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いろいろ準備しなくちゃね①

 10年前位の小型セダンだが走りはちゃんとしている。


 「で、何処に向かうんだ?」


 「高速道路に乗れる?」


 「出来ればやめておきたい。監視しやすいし逃げ場も無いからな」


 「そうね。じぁあとりあえず国道をずっと下って」


 「行き先を教えないのか?」


 「聞きたいの?疑ってるの?」


 皇成とメイリの会話中、急に綾奈はメイリに不安が高まるのを感じる。まただ。綾奈にはメイリに悪意は無く何らかの事情で住所が言えない事が分かる。しかし皇成がそれによりメイリを信じてくれない事を恐れている。


 「別に。どうせ住所忘れたんだろ」


 「あなたの頭と一緒にしないでくれる?忘れたんじゃ無くて最初から知らないのよ」


 メイリの声は怒っていても心はホッとしていた。綾奈のドキドキもおさまる。


 「さいですか」


 皇成が応じて車は走り続けていた。


 右手の湖を通り越してから右折し少し狭いが綺麗な道路を走り続ける。途中ガソリンを満タンにして数時間走りっぱなしだ。


 街から見える山とは大きさが明らかに違う雄大な山々の間を縫う様に登って行く。


 「さすがにこの山道はこの車ではキツイな。俺一人ならまだいいんだろうが」


 「ちょっとお兄ちゃん。私が重いっていうの?」


 「まあ聞き捨てならないわねえ。皇成こそ降りて歩いて行けば?あなた一人で私と綾奈ちゃん二人分でしょ?つか歩かれても迷惑だから走りなさい」


 「そうだそうだぁ」


 メイリじゃないんだから車と同じスピードでは走れません、とか誰も綾奈の事言ってません、とか言い訳しか浮かばない皇成は一言、


 「申し訳ありません」


 とだけつぶやく。


 「あっそこっ。左に入って皇成ちゃん」


 簡易舗装された細い道に乗り入れてすぐに一度車を止めてトランクから綾奈とメイリの武器を出して外から露骨に見えない様に、だが何かに襲われたら即応出来る様に隠し置く。


 さらにしばらく走ると鉄冊と扉が道を塞いでいた。手前で車を止めるとメイリは黙って降りて取っ手を下ろし扉を開く。開けた窓から皇成が


 「なんだか知らんが不用心だな。カギも無いのか?」


 と声をかけるが


 「この取っ手は200キロの力が無いと動かないの。もちろんヴァンパイアなら誰でも開けられるけど元々こんな冊壊せるからカギが有っても無くても関係ないわ。綾奈ちゃんも挑戦してみる?」


 「私は一応ヒトなのでムリい」


 どこまでもとんでもない連中だ。メイリはほんの一捻りで200キロの力を出していたのか?やはり敵わない、と皇成は思う。


 「本来は自動なのよ。監視システムが有るの」


 車を進めると山裾を切り開かれた空間に伸び放題の芝に囲まれた大きな2階建ての建物が現れる。玄関前に車を止めて様子を伺おうとした時既に車の側に人影が立っている。


 「イリーシャス」


 メイリがつぶやく。イリーシャスと呼ばれた人影の登場が唐突過ぎて皇成は反応出来ない。ようやくその顔がコムネナの城にいた執事然とした男で有ることを認識する。


 慌てて銃を取り出そうとする皇成にメイリは


 「待って」


 と声をかけてくる。それにしても美しい男だ。ブロンドの髪が長めな事もあって女性の様にも見えるが細っそりとしていてもスーツをしっかり着こなしている。


 「大丈夫?遅くなったかしら」


 イリーシャスは軽くうなずく。


 「お互いに味方よ。私が保証するわ。皇成、ここはエリコム社の日本拠点よ。正確には第2のね。第1はコムネナに押さえられていると思うけどここは存在を知らないはずなの。第1で十分用は足りていたから予備のここは話題にもならなかった。今回コムネナの混乱が深まった時点でイリーシャスと直属の部下だけで第1から武器装備類を移動しておいた訳。と言っても私たちは銃器類は基本的に使わないから綾奈ちゃん用の装備が多いわ。後は私が中心に開発していた剣の様な直接攻撃武器ね。今は装備類より安心出来る可能性の高い宿泊施設で有ることの方が重要かもね」


 「なるほど。俺はメイリを信じているから心配はしていないがあえて確認したい。彼は大丈夫なのか?」


 一言も喋らないがイリーシャスの眼が赤く色付く。


 「ダメ」


 綾奈が皇成をかばう様に半歩踏み出しイリーシャスを牽制する。


 そのにじみ出す迫力は皇成でさえ怯ませるものであり、また迫力を感じさせてしまうのはまだ綾奈がヒトである証拠かもしれない。ヴァンパイアから威圧は感じ無いのだ。


 「はいはいイリーシャスは気い短かすぎ。バカ皇成ウザすぎ。綾奈ちゃんイリーシャスより気い短くてバカ皇成甘やかしすぎ。皇成は私を信じてくれないの?」


 「オーケーオーケー。信じてます。俺が悪かったから、えっとイリーシャスさん、許してくれ。綾奈も俺を守るとかやめてくれよ。これでも兵士なんだぞ」


 「そかなぁ」


 「そうだよ。忘れちゃったのか?」


 「はいはいはいはいもういいでしょ。イリーシャスは母がずいぶん昔に転換させたダムピール。やっぱり母の能力である精神感応力を受け継いで私と同じように耐性も高かったから染まらなかったみたいなの。コムネナ達が狂気に囚われて行く中で最初は何も分からず、分かった後は何も出来なかった気持ちを察してあげて。私が混乱せず事態を認識出来たのはイリーシャスのおかげよ。ダムピールとは言えヴァンパイアの大先輩だしね」


 「…良く分かった。しかしどうしてヴァンパイアってのはそういう肝心な事を先に言わないんだ?いつもそうじゃないか」


 「そう?私には敵じゃない事分かってたよ?それでも攻撃態勢になったからお兄ちゃんを守ろうとしただけ」


 綾奈がシレッと発言する。


 「もういいでしょ。中に入って食事にしましょう。イリーシャス、出来る?」


 イリーシャスはメイリをチラリと見て軽くうなずくと中に入って行く。


 「私たちは部屋に入るわよ。一人一部屋には出来るけど隣り合いがいいわね。着いて来て」


 整然と10以上の玄関が並ぶ廊下で入り口から綾奈、皇成、メイリの順で部屋を割る。


 「カギもかかるけどかけない様にしましょ?ちょっとイリーシャスに状況を確認してくるけど装備類のチェックをするから準備しておいて。ゆっくりしている時間はないわ」


 「了解した」


 「はい」


 皇成と綾奈はそれぞれの部屋に入った。すぐに綾奈の携帯が鳴る。メイリからだ。


 「はい?」


 「あっ綾奈ちゃん、ちょっと入り口のトコまで来てくれる?コソコソする必要は無いけど皇成ちゃんには内緒でね」


 「うん。わかりました」





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