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彼女と俺の●●●  作者: 老川


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8/9

第八話

月曜日も朝から同じような光景が繰り返されていた。教室と学校に広がる嫌な空気。深森に向けられる無遠慮な視線。じっと耐えるような彼女。そして、何もできない俺。


「今日も待ってる」、どこか送り慣れてしまったメッセージをスマホに入力してから校舎裏に向かう。今日もベンチに先客はいなかった。


ベンチに腰掛け、後悔を抱えながら何をするでもなく時間が過ぎるのを待つ。そうして三十分ほどが経ち、今日も来なかったと諦めて帰ろうかと立ち上がったそのとき、視界の端に人影が映った。


深森だった。手を伸ばせば届けそうな距離のところに彼女が立っていた…


彼女は唇を噛んで涙を堪えたような表情でこちらを向いていた。彼女と目が合うのは久しぶりだった。


「…白石くんは優しいですね」


絞り出されるようなか細い声が耳に届いた。


「俺は…ごめん…」


彼女のために何もしてあげられなかった罪悪感から、目を合わせていることに耐えきれず、よく分からない言葉を口にして目を逸らしてしまう。


「白石くんは優しいですよね」


深森が同じような言葉を繰り返す。


「私の“耳”を見ても何も言わないでくれて」


「噂も知らないふりをしてくれて」


彼女がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「それがきっと白石くんの優しさだったんだって、私は分かってます」


そこまで言うと、彼女は少し言葉を止めて息を吸った。


「でもね、白石くん」


先ほどよりもはっきり聞こえた。


「知らないふりをされるのも痛いんですよ」


ハッとして顔を上げると、そこには目元に涙を溜めた深森がいた。


「私は…ただ…こんな私でも良いって、そう認めてくれる、それでも仲良くしてくれる、そんな普通の友達が欲しかっただけなんです」


彼女の頬を一筋の涙が伝った。


「だからね白石くん」


彼女は袖口で涙を拭って言った。


「さようなら」


そう言うなり、彼女は俺に背を向けて走り去って行った。俺は追いかけることもできずに立ち尽くすしかなかった。


胸の奥がひどく痛んだ。彼女の言葉が時間をかけて沁み込んできた。頭が理解を進めるほどに、心の痛みが強くなっていった。


深森が転校して、もうこの教室には来ないことが告げられたのは翌朝のホームルームだった。

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