好きでやってる訳じゃないけどね③
綾奈は急な問いかけに戸惑っていた。今の今まで「私は闘う為に訓練しそれを期待通りにやりとげた」との認識しか無かった為だ。
「私は……、私は皆さんの役に立ててそれが当然だと思っています。でも毎日だと大変かも知れません……けど……。夜遅くまで起きていると次の日眠いですし……。」
綾奈の我ながらおボケな回答だった。でも、昨日からそれ以上の事は考えていなかったのだ。
「綾奈……。お前……。」
皇成が目をわずかにうるませながらつぶやく様に言う。
「眠いってそれは今どうでもいいだろう?命のやりとりがどうとかそんな話だぞ?まだ、そんなにお子様だったのか……。」
一同沈黙。後。
「ハッハッハッハッ。」
今まで沈黙していた会長の対面に座るこれは明らかに日本人と思われる人物が口を開く。
「ハッハッハッ。いや綾奈君。私を覚えているかい?支部長の嶽石だ。3年ぶりくらいかな。副支部長はわざと会長にも私にも君と接触しないようにいつも画策していてね。心の中では最初から君を闘いに巻き込みたく無かったんだろう。君を闘いの切札とすべく訓練を受けさせ続け、しかし躊躇いを捨てきられず、しかも実戦では十二分な働きを見せた。我々の彼に対する評価は上がった。君に対する期待など計るすべも無いほどだ。しかしそうだね、君は出来る事を精一杯やってくれたに過ぎない。ありがとう。皇成、どうだろう。もう少しやってもらっては。」
支部長はゆるやかな笑みを浮かべる。
「彼女は今後数回の出撃で変調をきたすかも知れない。それが分かっていても我々は期待せずにいられない。申し訳ない事だ。だが今後1回ごと慎重に様子を見極めて辛い思いをさせ無い様に、だがそれまでは戦闘に参加してもらおうじゃないか。綾奈君、なんでもいい。疑問が生じたらお兄さんに言いたまえ。我々は君の気持を優先する。」
しかし綾奈がその時考えていたことは「眠いんですけど。私はとっても眠いんですけど」一色だ。寝られれば後はどうでもいい。
「私が出る事で死なずに済む人がいる。役に立てるなら私は出ます。」
昨日の作戦から明け方帰って来て、強引にいつもの時間に起きた時には既に皇成はいなかった。書き置きでも言葉でも学校に行けとも行くなとも言われず結局登校はした訳だがもう眠さは限界だった。
「とにかく、今は休みたくて……。」
綾奈はそう言うとすっと目が閉じてしまう。
「会長、支部長、今日は綾奈を休ませたいのですが。」
「分かった。とにかくしばらくは出撃要請に備えて欲しい。彼女が希望で有ることは間違い無いのだ。」
会長の言葉に
「綾奈次第です。」
と答える皇成。
「さあ、行こう。」
綾奈は皇成に連れられエレベーターに乗ると自宅に帰り自分の部屋にたどり着く。もう、眠い。半分無意識に服を脱ぎTシャツとお気に入りな牛柄のスウェットを履くとそのままベッドに倒れ込んだ。