友達の病状は深まるばかりです
一週間が過ぎた。
この闘いの困ったところは毎日戦闘が起こる訳では無くこちらから攻撃する事も出来ない点だ。
もちろん毎日戦闘状態では身も持たないが、存在が想定されるヴァンパイアの捜索は行なってはいても何の手がかりも無い。張り巡らせた監視網にアンデットがかかった時に出撃だがアグレム教国の一部が300年戦争と呼ぶアンデットとの戦いも300年の内何十年もあるいは何百年もアンデットが出ない時期も有ったらしい。
そうなると国家であろうと民間であろうと300年間に数回しか出番の無い特殊な戦闘力を維持するなど現実的には難しい。この1000年近い間、継続的に情報収集を行なっていた組織はアグレム教国だけで有りそこには凄さを感じるが他の組織についてはあまりのタイムスパンにやむを得ない事とも言えた。
今回のアンデット渦は日本で起こった事で有り初期対応は警察が行っていた。その後アグレム教国の監視網にかかり、始めはアグレムサイドの戦闘員を送る話しを入れるが日本政府が事態を信じきれていないせいも有り警察では全く手に負えない事を悟った後は自衛隊レンジャーが事に当たった。
しかし10回の出撃で会敵2回、その2回は2回とも3個小隊全滅の憂きめに合う。しかも敵について何の情報も得られず、反撃すら出来ずに日本国における最高の戦闘員が30人以上死亡したのだ。
日本政府は事態が手に負えない事を悟りやっと専用部隊派遣に同意した。アグレムも始めはアンデットの能力を確認するためもあり肉弾的な戦闘力は低いが過去文献に通じて悪魔払い経験もあるエクソシストを派遣したがその有用性も確認出来る前に惨殺されしかもアグレム教国に送り返す為に火葬はしなかったゆえに1人が起き上がると言う洒落にならない失態が待っていた。
ここで登場するのが大英帝国でありアグレム教国の要請ですぐに実戦部隊を派遣してきた。
既に日本政府の手を離れて全ての事態の責任はアグレム教国が担保する確約とともにこの問題に関する動きに関しては実質治外法権となりロシアからも特殊部隊も送り込まれた。
国際的に閉ざされたソビエト連邦時代に、何らかの、恐らくアンデット増植が有ったらしくアグレム教国の指揮の元、大英帝国と組んで初期作戦には大いに貢献してくれたのだ。
そんな世界規模とも言える撃退作戦も、結果としては全ての、本当に全ての会敵を経験した戦闘要員が死亡するに至りまた日本政府に話しが戻って来たのだ。
過去いかなる時期に現れたアンデットよりも速く、パワーが高い。アグレム教国がその結論を出した後に結局日本政府はアグレム教国が組織した対アンデット部隊である赤を殲滅する会の日本支部に補助金と超法規的立場、志願前提の自衛隊員の提供を約束したのだ。赤を殲滅する会自体は古くから対アンデット作戦を担ってきた機関だが、日本支部は無く急ぎ組織された。
下条皇成はその特異な生い立ちからくる戦闘経験により副支部長兼戦闘班班長として、綾奈は偶然発見された特殊な才能により訓練を経て、実戦投入され目覚ましい成果を上げたところだった。
「おっはよぉ~。」
相変わらず元気な千亜美がキャラクターのプリントされたクリアファイルを手に近寄ってくる。あるコンビニで対象のお菓子を2コ以上買うと貰える物で5種類の内4種類をコンプリートしたと自慢された。後一種類は好きじゃないキャラなのでいらないそうだ。
深い。
「これからは銀河のアークリスだよ。最初ダルだったけど宇宙に出たら俄然スピード感でてさぁ。」
男の子モノだろそれ、と綾奈心のツッコミ。
「うーんロボットとかそういうのは私は……。」
「ロボットじゃないよメタルアーマードだょ。結構凝ってるんだよねぇ作画がさぁ。」
駄目だ。独壇場だ。しかも言語形態までアニオタに入りつつある。綾奈が再び心のツッコミを入れた時携帯が鳴る。兄の皇成だった。
「人気の無い所に移動して電話してくれ。」
皇成は素直で基本的にごまかす事を知らない。その声は十分緊張を孕んでいた。校舎を出てコンクリ敷の渡り廊下に出で逆電すると案の定だった。
「アンデットが確認された。数は少なくとも5体。10人は襲ってフラフラしてやがるとの事だ。油断して近づいた偵察が1人瞬殺されたらしい。ちょっと地方だから街へ通じる道路は警察が封鎖したみたいだ。」
アンデットは人を襲うだけで逃げたりしない。廻りに人がいなかったり襲う気が無いときはフラフラしているだけなのだ。偶然も手伝って一度だけ確保した事もある。
「始まったかも知れん。すまん。後でな。」
綾奈にはいつもの時間が終わりを告げたのかも知れない予感が有った。全てでは無いが作戦会議に出席する事はある。赤を殲滅する会の見解ではある程度まとまった数の出現が予想されていた。今までの出現がいつも1、2体なのは何かの準備期間と考えられていたのだ。
手早く担任に早退を告げるが誤魔化している余裕が無い。
「急な用事で兄に呼ばれたので帰ります。」
と綾奈は言い残し、教師の返答を待たず踵を返していた。
綾奈が住む街から車で2時間とちょっと。一応市制のはずだか駅の周りにしか建物が無い地方都市の小さな街が舞台だった。
駅から伸びるそこだけやたら広い道を中心に左右500mの地点で警察が出入りを封鎖している。住民には不発弾が発見された事になっているらしい。
死体が発見されたのが午前11時過ぎ。あまりの無惨さと3人分が混然一体になっていたので最初は死体とさえ思われず何か動物の死骸の不法投棄かと思われた位だったらしい。他に2つの死体が発見され警察は仕事ゆえに淡々と必要な処理は行われたが現場は一種のパニックに陥っていた。
警視庁に報告が上がってから赤を纖滅する会に連絡が入るまで20分。ヘリで現地入りした先遣は不発弾をでっち上げ住民を避難させると共に駅も封鎖して電車は全て通過とした。とりあえず代替バスを運行させる事で目をそらさせるのは手慣れた手配力を伺わせる。
エクソシスト1名を伴った偵察班が付近を捜索中、倉庫を見つけ不用意に中に入ると暫くして無線で送られてくるバイタルサインが唐突に消えた。同時にヘルメットに装備されたカメラ映像から推定10体のアンデットが確認されたのだった。
本来なら、また状況が許すなら倉庫ごとナパームで焼き払うべきだった。赤を纖滅する会サイドからも意見が出たと言うがいくら田舎街と言ってもれっきとした市街地、流石に政府は決断を下せない。
その内アンデットの活動が強まる夕刻がせまり、陽が落ちて行った。
「ぷぅ。」
車からユニフォームをしっかり着込んで降り立った綾奈は小さく息を吐く。学校から帰り自宅から車で支部のアジトへ急行した。そこで黒づくめの戦闘ユニフォームに着替えている。
この黒づくめユニフォームには機会の少ない研究の成果が詰まっている。奴らは銃を使わないか少なくとも使った事が無いので、防弾性能は大した事は無い。まず防刃性能、これは咬まれる対策と奴らの武器として確認されているナイフ対策、それに対衝撃緩和性能、そしてフルバイザー付きのヘルメットはとても軽くインカムを始め様々な機能が盛り込まれていた。
動きやすく機能的なユニフォームだが防御力として決して高い訳では無い。これは多少防御力を上げてもアンデットのパワーが有りすぎて例えば30m先の壁に勢い良く叩きつけられる様な衝撃はユニフォームは良くても中の人間はどうしようも無いからだ。車と一体化して射撃できる道具も考案されたが車ごと吹っ飛ばされる程なのだから始末に終えない。
結局出来るだけ軽く、そこに出来る対策を詰め込んで機動性を高める案が採用されていた。腕を引き抜かれた死体も多い事から肩回りは関節の動く範囲以上の引っ張り張力を3tまで高める工夫もされている。
綾奈の装備は9ミリ拳銃弾を使う特製サブマシンガン2丁と訓練最初から使用しているバックアップ用のグリップを小さく削り出した38口径の特製レボルバー、100発用の長い特製マガジン20本だ。
綾奈は体格も力もあくまでも普通の女の子であり厳しい訓練でなんとかこれだけ装備している。格闘訓練も受けているが何しろ屈強な大男が瞬殺される相手だからあまり意味はない。それよりも走る、飛ぶ等の基礎機動訓練が余程大事でありこの分野において軽く平均以上の数値を示したのは皇成にとっては嬉しい誤算だった。
皇成が偶然目にした遊技場での幼い綾奈の異常な射撃能力は、赤を殲滅する会により研究が行われた結果、綾奈には超能力としか呼べない力があり弾道を制御しているとしか思えないとの結論が出た。
弾道制御自体信じがたい事だが極端な、例えば目標と90度ずらした真横に撃った弾をねじ曲げて着弾させるほどの力では無く、ある程度限られた、多くても数センチ単位しか調整出来ない事、当初訓練に使っていたエアガンから実弾に変えた時精度が大幅に落ちた事から弾の重さや弾速によるトルクの大きさにも制約が有ること等が分かっている。
結果として特製専用弾が開発され弾の火薬を減らして弾速を落とした拳銃弾を使用した市販のマシンガンをベースに、少女の筋力を考慮して徹底的に軽量化された特製サブマシンガンが開発された。コンピュータによるシミュレーションでも綾奈の持つこの力を使う以外に「敵」に対する有効な手段が見つからないのが現状だった。
この小説は既に16万字以上のボリュームを持って結末まで書き終わっており、現在改稿中です。と、カッコつけても全くの素人であり文体、ストーリーの流れ、設定に自信が有る訳では有りません。続きが少しでも気になる方はぜひその旨コメント頂ければと思います。なにしろタイトルも決められません(泣)(募集中?)