追放聖女は騎士の寵愛を受けるだろう
シャーリー・リーヴェットは聖女であった。
とある勇者一行の紅一点、聖女であった彼女が何故追放されてしまったのかは言うまでもない。勇者が彼女との信頼と自身のこれから先の栄光を天秤にかけ、彼女を見捨てたのだ。全ては勇者がこの世界で生き残る為。生きて、王として民を支配し、私利私欲に生きる為にそれを咎めるシャーリーが邪魔になった。
勇者であるユウキの全てを受け入れて、彼の我儘も「そうした方が良いです」と言い全肯定した王女は彼を自身の夫として迎え入れたのだ。
「シャーリー・リーヴェットは娼婦の娘である。聖女の力なんてそもそも持っておらず、王女こそが聖女である」
そして馬鹿二人は手を組んで、私を堕とし入れる為の事実無根の噂を流した。
それを聞いた国民たちはシャーリー・リーヴェットを聖女ではなく穢れた聖女として扱い始めた。
同じ勇者パーティーにいた召喚士はため息をつき、「あれを召喚するべきでは無かった」と嘆いた。そう、勇者ユウキはこの世界の人間では無かった。
ユウキはそもそもこの世界を救うために召喚士アレクシスに召喚された人間である。彼は異世界から持ち込んだ知識で魔王を倒した。
「これは俺が一人で成し遂げたことだ」
彼は正確に難があった。召喚時に人物の選択が出来なかった為、かつての勇者の器に押し込められた魂が彼だった。勇者の剣を使うことが出来たのも、かつての勇者の器にユウキが入った為だった。それを彼は自分一人で成し遂げたと勘違いした。
私の回復術、白魔法が無ければ何度も命を落としていた可能性もあった。召喚士のアレクシスが居なければ危なかった場面もある。騎士であるリロイが居なければ魔物に殺されていた場面もあった。
私たちが居なければユウキは魔王を倒すことだって出来なかったかもしれない。
それらのことを全て記憶から無くなったかのように忘れて、全てはユウキが居なければ何も出来なかったと言い始めた。
それを王女は信じた。そして、王女を溺愛していた国王はユウキの発言に嘘はなく、彼を助けなかった私たちを悪として追放すると王命を出してしまったのだ。
大きく息を吐きだした私は何も言えなかった。
ただでさえ国民のことを考えずに自分たちの事しか考えておらず、私やアレクシス、リロイに「魔王を討伐せよ」と無茶ぶりをした人間である。次期近衛隊長と言われていたリロイを王女が嫌がったからという理由で私たちと組ませた。
アレクシスも同じだった。彼女も召喚士としての腕はこの国一番だったが、これは王子との婚約を破棄したことで決まった。
「あんなクソと一緒になるくらいなら死んだ方がマシ」
そう彼女は言っていた。
私の場合もくだらない理由だった。聖女に選ばれたから、それだけだった。それだけで私は王女に嫌われ、この勇者パーティーに入れられてしまった。本来ならば聖女と言えば傷ついた民を癒やし、魔物が国内に侵入しないように結界を張る。そんな役割を与えられているはずだが、この国では意味がなかった。この国は聖女が、召喚士がどのようなものであるのか理解していなかったのだ。
リロイはその現状に悲しみ、国王に異を唱えたが無駄だった。御伽噺のような事があるわけがない。そう言われてしまったのだ。
再び三人で大きく息を吐きだす。
それはユウキの馬鹿加減に拍車がかかり破滅への道を歩んでいると三人とも理解しているからこそ、これからどうしたものかと話し合っている最中だ。
「シャーリーにお熱だったのに、ユウキのクソ野郎」
「アレクシス。あのクソ勇者は私が湯浴み中に襲おうとしたのよ」
「おい、シャーリー。それは聞いてないぞ」
「二人には言っていなかったからね」
アレクシスは「女の敵じゃない」と言い始め、リロイは今にもユウキを殺しに行きかねない表情をしていたので「座って」と言うしかなかった。
リロイはそんな私の発言に納得していないようで、椅子に座り直し「で、いつ殺しに行く」と言い始める。
「殺したら手配犯になるわよ、私たち」
「そもそも、シャーリーが穢れた聖女と言われたという事は味方した人間は殺されるってことじゃないの」
「そうね」
「じゃ、やっぱり殺そう」
「リロイ、やめて」
アレクシスと私はため息をつくしかなかった。
ユウキをこの世界に転生させたのは私たち。修道院の奥に安置されていた綺麗な状態の勇者の肉体を使ったのも私たち。全ての原因は、魔王を倒したいという気持ちで倫理的なことを何一つ考えずに行動した結果だ。
だからこそ、私はこれ以上なにも言えなかった。穢れた聖女と言った烙印を押されても、私とアレクシスが選択したことによって起きてしまった結果なので何も言えなかった。
それを知らないのは、ユウキとリロイだけ。この事は誰にも言うつもりは無い上に、私とアレクシスはユウキを殺す手段を持たない為なにもできないのだ。これから先、この国が破滅に向かったとしても何も私たちは出来ない。
再び私とアレクシスはため息をつき、これからの事を考えるが何も出て来ない。
「この国を出ると言うのはどうだろうか。そもそも、シャーリーを追放するという事はそう言う事だろう」
「この国の結界はどうするのよ」
「解除すればいい」
リロイは簡単に言う。アレクシスも少しだけ頷いた後に、「私はこの国を出て、自分の国に帰るわ」と言って部屋を出て行く。残されたのは私とリロイだけ。
「リロイは」
「そもそも騎士団を退団している」
「勇者一行の騎士だったから」
「シャーリーの事を穢れた聖女と言ったあの男の元で働かない」
「でも、貴方だけでもこの国で生きて行けるでしょう」
「シャーリーが居なければ意味がない」
「はあ」
本日何度目になるかわからないため息。
リロイは私をじっと見ている。こんな真剣な話をしているのに、彼は私の手を取り「俺と一緒にこの国を出よう」と言うのだ。まるでプロポーズだ。いや、確実にプロポーズそのもの。
元々、彼が私に抱いている好意を私は感じ取っていた。しかし、私は魔王を倒すことに必死になり、彼の気持ちに応えなかった。彼の私に抱いている感情に向き合わなかった。ただ、目の前で戦うユウキを守るために、戦ってくれていたリロイを守るために精一杯だった。
「シャーリーが言っていた、各国を一緒に巡ろう」
「話が飛躍していない?」
「聖女の能力を改めて理解したこの国の人間たちがお前を狙うかもしれないからな」
「確かに、各国を巡っていた方が足取りはつかめないけど」
「お前を虐げた人間が居る国を守る価値なんて無い」
「それでも」
「魔王討伐で今までの恩を俺達も、アレクシスも返しただろう」
それと一緒に厄介な人間をこの国に置いていき、この国は破滅へと追いやられているが。
そう言いたかったが、私は何も言えなかった。
リロイは私が「はい」と言うまで手を離さないのも理解している。その証拠に、彼は私の手を握り、じっと私の瞳を見つめているのだ。
この状態で私は逃げる事なんて出来ない。アレクシスもそれがわかっているからこそ、部屋から出て行ったのだろう。彼女の事だ、そのままこの国の外に描いている召喚陣の一つに飛んで行っているのかもしれない。
嗚呼、本当に。私は厄介な人間に好かれるものだ。
「ねえ、リロイ」
「嗚呼、どうしたシャーリー」
「穢れた聖女だけど、良いの?」
「お前は本物の聖女であり、俺の女神様だ」
「……」
彼はこんな人間だっただろうか。いや、私と結ばれたいからこそ、こんな歯が浮くようなセリフを言っているのかもしれない。
「仕方ないわね、この手を離したら許さないから」
そう言って私は彼の手を握り返すことしか出来なかった。
かの国は、その後滅亡を迎える。
勇者は聖女による女神の加護を受けていた上に、彼が知っていたゲームでは王女と結ばれた事でハッピーエンドとして終了したからである。その後の話も何もなく、未来もわからないまま聖女を失ったことにより勇者は呆気なく魔物に喉を嚙み切られて死亡。
近衛騎士団も、王女が優遇するものばかりで実力もなく、国を守ることも出来ない。
何よりも、シャーリー・リーヴェットが施していた結界が解除された後に、誰も結界を張ることが出来なかったことが大きい。
これが本物の聖女を穢れた聖女と言い追放した代償である。




