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どんだけ強いんだヴァンパイア③

事件現場周辺では事件の処理でごった返している。被疑者が塵となっているため逮捕者がいない。いくら事件解決を宣言しても犯人が逃げられたでは筋が通らない。


 当然、アンデット関連の事件は報道関係社の上部には事実を知らした上で情報統制をかけてきたが、現場の人間皆が知らされている訳も無く、警察に食い下がって説明を求めている者もいる。いずれにせよ隠すのは限界だろう、と皇成は考えながら車を出した。深夜なので一般道も高速道も空いている。

 

「この分なら早く帰り付きそうだな。綾奈、大丈夫か?」

 

メイリ、皇成、綾奈3人を乗せてセダンが走り出す。


「うん。元に戻っちゃったよ。さっきは自然となんかピューっとさ」


「その事は後で話そう。良くやったよ」


目立たない様に赤を殲滅する会の実働班員達はバラけて帰途についており、前後に車はいない。


「ねえ、ラジオ付けて」


1時間ほど走った頃メイリがつぶやく様に要求してくる。


「綾奈がウトウトしてるから駄目だ。静かにしてくれ」


「甘やかしすぎい。いいから付けて。お願い。理由は有るのよお」


数秒考えてカーラジオを入れる。


「公共放送が確実かな」


交通情報くらいしか目的が思いつかない皇成は無言でチャンネルを合わせる。


「……信によるとアグラム教国がヴァンパイアを名乗る集団に侵略を受け現在国家中枢に連絡が取れなくなっています。繰り返します。海外通信社からの配信によりますとアグラム教国がヴァンパイアを名乗る集団に襲われて現在外部との連絡が一切取れなくなっています」


「なんだって?ヴァンパイア?アンデットの事か?どうなってる?」


気づいてメイリを見やる。綾奈も目を覚ましてしまっていた。


「これが最後のキーワードか?お前はこの事を知っていたのか?」


「それより心配する事有るんじゃなあい?貴方のおうちはアグラムの用意した物でしょ?そのアグラムが無くなっちゃったのよ?」


 アグレム教国が無くなったかどうかなど今の報道では分からない。


「襲ったヴァンパイアは本当にヴァンパイアなのか?コムネナは何をやっている?アグラムはどうなっているんだ?」


「アグラムを襲ったのはコムネナ本人よ。もういいわ、私の家に行くのよ。コムネナは敵、コリグランド貿易も敵、アグラムは消滅、あなたに対するアグラムの庇護もバイバイ、この位でいい?」


 流石に皇成の頭でも処理しきれない。アグレム教国が無くなったのが、先日友好的に会ったばかりのコムネナが原因とは簡単に納得出来るものではない。アグレム教国は生きていく術だ。頼りきって、もたれ掛かるつもりも無かったが、いくらなんでも急すぎる。


「ちょっと待て。あんたはどうなんだ?コムネナの仲間じゃないのか?」


 しかしこの皇成の質問はメイリの逆鱗に触れて怒鳴り返される。


「ちょっと待てじゃねぇよ。だいたいさっきから人のことお前だのあんただのと私を何だと思ってるの?皇成、お前はこれから私の事メイリ様と呼びなさい。それで綾奈ちゃんはメイちゃんでお願いねえ。んで、綾奈ちゃんは私の事どう思う?」


 後半は猫なで声の優しい声音だ。


「メイリさんは味方だよ、お兄ちゃん。理由は分からないけどコムネナさんはヒトへの攻撃を始めた。メイリさんはその計画を知っていて、私へ会う時期を早めたみたい。お兄ちゃんとの接触が目的ならギリギリ間に合ったって感じだよ。そうでしょ?メイリさん?」


 答えるメイリの声は、今度は前半が猫を撫でて後半がドスの効いた脅かしの声だ。


「よおく出来ましたあ。さてバカ皇成、どうするの?信じるの?」


ニュースの衝撃から多少時間が経った事もあり皇成も冷静になってきていた。綾奈がメイリを信じるのはヴァンパイアの力が作用しているのかも知れないし、メイリが本気になれば綾奈はともかく皇成など瞬殺出来るのは間違い無い事もある。


 第一皇成達と敵対するつもりならコムネナの計画を知っていてアンデット殲滅にわざわざやって来る事は無いのだ。


「分かったよ。あんたに従わせて貰う。」


「アンタじゃねえよ。メイリ様と呼べって言ってんだろ」


またまた激しく怒りを込めて青筋を立てながらメイリが怒声を上げて逆ギレする。ルームミラーで見るメイリは目が赤く光っていた。皇成もさすがにビビッてハンドル操作を誤りそうになり軽く蛇行する。


「メイリさん!」


助手席の綾奈はも即座に戦闘態勢になったような迫力で後ろを向いてメイリを睨みつけていた。


「冗談よ綾奈ちゃん。でもあんた呼ばわりはイヤよ。皇成、私の事はメイリと呼び捨てなさい。私も呼び捨てるわ。今度あんただのお前だの呼んだら本気で怒るからね。ホントの本気でよ?」


「分かったよ。呼び捨てはちょっとアレだからさんづけでいいか?」


「2度同じ事言わせない」


「いやその女性を呼び捨てはちょっと……」


「お兄ちゃんはあんま女の人と付き合った事無いのよねえ」


 メイリの心の内を読んでいるかの様に急に綾奈はニコニコ顔に戻って皇成の攻撃に回る。


「その歳でテレてんの?丁度いい罰だわ。ほら、呼んでみなさい」


「……」


「呼べってばよ」


「メ、メイリ、どこへ向かえばいいんだ?」


「次の信号左に曲がってすぐよ」


「はっ?」


「聞こえ無かったんならもう一度言うけど聞こえたんなら2度言わせない」


「聞こえたよ。なんだよ、怖えな」


「なんだって?」


「何でも有りません」


「仲直りして良かったあ」


「そうかな」


「うんうん」


「あっそこのマンションだから。私と綾奈ちゃんはここで降りるから少し離れたコインパーキングに車止めて来て」


 ただ道なりに走ってきただけでメイリの望む方向へ向かっていた事に違和感を感じるが皇成にはもはや聞きただす気力は残っていない。それでも警戒心だけはなんとか維持している。


「綾奈と2人きりになるのか?」


「まだ信じられない?」


意外にも少し寂しげなメイリの様子に皇成も覚悟を決める。


「分かった。良し、綾奈、一丁だけは持っていろ。この時間なら目立たないだろ。マンションにもカメラは有るだろうから上着に包むんだ。メイリは信じてもコムネナの事も有る。」


「うん、分かった」


コインパーキングに車を止めて皇成が戻ると2人ともポケッとした様子で待っている。


「なんかこの二人雰囲気が似ている」


ヴァンパイアの特徴かとも思ったが、違う気がする。しかし皇成は、それ以上は気にせずオートロックをくぐり3人でメイリの部屋へと向かった。





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