あなたはやっぱりアレですか?④
アグレムがコムネナに会う様に指示してきた経緯とコムネナがヴァンパイアだと言う事実から予想出来る事だった。
「綾奈…。」
「続けて下さい。まさか吸血鬼だとは思わなかったけど、アンデットじゃ無くて良かった。自分で自分を撃ってみよか考えちゃって。でも、アンデットと吸血鬼は本当に違う者なの?」
「全く違う物だよ。」
急にくだけた口調になったコムネナが続ける。友達か仲間を見つけたか再認識したかの様だ。
「アンデットはヴァンパイアによって生み出される。これは確かだ。ではそもそもヴァンパイアは?これは諸説有り分からない部分も多い。だがその“分からない”は“なぜ人間が存在するのか”に等しくあまり意味はあるまい。ヴァンパイア、日本語では吸血種族と呼んで欲しいものだがヴァンパイアは単純には人間が転換して成るんだよ。ヒトには一定の割合で吸血種族因子が内包されていると考えられている。これがある日突然発現するとまず特異な力に気付く。身体の構造が変化する訳では無いが今まで使われていなかった筋力を使ったり脳の70%程度まで活性化したりと自らの能力の向上が有るのだ。通常は肉体的と脳的両方に変化が見られるが極稀に脳活性のみと考えられるケースが有る。寿命がヒトと変わらないのでヴァンパイアとはしていないがね。」
そこでコムネナは一息つくと銀製の呼び鈴を優雅な仕草で鳴らす。秘書改め執事が優雅にしかし素早く近づいてくる。
「コーヒーを……」
「3つ下さい。」
綾奈が元気良く注文する。余程気に入ったらしい。
「だそうだから頼みます。ゆっくりでいいよ。」
一礼して下がる執事を軽く一別した後向き直ってテーブルの上で軽く手を組んだ。
「それで吸血…種族は血を吸うんですか?」
皇成が単刀直入に聞いてみる。
「もちろん最も興味深いところだと思うがもう少し回り道させて欲しい。吸血種族になると筋力と脳力が増すがもう一つの大きな特徴が」
コムネナは少しだけニヤリッとしながら
「超能力が使える様になる。概念としてはテレキネシスと言う奴が一番近い。手を触れずに物を持ち上げると言うアレだが実際には少し違う。ヴァンパイアが超高速で移動出来るのは自分で自分を超能力で運んでいると思われるんだ。ジャンプ力も同じだ。この力は対象に直接働いているのでは無く電磁場を操り言わば磁石のS極とN極を意識的に作り出せるらしい。同極の反作用によってあの動きが出来る訳だ。また、この力が無条件に物を動かす念動力では無く電気を扱うものとして、その電気を電波状に飛ばし目に見えないが実に有るものや壁の向こう側の動きを知る事の出来る者もいる。相手の脳を電気的に刺激して記憶を操る者や消す事が出来る者までいる。もっとも記憶に関してはいじった副作用で消えてしまうらしい。いずれにせよここまで来るとヴァンパイアだから誰でも出来る訳では無く個々の才能だね。誰よりも速く移動する者がいたりね。」
コムネナの説明はヒトの常識には当てはまらないがヴァンパイアの能力を解説するに分かりやすいものだった。
「だから血を吸う件はどうなんだ?」言いかけた時、またしてもコーヒーが運ばれて来た。タイミング良すぎであり執事の能力の高さなのかも知れない。
実際、身体的能力の高さは分かった。それだけであれば上位種族を気取ってヒトに君臨でもしようとしない限り共存は可能に思える。問題はヒトを襲って吸血するのかどうか?だ。ヒトを襲って吸血するのが吸血種族ならばやはり吸血鬼なのだ。
そんな事実を綾奈と絡めて考えたくは無かった。
コーヒーが配られ皆がすすり始める。綾奈など熱さを堪えてガブ飲み状態だ。
「次に寿命です。ああ気持ちは分かっているから順番で聞いて下さい。ヴァンパイアになると寿命は長い。永遠では無いがヒトに比べれば永遠も同然かも知れません。ヒトの寿命がテロメアによって決定付けられると言う学説は知っていますか?歳を追うごとにテロメアが短くなって行き一定以下になると寿命が尽きると言うもので、未だ確定した現象では無い様ですが我々の研究でもテロメアの様な存在が確認されており多分、正しい認識だと思います。テロメアが長ければ長生き出来る訳ですがヴァンパイアは……ヴァンパイア化するとテロメアの減少が止まります。老化が止まる、成長が止まる、言い方は様々ですが本格的に発現した年齢のまま何百年と過ごす事になるのです。多くは20代半ばから40代前半で発現します。ごく稀に幼い子供や老人と呼ばれる歳で発現する事も有りますけどね。老人は肉体的に衰えているがもちろんヒトの若者など問題にならない体力を回復します。肉体的なもう一つの特徴は脳細胞です。ヒトは生まれてから脳細胞が死滅して、ある意味減っていきますがヴァンパイアはほとんど減らずに一定を保ちます。ヒトと同じように死滅はしますがその分増えるのです。ヴァンパイア化した時より量として増える事は有りませんが70%の容量を使える事も合わせると天才のまま長い時を過ごし、しかも学習を続けて行く事になります。電気を操るのも脳の力らしいとの研究もありますがね。」
コムネナは一息入れて続けた。
「さて血を吸うかですが、決して必須ではありません。一切飲ま無かったとの例は聞いた事がありませんが血を求めて人を襲うなど本来は有り得ませんね。個体差と言うより一種の病気としてのヒトを襲う例はあるのですが100の内100ならないと言える極々稀な例です。」
皇成は崩れる様に緊張を抜いた。
「なぜそれを先に言ってくれ無かったのですか。」
「私にとっては自明の事実だからですよ。ほんの数時間の差ではないですか。それに主題はこれからです。我々がヴァンパイアで有る事、綾奈さんがヴァンパイアで有る事、ヴァンパイアの寿命が長い事、ヴァンパイアはヒトを襲わない事、これらは単なる事実であり今日知ろうと10年後に知ろうと事実は何も変わりません。そういえばヴァンパイアがいかに身近な存在かと言えば日本の吸血民族の代表的な集団が有りますよ。」
「代表的?」
「隠密、忍です。」
「忍者ですか!」