の話しでは無い。アグレム教国はエクソシストを養成しているし実戦実動組織も持っている。もちろんむやみに戦いを挑む為では無く国連決議が有っても国家紛争解決に派遣する訳でも無い。要人がそんな地域を訪問する際の護衛任務は有るかも知れないがイレギュラーだ。我々の会は悪魔やそれに準ずる化物を退治する事を目的として何百年前もから綿々と引き継がれて来たのだ。日本には支部が無かったが近い内に必要になるとのお告げが有ったのでそのスタッフに君が選ばれた訳だ。」
眉にツバを付けるのも面倒な話しだった。しかしグレゴリオは確かにアグレム教国から派遣されておりそれは間違いない。彼も3年前に従軍経験の有る司祭職であるとの理由でスカウトされたらしい。
「君はアグレム教国と言う地球上で最も古い国家に雇われるとでも考えるといい。原則として国籍もアグレム教国になるし余程の不祥事でも起こさ無ければクビも無い。司祭として出世を狙ってもいい。だが、お告げ通りの事が起これば世界の為に命をかけて貰う事になるな。」
自分と同じような道筋で今の立場に有るグレゴリオ会長の言葉には真実味が有った。二ヶ月後、皇成はアグレム教国の従業員になっていた。