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お仲間登場?②

 ヴァンパイアは非常に頭脳明晰でありヒトは自らと存在を異にするものを本能的に嫌う事を知っている。だから今回ヒトと協力して事態の収拾を計る方向は無しだ。


 ヴァンパイアは元ヒトでありヒトを超えた存在ゆえにヒトをヒトだからと言う理由で憎む事は無いが、同時に相手にもしていないとも言える。


 対してヒトは己れを超越する存在と言うだけで憎むだろう。ろくに役にも立たないのに必ず裏切られるヒトとの共闘はあり得ない訳だ。


 メイリとイリーシャスの会話に部屋に入ってきた皇成が大きい声をはさむ。


 「だからなぜ俺がレールガンを持てた?あれは実際に80キロ以上有るんだぞ?確かに持ち上げられる重さではあるがそれはウエイトとしてであってあんな風に持てる訳が無いよ。まさかもうダムピール化してるんじゃ無いだろうな?」


 「してたらなによ?嫌なの?私と長い時を過ごして行く事がイヤなのね?そうなのね?私の事をそんなに嫌っていたなんてショックだわ。イリーシャス、皇成なんてもういらないからスマキにしてどっか遠くに捨ててきて。綾奈ちゃんには後で謝るわ」


 メイリとイリーシャスが話し込んでいた部屋にいきなり皇成が飛び込んで来たためイリーシャスは慌てて口をつぐみメイリはイラッとしている。


 しかも皇成は怒っている風だ。


 ダムピールは後天的、任意的、と言うだけで能力はヴァンパイアと変わらない。ただ、ばらつきが大きく肉体的に特別な力を持つこともある。


 彼がダムピール化していれば、あるいは変化が始まっていれば聞く必要も無く可能性を自己消化して理解する脳になる筈である。


 レールガンを持てたのは確かにダムピールへの変化が理由だがそれをわざわざ聞きに来るのは脳の利用率が変わっていない証拠だ。


 皇成はダムピールになってもバカのままかも知れない。メイリは残念な気持ちとともに軽い怒りを感じる。


 「いや俺は事実を確認したいだけで……」


 戸が開いており大声が漏れていたらしく綾奈も入ってきた。


 「別にお兄ちゃんがダムピールになるのはいいけど、メイリさんはダムピールにする事は出来ないって言ってたけど?」


 結果メイリの話しに嘘があったとしても悪意によるものでは無いことを感じとっている綾奈に猜疑心は無い。純粋な疑問だった。


 「ふう」


 メイリは珍しくため息をつきながら答える。


 「ダムピールを作り出す事自体禁じられているから本当のところは分からない事も多いの。私の歳ではダムピール化させられ無いと言われているけど数多くの事例による検証の結果と言う訳でもない。いずれにせよダムピール化するには吸血したヴァンパイアの能力以外にもう一つ条件が必要と考えられているわ。それが揃わないと単にヴァンパイアの力を持ったヒトが誕生する事になりそれは肉体的、精神的に耐えられるものかどうかも分かっていない。そんな不確定要素もダムピール化を禁じる理由ね。禁じると言っても私達は誰かの指示を守る必要は無いし罰則も無い。あくまでも上位者が良かれと思って通達を回しているだけ。皇成を吸ったのは一つは私の能力向上のため、一つは皇成がヴァンパイアの力を会得するのは今回の事態収拾に有益と判断したからよ。私にダムピール化させる能力が無いのなら理屈の上ではもっと年寄りに一咬みさせればいいしね」


 「ううん。私がヴァンパイアなのが確定だったらお兄ちゃんがダムピールになるのはむしろ望みたい位だから全然OKだけどな」


 「それでもう一つの条件はなんなんだ?俺自身の特質とかか?」


 「それも有るかも知れないけど……もうっいいっ」


 メイリはうつ向き加減のまま部屋を出て行ってしまう。ゆっくりとした動作で歩いて行くが、ドアだけは叩きつける様に閉めて行った。


 加減はしたのだろうが本当に力は込めたらしく音が大きいどころかドア自体が砕け散りそうな勢いだ。一瞬呆然とした皇成だったが気を取り直してメイリの名前を呼びながら後を追っていく。


 「おおい。なんだってんだよ」


 残された綾奈にイリーシャスがつぶやく。


 「条件と言うのは共に生きて生きたいと心から思う気持ちです。私達ヴァンパイアは相手の心が読める事は綾奈様もお気づきでは無いですか?心が読めると言っても細かい意思の動きを逐一把握出来るのでは無く喜怒哀楽のような大まかな状態を漠然と感じ取ります。お互いがより親密であればあるほど通じ合う度合いも上がります。また、その相手がどういう性格なのか、言わば魂の形を読み取る事が出来ますから我々はよほど気が合う者同士で無いと共に行動しません。合わない相手とは非常に疲れますからね」


 ここでイリーシャスは微笑を浮かべた。


 「今回メイリ様はどうも皇成に一目惚れされた様です。よほど心が気に入ったのでしょう。あの方は元来わがままですが私以外に感情をぶつける事は滅多に有りません。皇成には初めて会った時から馴れ馴れしくは無かったですか?我々には良く有ることですし綾奈様もメイリ様と始めから通じ有っている感覚は有りませんでしたか?」


 「そうそう、本当の初めては私も警戒したし言葉は疑いのオンパレードだったけど気持ちはこの人味方だって分かってた。その後なんて気持ちがダイレクトに分かっちゃってしかもイヤじゃない不思議な感じだったんです」


 「我々の交流は常にその形から始まります。そのうち心をブロックする方法も体得しますし初めて会う相手にブロックしていてもそれは失礼には当たりません。メイリ様は皇成さんとお会いになった瞬間から共に生きて行きたいと感じ、これだけ心通う相手が全く無頓着な事が腹立たしいのです。もちろん皇成はヴァンパイアでは有りませんから当然なのですが恋は盲目と言う事でしょうね」


 「イリーシャスさんはお兄ちゃんの事嫌いなの?私には様付けで、えと本当は私の事もせめてちゃん位がいいんだけどお兄ちゃんだけ呼び捨てだよね?何か意味があるの?」


 「綾奈様に関してはメイリ様がお気に入っているからです。皇成の事は皇成自身には関係有りません。男である時点で仕えるつもりが有りませんから。以前のコムネナ様は例外中の例外です」


 「男の人が……嫌いなの……?でもお兄ちゃんがメイリさんの気持ちに気付かないのは鈍いからでしょ。考えてみたらお兄ちゃんに女の人の噂なんて聞いたことないしね」


 その時皇成がしょんぼりした感じで戻ってきた。


 「メイリの奴今度は泣き出しやがった。もう知らんよ」


 「それでお兄ちゃんどしたの?」


 「いや鼻垂らすなとかなんとか適当な事言っといたけど……」


 「お兄ちゃんの大バカぁ」


 今度は綾奈が出て行ってしまう。また呆然しながらイリーシャスを見るがイリーシャスは全くの無表情で見返してきただけだ。


 「なんなんだよもう」


 仕方なく部屋を出て自分の部屋に戻って行く皇成を見送りながらイリーシャスの表情はわずかに笑って見えた。






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