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あなたはやっぱりアレですか?③

左のドアをくぐるとまたもやちょっとしたエントランス状の空間が有り誰も座っていないカウンターがしつらえて有る。更にドアに入ると廊下が伸びて右側にいくつかのドアが有る。


「コリグランド貿易の本社機能は30階に有るのです。29階にはサーバルームが有りましてこの28階には会議室と私のプライベートスペースが有ります。仲間同士の集まりにも使いますし私の住まいも有ります。もちろん住まいはここだけでは有りませんが。」


再度突き当たりのドアをくぐると無機質な小スペースに入る。右手中央付近に立っている腰より少し高い高さを持つ台の表面にコムネナが手をかざすと入口と反対側のドアが自動で開いた。


それでコムネナが「城へようこそ」としつこく言っていた意味を知る事になった。そこは正しく城だった。高い天井はアーチ状に加工され壁面と合わせて全て石作りだ。天井にはレリーフが彫られ壁面には燭台まで設けてある。もっとも燭台にはさすがにロウソクは立っておらすLEDと思われる間接照明が半ばから天井を照らしている。廊下の幅は3M程であり右手には木製のこれも繊細なレリーフが施された重厚なドアが並んでいる。


「こちらにもミーティングルームがいくつか有りましてね。中で全てつなげる事も出来る。そんなに大きな集まりはここが出来てから一度有りませんが。」


単に模しただけにしては高い装飾の質感に圧倒されていると


「材料は全て本物の城から持って来ているんですよ。1753年にドイツで築造された城が取り壊される事になってね。解体工事自体を仕事にして請負って使える部分を加工して貼り付けて有るんです。床が苦労しましてね。城の床として埋まっていた石を薄く切り出して並べるんですが順番を変えると綺麗に収まらないんですね。ヒトの技術力も捨てたものでは有りませんね。」


「なんか凄ぉい。ドイツに建っていた頃はお姫様も歩いた廊下なのかしら」


茶化しを入れそうな綾奈も本物の質感に魅せられている様だ。城を模したアミューズメントパークは有るがさすがに本当に本物の材料は使っていない。ゴテゴテした彫刻も本物の力なのか嫌味がない。


「ここが広間です。」


開け放たれた両開きのドアの向こうはまさしく宮殿の一室とでも言うべき豪奢な装飾ぶりだ。色彩に白色が付け足され華やかさを演出しており小ぶりとは言え豪華なシャンデリアが目を引く。部屋の中心に映画で見る様な長いテーブルが背もたれの高い椅子と共に置かれておりカルテットの演奏でも始まるのでは無いかとさえ思わせる。


「どうぞ椅子にお掛け下さい。コーヒーでよろしいですか。」


「お構い無く、と言うところでは無い様ですね。私はコーヒーが好きですが綾奈は…」


「コーヒーをお願いします。」


コーヒーは飲めない筈では?と皇成は胸の内でつぶやく。服装からして大人っぽくにこだわる位だから意地のようなものだろう。しかしいきなり吹き出されてもかなわない心配を皇成が表情に浮かべているのを見たコムネナは上品な薄笑いを浮かべながら、


「大丈夫ですよ。」


と訳知り顔でささやいた。


「しかし素晴らしいですね。」


お世辞では無く皇成が褒める。もとより城に造詣深い訳では無いが圧巻な内装の前で素直に賞賛していた。


「お気づきの通り城の部分は29階の床を抜いて二層まとめて使用しています。表の会議室は一層だけですからその上がサーバルームですね。」


この時コーヒーが運ばれる。コーヒーを運んで来たのはきっちりスーツを着込んだ若い男性スタッフだ。


「彼の普段の仕事は秘書なのですが本職はこちらなんです。執事とでも言いますか。どちらをやってもらっても優秀な人材ですが。」


皇成は本当にコーヒー好きだったが綾奈のコーヒーはせめて薄めに出してくれればと思っていた。出てきたカップをチラッと見ると全く変わらない黒い液体だ。もちろん文句を言える話しでは無いので綾奈に幸有らん事を祈りつつ仕方なく自分のコーヒーを口に含む。


「うまい!」


確かにコーヒーだが味のふくよかさといい香りといい別の飲み物の様だ。しかし苦味はある。


「綾奈のはホットコーラでした、なんて落ちならな」


栓も無い事を考える間に飲む事を躊躇っていたらしい綾奈が意を決して口に含む。


「う…美味しい!何コレ、コーヒーってこんなに美味しいものなの?!甘くて飲みやすいい。」


「なるほど。砂糖を入れていただけたので?」


「いえいえ、蜂蜜が極少量入っていると思いますがそれだけで甘くはなりませんよ。甘く感じる豆が有るのですが酸味も増してしまうのです。その酸味を抑えるだけ入れさせていただきました。このブレンドは実は私の長年の秘伝の一つでして門外不出ですよ。」


美味しい美味しいとほとんど飲み干してしまった綾奈を横目で見ながら皇成が今とばかりに質問する。


「長年ですか……。何年位の事をおっしゃっているのですか。」


「コーヒーについては200年位ですか。でも秘伝についてはここ50年が主な経験ですよ。」


 「吸血鬼……か……。」


「日本語訳でそうなのはもちろん知っていますが鬼は酷いですよ。ヴァンパイア、は気にならないんですけどね。」


「やっと白状、でも有りませんよね。会長どころかアグラム教国そのものだって知っている訳だ。こんなに身近に化物がいるとは感動ですよ。」


「今の一言は聞き流しましょう。私は強い。素手はもちろん貴方が銃を持っていても私が勝てるのは明白だ。お疑いなら試しても良いのですがそんな私にそんな露骨な口を利くのは平静ではない証拠です。違いますか。」


「お兄ちゃんに手を出したら許さないよ。」


皇成は綾奈を見やる。その口調は覚悟を決めたほどに固苦しく重いものでは無くむしろチャラけている。しかしチャラけているにも関わらず自信に溢れたあの戦闘時以来現れるもう一つの人格だった。皇成が言い訳する。


「いや、聞き流して欲しい。あなたはアグラムの紹介なんだから言わば雇主の推薦だ。正体がなんであれ言葉を間違えた様だ。」


「もう流れてどこか行ってしまってます。私は今日、貴方が知りたい事、知るべき事、知っておいて欲しい事全てお話しするつもりです。しかし、せっかくですから先手は取らせていただきましょうか。綾奈さんの事で相談でも有りませんか。」


白々しくも嫌味が無い、役者は相当上の様だった。


「そうですね。」


会ったばかりのヴァンパイアに相談しようと思っていた事では無いがあの日に見せた綾奈のことはいつかいかなる手段でか調べ考えねばならない事だ。


「綾奈は一体どうなっているんだ?何が起こっているんだ?」


あの夜に11体のアンデットを殲滅したのは綾奈だ。もとより綾奈でしか、綾奈の驚異的な集弾能力が無ければ一体たりとも倒す事におぼつかないのだから当然だがそれでも班員達が身体を張ってアンデットの動きを止めると言う前提が必要だった。前半戦は確かにそうだったが後半は違う。綾奈一人で、純粋に綾奈のみの力で倒していた。


 前半にしてもスタングレネードの閃光の中、いち早く撃ち始めており当たっていたのかいなかったのか見え無かったし確認する術は無いが閃光が、収まった後の状況を考えると当てていたと考えるのが自然だ。


あの閃光残る中彼女には見えていたのか?

 後半戦は言うに及ばない。ジャンプ力もマシンガンを叩き付けた力も人間ではあり得ない物だ。

 ならばなんなのだ?


「綾奈さんはヴァンパイア、我々と同じ吸血種族ですよ。」


会長が皇成にコリグランド貿易に行くように言うことを決心させた理由の一つは綾奈の本当の能力開花だった訳だ。





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