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大事件ですね。あっちでもこっちでも大騒ぎです②

その頃ヨーロッパの宗教国家アグラム教国では衝撃を受けていた。80体にも及ぶと思われるアンデットの襲撃を受けていた。


「コムネナ郷に連絡を。サロメリア公にもだ。」


「連絡が付きません。国内、国外のヴァンパイア達全てに連絡がつかないのです。」


アンデット侵攻はアグレム教国で密匿されてきたある事実が驚愕に拍車をかけている。アンデットはヴァンパイアを襲わない、その前提の基にアグレム教国は庇護の名目でヴァンパイアに居場所を提供してきたのだ。


 国の中心地をぐるりと囲む様に並ぶ一般居住区には500年前から建つブロック造りの建物の中にまんべんなく配置されヴァンパイアの隣にヒトが住んでいても気づく事は無い。ヴァンパイアの容姿はヒトと変わらないとは言えあまりに固まって住んでいると違和感が有るだろうと言う先人からの決まりだった。


 実際、中世における魔女狩りの嵐の際も魔女=アンデットは教国に侵入せずアグレム教国の聖域性を高めるのに一役かっていたのだ。それが侵入を許したばかりで無く攻撃によってかなりの犠牲者を出している事に混乱極める枢機卿をよそに、対魔実働部隊は的確な速い展開を見せていた。


 そもそもアグレム教国は10キロ四方程度の面積しかなく本当の意味での国家の体裁は無い。主要な建物は中心に位置する王宮と少数の定住している聖職者達の居住区、世界中から集まる聖職者の為の仮住まい、そして直轄のエクソシスト部隊を含む対人外戦用の実働部隊の宿舎や訓練施設、武器庫などだ。実働部隊は国内の治安維持に当たる警察権も無い、純粋な戦闘部隊で、様々な要請の基に極秘理に各国へ派遣される。特に対アンデット兵器を世界で唯一維持開発している軍隊と言える。


「拡散バリスタを前へ。連射が出来る様に1機4人態勢だ。M型陣型でテルミット部隊配置。周辺に銃機関銃を配せ。」


指揮官とて対アンデット戦の実戦経験が有った訳では無い。この100年で本格的な出動はわずか2回、計3年の他は数体の出現を処理してきただけでは経験の積みようが無い。なのに、各事例を徹底的に研究してきたレポートに基づいて作戦を発動していた。


 日本のアンデット渦も研究しており過去最高と思われるスピードと筋力、かなり高度な知性を有している事を把握している。日本において手に追えなくなった場合、更に日本国が国として滅ぼされてしまった場合にヒトの生存圏を取り戻すべくの使命感の賜が結実していたとも言える。


 出現エリアから考えれば日本型とは別種とも考慮すべきだがさすがにそこまでは及びつかず結果として日本型だった事は吉と出た。


「スエリ国防省にも連絡。対アンデット兵器を宮殿広場に強襲投下。正着率は問わない。どうせここに無ければ役に立たないのだから。」


アグラム教国は国防と警察権を隣国のスエリ国に委託している。スエリ国は永世中立を是としながら「強い力を持たなければ中立を保てない」と言う信念の基に小規模だか強力な軍隊と国策に近い兵器メーカーを有しており世界有数の武器輸出国でも有る。


 アンデットを始めとする対人外戦に特化したアグラムの部隊はスエリのエリコム社で兵器の研究開発、生産を行なっておりエリコム社はソビエト時代のロシアで発生したアンデット渦殲滅戦の折りヴァンパイア企業のコリグランド貿易が買収してヒトとヴァンパイアで対アンデット兵器を共同開発してきた経緯がある。


 教国は王宮の建物を中心として世界で2番目に小さい面積しか持たないが、2000年に及ぶ歴史の中で異教徒や単に領土を狙う隣国の侵攻を受けており王宮の周りには大きな広場がぐるりと囲んでいる。


 携行ミサイルなど無かった時代に直接攻撃することは不可能であり王宮さえ守れれば負けとならない時代背景も有って「難攻不落の無壁要塞」と呼ばれた時代も有るのだ。


 もっとも大軍を持って周囲を取り囲み一気に攻め落とすなどは戦法としての品が認められない時代の話しでもある。驚くべきは1000年前を最後に侵略を受けていないのに防衛的観点から広場は残され続けていたと言う点であり今回の戦闘では作戦展開の要となっている。


「拡散バリスタの展開が終わった者は敵を認め次第遠距離射撃で牽制しろ。時間を稼ぐんだ。」


ダンッシュルルッという特徴的な発砲音と共に砲弾が打ち出される。100 M先で弾頭が破裂する拡散バリスタ弾は5センチ程度の特殊鋼で作られた槍状のビットが直径10センチの砲弾に2万個も内蔵されており50Mや100Mの距離に合わせて遅延信管による打ち出しとは別の火薬によってバラ撒かれる。巨大な散弾銃の連射をしている様なものでありロシアのアンデット殲滅戦で主力兵器となっていたものだ。


「初期に侵入した3体は倒した。王宮を背に12時の方向に集中して陣を取れ。」


アンデット戦の救いはその知能程度により四方から波状に攻撃するなど高等な戦術は無く、今回も概ね一方のみから押し寄せている。着弾すれば甚大な被害が出るミサイルが飛んでは来るが、迎撃手段は有る戦いのようなものだ。しかし撃ち漏らせば即窮地なので気を緩めるられる訳は無い。


「50に替えて誘い込め。テルミット部隊スタンバイ。」


計10機の拡散バリスタ砲の展開が完了し遠距離用の100M炸裂弾から50Mに変更される。100M先で足を止めてもテルミット弾の弾速が遅すぎて捉えられないのだ。50Mなら火炎放射機でも届くかもしれない。拡散バリスタ弾をいくら当てても足止め以上の効果は無い。テルミット弾も打ち出し40Mから50Mで強制的に発火する仕掛けになっているので拡散バリスタで足止めして炎で焼き尽くすのがアンデット戦の基本になっているのはソビエト戦に確立されたものだ。


 ソビエトに現れたアンデットは日本型に比べ数段遅かったがそれでもヒトよりはずっと速い。そこでエリコム社での開発方針として精度は高いが一度アンデットを見失うと再度捉えるのに致命的な時間がかかるフルコンピュータ制御では無く、必ずヒトを介すセミオートを基本としている。昨今のハード進化によりフルオートも検討されているが日本型のスピードを考えると勘と言う最速能力を持つヒトはやはり最善の制御系となるとされていた。





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