お仲間登場?①
ヴァンパイアに占拠されたアグラム国は王宮を中心にして直径5キロ以内には人影が全く無い事が情報衛星画像で分かっている。
この範囲にはアンデットによる徹底した人間狩りが行われた後にパトロールが行われているものと推測されていた。
そしてそのさらに1キロの余裕を見てヒトの側が主要な道路や鉄道を封鎖すべく戦車が配置されていた。
しかしアンデットやヴァンパイアの戦闘力を考えれば閉じ込めておく事は不可能と思われ他地域に進出しないのは単に彼らが出て来ないだけだ。
要求があった訳では無いが食料を大型トラックに満載して王宮近くに放置したところ数分と経たずに数体のアンデットが現れ回収していった。これはヴァンパイアを敵視しきれない一部国の代表による発案であり各国からは一応前向きな評価を得た対応となった。
形だけ国連をベースとして世界の警察を冠する国家アメリカとヨーロッパの代表国家ドイツ、フランスを中心に連合軍として結成された会議にはヨーロッパの盟主である大英帝国ももちろん参加していたが過去の経緯からどうしてもヴァンパイアを敵視しきれないとの主張を繰り返している。
ロシアも参加はしていたが大英帝国と同様に敵視しきれず、大英帝国より強行にヴァンパイアとの話し合いを求めていた。
実際、超法規的措置によりアグラム対策の動きにはビザはもちろんパスポートすら必要無い事を利用し独断でアグラム教国に使者を送っているが帰って来た者はいない。
それでも融和の主張を変える事の無い態度に各国は違和感と共にその理由に大きく関心をよせ、ロシアとイギリスも少しづつでは有るが過去の事実を語り始めていた。
日本の動きは地理的に遠い為に緩慢なものであり集団的自衛権の行使に該当するのか、紛争当事国とみなすのかという議論を延々繰り返す。
その裏で世界的なヴァンパイアネットワークに疎遠である昔は忍者と呼ばれたものたちが行動を起こそうとしている事を察知し、それがコムネナ達とは違う方向性で有ることを確認しつつそれ以上の動きをしない様に要請していた。
それとは別に、古来より時の政権とヴァンパイアが実は深く結びついていた事実が今回の事態に、世界的に、どういった評価に結びつくのかとの評議が、真に日本を動かしている者達により、表に出ている者もいない者も含めて続けられている。
彼らの中には政治家もいたが、例えば首相だからと言ってメンバーとは限らない。
一応、大臣以上になった者にはそうした人間達の存在と表に名も売れている数人は知らされる慣習だったが全貌は知らされ無い。
それでも真に日本を動かす一員になった錯覚の誘惑があるため、大臣職はある程度の政治経験者に能力とは関係無く割り当てられるのだ。
それはともかく彼らは実力者であると同時に本当の意味で能力的な実力も持つ者達であり、極秘裏に集めた各省庁の官僚達と共に危機感を持った討議を行なっている。
結果として忍者集団をヴァンパイア集団と定義する事に始まりアグラムの動きと連携する事は無いことの確認、お互いの動きを出来るだけ報告しあう事を要請することを決めすでに実行済みだった。
元来、個々に動くヴァンパイアの習性ではイレギュラーだが、日本のヴァンパイア達は近畿地方において、ある程度連携して過ごして来た。名も通った老舗企業で事業規模も大きいのに一地方都市に本社を構え、様々な報告義務のある株式上場をあえてしていない企業の経営者一族が忍を源流としたヴァンパイアである例もいくつか有る。彼らも今回の騒動を受けて反コムネナに汲みするか静観するかを決する様に触れを回している。
コムネナは有名なので名を知る者は多いが、紳士録サイトヴァンパイアマニアコレクションで他の有力ヴァンパイアや娘であるメイリの連絡先を検索する者もいる。
メイリは所詮イルサテなので紳士録に記載も無く、有力者から情報を辿る努力も始まっていた。
「アグラムは何か動いた?」
「アグラム自体は静かです。ヒト達がいろいろ画策しているようなので探りたいのですが難しいですね。アメリカでコムネナに同調する一団が有ったそうですが説得して止めています。遊び感覚ですね。今回のキーワードは新型と言うか新性能アンデットです。その作り出し方が出回らない限り極端な行動は無いでしょう」
メイリの質問に答えるイリーシャスだった。
ヴァンパイアは携帯やPCをあまり使わない者が多い。ヒトと商売している者は別だが、例えばPCの使い道として複雑な計算や膨大なテキストを保存するという機能は、ヴァンパイアからすれば50桁の計算や本一冊分の文字を暗記するなど造作も無いので必要無いのだ。
時事情報や携帯による連絡など興味も無いと言う生活なのでメイリなどほとんど触った事も無い。
イリーシャスはコムネナの秘書だった為に十分に長ていたので引き続き情報収集を担っていた。もちろんメイリがその気になれば使い方どころかタグを全て暗記するなど造作も無いのは言うまでも無い。
「コムネナのところに何体位アンデットがいると思う?」
「分からない、と答えざるを得ません。アグラムでの行方不明者は公式に約3000人にもなります。防衛隊が戦闘を行なっている間や始まる前に誰がどこで何をしていたのかは全く分からないのです。アンデットが計画行動を理解し遂行する知能を持つ可能性もアンデットをヴァンパイアが直接指揮する可能性も考えられたことすら無い筈です。データが少な過ぎます」
「そうよね……」
メイリ達は次の行動を考えあぐねていた。スエリに飛び直接攻撃を準備し始めるか、それを時期尚早として反コムネナ、もしくは本当の意味で反コムネナでは無くてもその動きを止めようとする同士を集めるかは迷いどころだ。
正直、ヴァンパイアにとってヒトが何人死のうとそれ自体大きく気に病むものでは無いが、さすがに万単位は多すぎるしヒトとの全面戦争など考えた事も無い事態の理由としては十分だ。
あれだけの事態をヴァンパイアが引き起こした以上、コムネナを排除し、それが本来ヴァンパイア種の意思に反する行動であった事をヒトが理解していても、コムネナの件が収束した後にヴァンパイア狩りが始まるのは明白だ。




