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犯人はだれ?①

 「さってと、そうね、私からいろいろ話すべき段階ね。ここは普段から使っていた部屋じゃない。私名義で手に入れておいたセーフハウスみたいなものね。一応コムネナには知られていないと思う」


 少女とは思えないスパイの様なセリフだ。だが、もちろん見た目だけの年月を生きている訳では無いヴァンパイアのメイリだ。


「まずアンデット共だけどあれは知能を高めたタイプなの。連携した攻撃を覚えたらしいのだけど、もともと見られたヴァンパイアへの攻撃性も増してしまった失敗作ね。アグラム侵略で旧旧タイプのバカアンデットを、今回の日本で旧タイプの大バカアンデットを処分したはず。アグラムに本格的に侵攻したのは最新バージョンでアンデットの意思をヴァンパイアがコントロールしているタイプのはずよ」


 「そんな事が出来るのか?」


 「ヴァンパイアにはヒトの記憶をいじれる事は知っているわね?ヴァンパイア相手だと記憶をいじる事は出来ないけどごく近しい相手、愛し合っていたり仲が極端に良かったりすると脳みそをいじりあって結果意識を共有する事があるの。これを応用してアンデットの意識を支配する事に成功した。従順で頭もいい、かなり精度の高い軍団の出来上がりね」


 気がつくと綾奈がコクコクしている。


 「綾奈を休ませたいんだが」


 「そうねえ、ココは面積はけっこう有るけど2LDKだから部屋は2つなのよね。さすがにココを買う時にはこんな展開予想しなかったしね。綾奈ちゃんと同じ部屋で寝る?」


 「もちろん俺はかまわないが綾奈が嫌がるだろうな。年頃だし。そんな贅沢言っている場合じゃないかな。綾奈とメイリで一つづつ部屋を使えばいい。俺は廊下でも寝れる。」


 「ウチの廊下とリビングは睡眠禁止なのよお。まっいいわ。とにかく綾奈ちゃんを運びましょ」


 布団は2組しか無いのでその内1組を敷いて綾奈を横たえる。リビングに戻ると


 「えっと新アンデット軍団までだったわね。何よりもコムネナが変わってしまった。ヴァンパイアは過去1000年単位でヒトとは争っていないの。記録に有る限り1500年くらい前にエジプト辺りで覇権を取ろうとしたみたいだけど結果は良く分からない。何れにせよヒトを支配する事に興味は無かったのね。なぜなら、ヴァンパイアを発現したものは強い。繁殖力こそ弱いけどこれはむしろ生物として強い事の表れだわ。あまりに力の彼我が大きいから戦おうとも思わない。原子爆弾はヒト最大の兵器でしょうしその恐怖はむしろ放射能だと思うけど、私達は放射能の影響すら大して受けないし、本気になったら所詮ヒトが自然界から作り出した障害なんて克服するでしょう。完璧な除去装置とかね。もちろんあんな爆弾の物理的な衝撃を受けたら消滅しちゃうけどね。とにかく力の差はヒトの大人と子供どころでは無い、圧倒的なものよ」


 確かにアンデット戦を一度見ただけでも分かる。ヒトが全滅を繰り返し綾奈のおかげでやっと倒せる対象が虫嫌いの主婦とゴキブリの戦いよりあっさりケリが付くのだ。戦う事自体が不可能だろう。


 「ところでアンデット渦がなぜ発生するのかは聞いた?」


 「ああ、ヴァンパイアがなんて言うか狂ってしまう場合だろう。」


 「そう、理由はいくつか有るけどヒトを襲い始めるヴァンパイアが出る。今回のそれが……コムネナの妻だったの。」


 「なんだって?」


 「でもそれはいいの。もちろんヒトにとっては良くは無いだろうけど過去にもコムネナの妻がアンデット渦を起こした事が有る。どう解決したかまでは知らないけど結局事は治まってきた。ヒトの被害はともかく私達にとっては事故みたいなものね。ところが今回は……ヴァンパイア同士の意識が通じ合う話しはしたわね。コムネナと妻は愛し合っていた。その状態で通じ合うのは自然な話しだけれども妻が狂い始めても通じ続けていたのね。コムネナはメガリオだし脳への干渉を攻撃と捉えれば誰よりも耐性は高いと言える。その彼が言わば洗脳されてしまったの」


 単純と言えば単純な顛末。皇成は声も出ない。


 「妻の脳への干渉力、分かりやすく精神干渉力と言ってもいいけどそれが異常に強かったと言う事ね。もっと悪い事に以前の彼女は慕われていた。美しく見えるヴァンパイアの中でも飛び抜けて美しいのに驕る事が無く、天真爛漫な明るさを持っているのに悩める者の気持ちも良く理解した。コムネナのコリグランド貿易にはヴァンパイアが何人も所属していたけど本来個々で活動して親子と言う理由位では一緒に行動しない私達がコムネナの元に集まったのも妻の力だと思う。コムネナもヴァンパイアの平均から見れば面倒見が良かったけどヴァンパイアはそもそも面倒を見てもらう必要無いしね。そしてある意味妻に心酔していたヴァンパイア達も意識洗脳にあらがえ無かったのでしょう。当然と言えば当然、心を寄せていただけで無くあのコムネナすら捉えた力ではあらがう気自体起こらなかったでしょうね。考えてみれば妻の変わり様は凄すぎる。明るい振る舞いにも無理があったのかも知れない。その身に時間の流れが戻って衰えを認識した時全てが崩れたのかも知れないわね」


 「メイリはどうなんだ?洗脳の影響を受け無かったのか?コムネナの近くにはいなかったのか?」


 「私もコムネナと行動を共にしていた。コムネナも好きだったけどやっぱり妻に魅力があったからね。今思うとそれはプラスの洗脳だったのかも知れない。でも私にマイナスの洗脳は効かなかった。こういう能力は遺伝もするの。私もきっと洗脳力が高いんだと思う。能力が高ければ耐性も高い」


 メイリはとことん寂しげにつぶやく。


 「妻は、私の母親なの」




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