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犯人はだれ?⑤

 突然メイリが叫んで命ずる。その声を聞いた瞬間、皇成も意味を理解する。


 トレーサー。


 考えていなかった訳では無かったが展開に流されてしまっていた。


 「赤を殲滅する会」はもの凄い情報収集能力を誇る。ヴァンパイア達がそういった能力に長けている訳では無い以上アグラムが占領された今、当然赤を殲滅する会吸収は想定すべきだ。


 メイリが叫んだ事で急に危機感がよみがえったのだ。5分ほど走り駅前に付けると不自然で無い程度に急いで車を降りてトランクからボストンバックにまとめた綾奈の銃と楽器ケースを改造したメイリの剣を収めたハードケースを取り出し駅に入る。


 割りと早く電車が来て乗り込んでから窓から見える車を見やると3人の人影が囲んでいるのを確認する。


 「ヴァンパイアだわ。私は気配を消すから話しかけないで」


 早口でつぶやいた後で立ったまま石の様に動かず視線も虚ろになる。扉が閉まる迄のわずかな時間が異様に長く感じられて電車が走り出すがメイリはまだ動かない。5分ほど経って「ぷはあ」と息を吐き出すと共に


 「やばかったあ」


 と漏らす。


 「俺が軽率だった。考えていない訳じゃ無かったんだが」


 「一人で行くから万一の事態も無視してたんでしょ。結果としては良かったわよ」


 「うん。バラバラになったら何処にも行けないよ」


 綾奈も心底ホッとした様子を見せる。電車に揺られながら


 「免許は持ち歩いているでしょ?レンタカー借りましょ」


 「行く当てはあるのか?」


 「まあね」


 「免許を使うと足が着きやすい。赤の調査力を使えばカードの履歴すらワンクリックなんだ。仕方無い、ちょっとした知り合いから車を買う。なに、ボロだから何十万位も渡せればいい。ついでに持ち金を全部下ろそう」


 「私のお金全部下ろしたらトラックが無いと運べ無いけど?」


 メイリは金持ちなのか?


 「ポケットに入るだけでいい」


 皇成はなんだか負けた気がしながらぶっきらぼうに応じた。


 皇成のちょっとした知り合いとは少し郊外に位置する中古車屋だった。街道沿いでヒラヒラキラキラと展示に努力している業者では無くたまたま土地を持っていて特に使い道が無いので車を並べている、という具合だ。知り合いからの預かり販売も多く商売っ気などこれっぽっちも感じられない。


 「ご無沙汰」


 「あれ?えっと下条さんでしたっけ?いきなりどうしたの、女の子2人も連れ歩いて」


 後半のセリフは小声だった。


 「ちょっと事情が有ってことでとりあえずすぐ乗れる安い車が欲しいんだけど」


 「すぐ乗れるのは有るけど登録とかあるし書類は持ってきてる?」


 「いや、とにかく移動手段が欲しいんだ。1日いくら計算で借してくれてもいい」


 「ん?追われているのかい?いくら出せるんだ?」


 実はこの男、やんちゃに過ごした時期がありトラブルに強い。片足の1/3位裏道に突っ込んでる手相いと言う訳で、人間同士の問題であればその解決をお金で頼める相手だ。


 皇成は神職とは言え結局暴力の世界で生きている者だから、ちょっとしたきっかけで見知っていた。何か起こった時に役に立つ男。その何かが起こってしまったと言うことだ。


 しかしもちろん対ヴァンパイアの問題など解決出来る訳は無い。


 「訳と言うほどでも無いけどね。移動手段が欲しいだけさ」


 「それを日本語では訳有りと言う。あっそういえば北条さんはイレスシス教の関係だったよね?テレビのアレとそんな感じなのかい?」


 「そう思ってくれてもいい。出来る事をやろうとしているんだ。それ以上聞いてくれない方がありがたいな」


 「なるほど。そういう事ならこれ使いなよ。俺が普段使ってるんだけど名義はあさっての人間だから足の付きようが無い。とりあえず100万もらえれば後は返してもらう時にでもさ。壊したら200万で買い取ってよ」


 「それでいい。メイリ、金を払ってくれよ」


 「はいはい。はい、100万円ね」


 「いや、200万円払ってもらえるか。返せない可能性が高いしこの車は2度と使えなくなる」


 男は皇成の顔をじっと見つめて言う。


 「下条さんよ。小僧の癖して義理堅いっつうか人間出来てるっつうかいったいどんな育ち方してきたんだ?だいたいあんた堅気じゃねえだろ?つったって極道のパシリって柄でもねえ。もっとストレートに血生臭え。俺の知り合いでそんな風にひとつひとつを綺麗に後腐れ無くしていく生き方をしていた奴は殺し屋だったよ」


 皇成は生い立ちや今の立場については何も知らないはずの男の勘の良さに少々驚く。


 「いいさ。100万円で持ってきなよ。小銭稼ぐ気も無くなったわ」


 メイリが100万円の束を帯をつけたまま渡すと男は数える事もせず内ポケットにねじ込んで言葉を続ける。


 「なんだか知らんがヴァンパイアってのはなんなんだ?文字通り吸血鬼ってことなのか?アグラムには昔っから吸血鬼が巣食ってたのか?」


 急に興味を思い出したらしく矢次早に質問が出てくる。


 「アグラムと吸血鬼が仲良しだったとしてもほとんど皆殺しにされたんだ。仲間割れなんてもんじゃ済まないさ。とにかくありがとう。あっもしかして携帯扱ってたりするかな?プリペイドのやつ」


 「ああ、有るよ。今や貴重品だけどトバシも数出回ってるから高く売る訳にもいかないな。1万円分付けて1台5万でいいよ。安くしとからなんか話し有ったらかませてよ」


 「3台欲しいな」


 さりげなく後半の申し入れは無視する。どの道ただの人間にどうこう出来る相手では無いのだ。


 「はい、お金。大繁盛だね」


 「そうでも無いよ。最近はネット販売が多くてね……」


 「行こうよ」


 無駄に話しが弾み出したのを牽制して皇成が促す。皇成が一人で持っていたかなり重い武器類をトランクに収めて3人で車に乗り込んで走り出した。









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