第二部
そんなこんなで数時間後、三年B組のメンバーが、ぞくぞくと学校の近くにあるファミレスに集結していた。楓が来る頃にはなんと、クラスの過半数が集まっていて、その輪の中心では学級委員長の前原がメガネを押し上げながらクラス名簿を確認していた。
楓は、たかが中学最後のテストの打ち上げで、ここまで集まるとは思っておらず、正直驚いた。
真美が楓の所へ走ってきた。
「あ〜!カエデやっと来たね。遅い遅い!うちとサエなんて一番だったんだよ。」
「お、桐島さんも来たし、これで後来てないのは・・・」
さすが学級委員長、すかさず名簿の楓の名前の欄にマークを付けて、再び確認作業を開始。
「後、三人だ。ショウとヨッシーと、後モモシロさん。」
「えっ、ショウ君達来ないの・・・?」
肝心の翔太郎がこないのでは、楓も来た意味が無い。楓がおそるおそる前原に尋ねると、彼は委員長らしく胸を張りながら
「大丈夫!三人とも来るよ。でもさっきメールしたら、今まで寝てたから、すぐ行くって言ってたよ。ヨッシーは塾があるからちょっと遅くなるって。モモシロさんは時間間違えてたみたいでさ。」
と笑った。
「もうだいたいそろったし、そろそろ始めよう!乾杯は全員来てからということで。」
前原の号令を待っていたかのようにして、皆はガヤガヤと店内に入っていく。
三十ニ名の中学生を収納したファミレスは途端に騒がしくなる。真美と紗絵の同じテーブルに着いた楓は、思わずため息をもらした。
「何、カエデもう疲れたの?うちらの夜はまだまだこれからだぜぇ!」そう言ってヘラヘラと笑う真美は、隣の席の人のフライドポテトをつまみ始めた。
紗絵は打ち上げだと言うのに、クラスに四、五人はよくいるマジメさん達にせがまれて、数学を教えている。家を飛び出してきた楓はのどが渇いたので、ウーロン茶をズーズーと音を出しながら飲んでいた。
「カーエーデ。」突然後ろのテーブルから声がかかった。振り向くと、そこにいたのは紗絵と同じく幼稚園から仲が良かった、亮平だった。
小さい時は誰でもがきっと名前で呼ばれていたと思う。
でも、中学生、早ければ小学校高学年ともなれば、異性の事を名前で呼ぶ子はまずいなくなる。皆、何とか名字で呼ぼうとするものだ。これは特に男子に見られる傾向だろう。
しかし、亮平は違った。女子の中で一番仲が良かった楓の事だけは、中学三年になった今でも、ずっと下の名前、つまりカエデと呼んでいる。まぁ楓本人は気にしていないが。
「下品だな、中学生にもなって音たてて飲み物飲む女子いねぇよ。」
「いいじゃん別に。亮平はうちの保護者じゃないんだからそんな事で注意されたくありませーん。」
「そういや、ショウはまだ来てないんだよな」
と、無理やり亮平は話をかえた。
「ぐっ・・・・・。」
思わず楓は言葉につまり、赤面を隠せない。
楓が翔太郎の事を好きなのを知っているのは、真美・紗絵のほかにもう一人いた。そう、亮平だ。
周りからはあまり分からないが、亮平と楓はお互いの恋の相談もしているほど、お互い信頼をおいている。楓は翔太郎の事を好きなのを告白し、なかなか口を開こうとしない亮平の口を割らせた。
亮平の好きな人というのは・・・・・。
他でもない、楓の親友の、真美だった。