プロローグ② 殺す相手は人間じゃないんだよね
黒づくめのほっそりした小さなシルエットがビル影に身を潜めている。初めての実戦にもかかわらず落ち着いた感じに見える。
向かいのビルや前方のビル影にも黒い人影が見えるが身体はどれも大柄で屈強だ。手にアサルトライフルを持ち更に前方を伺う。男女二人に見える影。立ち話しをしている様だが既にこちらの気配には気付いている。それでも気にしない余裕があるのだ。
「3、2、1、GO。」
黒い影のヘルメットに内蔵されたインカムから指令が飛んでくる。指令を出しているのはほっそりした黒ずくめの前に立ち、その小さな影に比べれば背は高かったが屈強と言うほどでも無い、しかし手に持つマシンガンが身体の一部の様に見える明らかに戦闘慣れした人物だ。
前衛の三人がビル影から湧き出す様に素早く飛び出しマシンガンを連射する。市街地用に改造がしてあり銃声は小さい。しかしただ立ち話をしていた様に見えていた二人組は一瞬で消えてしまう。
いや、真っ直ぐ前衛達に向かって消えたように見える程圧倒的なスピードで迫ってきていた。二人組から前衛達までおよそ50M。目には捉えられないがわずかに左右にスェーしながらなので弾も当たらない。
黒づくめ達もこれが奴らとの初戦では無く予想済みであり前衛は銃を前に構えて連射しながら飛び出したが、直後に左右それぞれに身体を投げ出す様に動いていた。
前衛が出た2秒後、10M程後ろに待機していた後衛がやはり連射を始めていたのだ。一瞬前まで前衛が占めていた空間を後衛三人から吐き出される銃弾が飛んで行く。弾幕になるように狭い範囲で円を描く様に弾をバラまくと迫っていた二人の動きが止まった。身体に命中した弾のトルクによって前進のベクトルを止められたのだ。身体中に10発以上命中しているはずなのに倒れはしない。
動きを止めた二人は次の瞬間に左右に散っていた前衛達に迫る。左に飛んだ片方が前衛の一人をハエでも払うかの様に裏手で叩くと車にでも跳ね飛ばされたごとく吹っ飛ばされて10M位先に叩きつけられた。更にその先にいたもう一人の前衛に迫る迄にどこから取り出したのかスラリとはしているが大ぶりなナイフを握っている。
一挙動でナイフを振り上げ前衛の肩口に振り下ろそうとした瞬間、右の二の腕辺りから腕が引き千切れた。
続いて脇腹がえぐられるように消滅し片足が吹っ飛ばされる。ナイフを握っていた右腕が千切れたので左から振り回す様に放とうとした拳は手首から消失した。
班員達の最も後ろの方からかすかに、しかし途切れる事無く連射する銃声が響く。
わずかに身体が離れた隙を突いて襲われていた前衛が強烈な回し蹴りを胴に叩き込むと、あちこちを消失しながら倒れない身体が道路の真ん中に戻される。そこに猛烈な弾幕が襲いかかり細胞の一つまで散々になるかと思われた時、身体中が砂状に溶け崩れ文字通り霧散する。
逆サイドではやはり腕を飛ばされた後に頭が端から消滅していくもう一体の姿が在る。こちらは頭を潰されてなお緩慢ながら動いていた身体に大量の銃弾が叩き込まれたのだ。反対側の一体とほぼ同時に身体が塵一つ残さず霧散したのを確認しても、黒づくめ達は銃を下ろさない。
もし突然この場に現れる人間がいたならば何も無い空間にじっと銃を構える異様な集団を目撃しただろう。もちろん銃を所持しているだけで十分異様だったかも知れないが。
「終了だ。」
全員のインカムに声が響く。空気がフッとなごむが訓練し尽くされた人間達はそれ以上の感情を表現しない。
「みんな、お疲れ様。この先も戦闘は続く。いや、やっと戦闘を始められるんだ。今くらい喜んだりしてもいいと思う。」
すると黒づくめ達は一様に肩を震わせながら前をじっと見て動かぬ者や俯く者もいる。近くにいた者と握手したり肩を抱き合ったりもしている。
誰ともなく最も後方に位置していた屈強な者達とは明らかに違う細く、そして小柄な黒ずくめに向き直りピシッと居ずまいを正して敬礼をした。ほぼ同時にほとんどの者が、最後に心持ち遅いテンポで一番綾奈の近くにいた背の高い指令を出していた者が敬礼すると、小さな身体もぎこちなく、しかし綺麗な姿勢で額に手を上げた後、崩れるように膝をついて倒れこんだ。
この小説は既に16万字以上のボリュームを持って結末まで書き終わっており、現在改稿中です。と、カッコつけても全くの素人であり文体、ストーリーの流れ、設定に自信が有る訳では有りません。続きが少しでも気になる方はぜひその旨コメント頂ければと思います。なにしろタイトルも決められません(泣)(募集中?)