あなたはやっぱりアレですか?②
「これは凄い警備だな。あのガードマンも正規軍並みの訓練をしているよ。」
当の皇成も戦闘を行う者としては細っそりとした体格こそ控えめだが、足運びや視線配りまで隠し切れない臭いをバンバン放っているので受け付けフロアに入った時から先方に目を付けられている。逆に言えば臭いを隠す訓練をしていない、スパイの類では無い、と言う事だ。いずれにせよ睨み合う様に視線を交わしながら受け付けカウンターに歩いて行く。
綾奈がそんな皇成につっこむ。
「ちょっとナニ見つめ合ってるの?タイプなの?」
「訳ないだろ。大人っぽいツッコミはやめろ。」
この程度で大人っぽいとはどれだけ子供扱いなのか?皇成は綾奈が抗議に移る前に受け付けに話しかける。
「下条と言うものですが28階のコリグランド貿易さんに約束なのですが。」
アグレム教国から借りている部屋のクローゼットに最初から有ったスーツを着てはいるが明らかに着慣れていない様子と、連れは制服で行く、と言う方向を早々に却下して今日の訪問では服装の事ばかり気にしていたオフィスビルには不似合いな子供である綾奈だったから、胡散臭く見られていたかも知れない。
ちなみに綾奈は赤いジャケットに白いパンツという「大人っぽい」恰好をしていた。皇成の気のせいかも知れないが、お呼びでない風の雰囲気を醸し出していた受付は、用件先を伝えたとたんに態度が変わった。戦闘と言う目的の為に意外にも皇成の人間観察眼は良いものなのだ。
「只今確認致します。少々お待ち下さい。」
事務的なセリフの後内線をかける。緊張こそ見せないが不自然に無表情でありポジションに徹した対応に努めようとしていると思われる。
「お待たせ致しました。こちらにどうぞ。」
全てのセキュリティーをキャンセルした通用口に招き入れる。ガードマンがいぶかしげに視線を送ってくるがもちろん気にする必要は無い。
エレベーターホールは行き先によっていくつかのブロックに分かれており、例えば20ー29階用ならそれ以外には止まらない訳だ。受付の女性は二人がエレベーターに乗り込むと深々とお辞儀をして見送る。皇成は既に28階のボタンが押されている事に気付くが受付の女性は一度もエレベーター内に足を踏み入れていない。
「リモートか、専用エレベーターか。本当に厳重な事だ。」
28階で下りると受け付けロビーの様な空間が4つのドアがほぼ等間隔に並んだ扇状の壁まで広がっている。人は誰も居ないしインターホンも無い。
「3つのドアはダミーに近いよ。中にはなんにも無い。メインは一番左のドアだけね。」
28階に着いて戦闘中に見せた尊大ともとれる落ち着いた自信をみなぎらせる雰囲気を出して綾奈がつぶやく。その言葉を待っていたかの様に一番右のドアが開き一人の背が高い男が姿を現した。
「ようこそ我が城へ。我々は普通の人間だけでは無く超感覚を持った存在にも敵対する者がいるものですからちょっと仕掛けがあるのですよ。」
綾奈のつぶやきを意識したセリフで有る事は明らかだ。
「盗聴器か。カメラならともかく悪趣味だな。」
綾奈は軽い驚きから嫌味の様なセリフにはあまり反応していない。
「まぁ、どうぞ。私はゼノン・コムネナと申します。コムネナとお呼び下さい。」
優雅に一礼しながら男は自己紹介する。
「改めて、下条皇成さん、綾奈さん、どうぞ我が城にお入り下さい。」