あなたはやっぱりアレですか?⑥
「イサメガ?」
「ああ、失礼しました。我々の呼び習わしの単位です。発現してから100年程度をイサルテ、100年から200年をグロウ、200年から400年をプレナガ、400年以上をメガリオとしています。特に覚えていただく必要は有りませんがやはり年を取っていた方がより多くを知り基本的に強いのでなんと言いますか、偉い、とは言えます。グロウ以上であればあまり上下関係は有りませんが。」
「なるほど。女性に多い理由でも有るんですか?」
「出産、です。そこで血の力を思い出して欲しいのです。ヴァンパイア同士の子供が必ずヴァンパイアとして発現する訳では有りませんが確率はとても高いです。そんな子供が30歳を過ぎても発現しない場合、誘発する為に血を飲む者がいます。ですから血の力を期待して老化を止める為に求めるのは無理も無いのかも知れません。誘発と合わせて迷信の様なものなのですがね。しかもこういった場合に力を得るには飲むのでは無く直接吸う、更に吸い尽くすと効果があるとの御託付きなのです。確かにいつ抜かれたのか分からない血液パックより今生きているヒトから直接吸った方がエナジーは高いと思いますがね。」
コムネナは少し苛立たしさを露わにしながら言い切った。
「それでは老化を止めたい女吸血鬼が暴れ回ってると。」
「そうです。過去のアンデット渦はほとんどそれが原因でした。しかも今回は過去稀に見る強さです。アンデットの属性は作り出すヴァンパイアによって決まります。作り出しているヴァンパイアも強い、と言うことです。さらに今回困った事に11体も同時に現れました。吸ってから起き上がるタイミングと言うのはだいたいいつも同じです。アンデットとなった個体を拘束しておくことは難しいです。あのパワーですからコンクリート製の部屋でも砕いてしまうし強く縛っておけば自ら自壊してでも外してしまいます。同時に行動を開始したという事は吸った日付が3日ずれたとしても…。」
「一日4体近く毎日吸った?」
「もちろん何らかの手段で有る程度の時間をかけて作っていった可能性はゼロでは有りませんけどね。成人男子一人の血液量をご存知ですか?」
「体重の約8%。70キログラムなら約5・6リッターと言ったところですよね。」
意外に博学な皇成だが戦闘を行う者は身体について学ぶものだ。
「そうですね。全てを吸い尽くさなくても3リッター程度で死に至ります。しかし重さにして3リッターとは約3キロ、掛ける3人分です。実は一日にヒト一人分なら吸えるのですが3人分10キログラム分は狂気に憑かれても無理だ。吸った血を吐き出して貯めると言うのも有りますが。」
「主たる女吸血鬼の他に仲間がいるということですか?」
「ただでさえ女性がヴァンパイア化するとヒトだった頃より綺麗になる個体は多いのですが、狂気に憑かれたヴァンパイアは確かに美しい。その秘めたるエネルギーをたれ流すように発散し続けて、見る者を魅了する事はあります。」
「崇拝か。」
「我々は神を持ちません。超越者の概念は有りますが崇める訳では無い。しかし、精神的に安定を欠いている者なら、狂気に憑かれた美しい女性を崇める輩は、います。」
「ヴァンパイアは悩み多き種族なんですか。」
「それぞれでしょう。その部分はヒトと同じです。能力的に高い分、悩みは少ないがそれ自体に悩む者もいますしね。」
「ところで貴方達はアンデットに勝てないんですか?」
これは話しが始まった最初の方から持っていた疑問だった。アンデットをヴァンパイアが生み出しヴァンパイアがそれを嫌うならヴァンパイアが倒してくれればいい。
「基本的にアンデットに負けるヴァンパイアはいませんよ。最も弱いヴァンパイアでもいかなるアンデットにも負ける事は無いでしょう。ヒトとヴァンパイアとの比較は避けますが、アンデットとなら明らかにヴァンパイアは上位種なのです。」
「ならばなぜ今まで奴らを倒して来なかったんです?綾奈の力が無ければ俺達は死ぬ為に挑んでいたようなものだったんですよ。」
「?」
コムネナの心底から意外そうな態度を見た時、皇成は嫌な予感がした。ヴァンパイアについて知り、同じ人類の範疇で有ると言えなくもない事を理解し、アンデット渦はイレギュラーで有ると言う認識を根底から覆される予感。
「なぜ我々がアンデットを倒さねばならないのですか。我々にとってアンデットは脅威でもなんでも無い。目の前に現れて攻撃されれば別ですがあれらは我々には何もしないのです。友人では有りませんが、虫けらにいちいちかまいはしませんよ。」
「人間が、ヒトが殺されている事はどう思うんですか。」
「今回もアグラムと日本政府から依頼は有りましたが日本政府の提示額が5000万円と一体に付き1000万円、アグラムに至っては神の子の義務だと言うのだから話しになりません。英国に100年前発生したアンデット渦では莫大な報酬を示してきたしロンドン市内のいくつかの不動産も寄越して来ました。ソビエト連邦時代のロシアも様々な権益を出して来ましたしね。それらに比べたらあまりに少額過ぎて、ですね。」