あなたはやっぱりアレですか?⑦
「金の問題ですか。」
吸血種族との距離が遠くなる感覚と共に納得しない話しでも無い。皇成だってアグラム教国に雇われていなければあんな化物相手に闘おうとしないだろう。仮に人生が違って自衛隊員だったとしても、志願したかと問われれば会敵生存率からすれば自殺行為に等しい以上明快な即答はしかねると言わざるを得ない。ヴァンパイアはアンデットに確実に勝てるのが前提でようやく反論出来ると言えるがそれとてその能力で仕事して何が悪い、と言う訳だ。
「しかし、今回の席はアグラム教国の要請によるものであり綾奈さんへのアプローチであるのですが、もう一つ今回のアンデットがあまりに強く、またヴァンパイアにも向かって来ると言うイレギュラーが有ります。」
「普通は向かって来ないんですか?」
「一概には言えませんがヒトも例えばレスラーに喧嘩は売らないでしょう。明らかに相手が強ければ向かっては来ません。過去にはそこまでの知能が無いアンデットがいましたし、これがロシアの例ですが、あの時は殲滅戦をしましたね。身体で相手をしていても面倒なので兵器企業を買ったのもあの時です。今回のアンデットを生み出しているヴァンパイアの戦闘力が高いのは間違い無い。同時にヴァンパイアへの憎しみを感じるのです。ゆえに向かって来るのではないかと考えています。」
「ヴァンパイアを憎むヴァンパイアか。あり得るのですか?」
「我々はヒトと変わらない部分が多いと申し上げたはずです。秩序が保ちやすいのはメガリオの力、戦闘力が高いからです。例えば私はプレナガ30人と戦っても負ける事はありません。そんなメガリオがヴァンパイア界の中心組織に30以上所属しているのですから簡単にどうこうとの考えは出来ないのです。しかし今回のアンデットは変わっています。実は今回我々もアンデットを数体始末しているのです。最初はいつもとあまり変わらなかったが少々気になったので継続して狩り続けました。発生後ほとんど倒せ無かったのにその後は現れていないでしょう?」
これはアンデット渦の不思議の一つだった。ある一定時間で行動不能になると思われていたが違ったらしい。
「アンデットが次第に攻撃的な動きを強めているのは間違い無いようです。プレナガ以上ならアンデット20体と同時に戦っても大した問題では無いと思いますが我々の存在も表に出てしまうしグロウ辺りでは負けるかも知れません。」
「反主流派は本当にいないのですか?もしそいつらがアンデットの能力を上げる術を見つけたとしたら。」
「ヴァンパイア同士の戦争ですね。ただ反主流が存在しても非常に極少数で何人もいないでしょう。しかしアンデットを100体も作れば闘いにはなりますし、それでも出来れば我々としては表に出たくありません。」
「長い前置きでしたね。それでアグラムの要請に乗ったと言う訳ですか。」
「まあ、そういう事です。」
しかし協力してくる理由が有るのはむしろ安心出来る。ヒトが何人死のうと全く気にしない輩が急に訳無くお手伝いしますの方がよっぽど気持ちが悪い。
「さて、ずいぶん長い時間お付き合いいただきました。この件はアグラムに報告して下さい。新たなアンデットが現れなければ一週間後にまたお会いましょう。綾奈さんともいろいろ話し合ってみて下さい。綾奈さんについては下条さんが混乱はされていないようなので安心しました。流石は隊長さん、ですね。」
外に出るとひんやりした空気に包まれた。朝晩はずいぶん涼しい季節になってきた。
「お兄ちゃん、私、気付いてた。普通のヒトじゃ無いって。なんだか、こう、自分がヒトよりは強いのが分かってたんだよね。だからアンデットと戦えるのであってだから会長さんがどうする?って聞かれた時意味分かん無くて。ヴァンパイアかあ。アンデットよりいいけどこんな簡単に化物になっちゃっていいのかなあ。」
「綾奈、お前は化物じゃ無いだろどう見ても。元々ヴァンパイアは人間だと言っていたじゃないか。」
「うん。そうだね。」
「お前がヴァンパイアでも何も変わらない。俺が今一番気になるのはアンデット戦でお前に無理をさせてしまう事だ。お前が無事で任務を完了出来るのならいくらでも無理してもらうがそんな保証は無いんだ。これからも何か感じたら素直な気持ちを正直に話して欲しい。」
「うん。わかった。」
最寄りの駅から電車に乗り込み家に着くまで二人はそれぞれの想いを胸に多くは語ら無かった。