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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・3 ゆずれない明日を守り続ける
69/70

69 ・・・ー・ー (VA:全ての通信終わり)

 屋上へ出るドアを背に、腰へ両手を当てた電波監視官の美女は、凛とした姿勢で発破はっぱをかける。


「本機関の任務は一分一秒を争う。時間は最大の敵よ! 理解したか? 万城目研修生(・・・)

 

 ドアの小さな窓から差し込む逆光に当てられた彼女を、僕は階段の折り返し地点から見上げた。


 トレードマークであるポニーテールの形をした秘密道具のエクステは、開花した花のように広がり、いつも着込む純白のレザーコートは、僕が追っていた残像のそれだ。

 ぱっちりと開かれた眼は穏やかに見えるが、その奥に備えた鋭い眼差しは強い信念と意思の固さ主張している。

 僕の守護天使を担っていた彼女は、今は違う役目を背負わされていた。


 階段下から見上げる立ち位置は、女王様に許しを請うようで、気持ちで負けてしまいそうになる。


「じ、時間が敵ってむちゃくちゃな……それに研修生って呼ばれ方も変な気分ですよ」


「Be quiet(おだまり)! やると決めたからには甘えは許されない。日を改めて再テストよ」


「キ、キツいな……昨日は東京を走り回ってヘトヘトで、疲れも取れてないんですよ?」


「ジーメンスにワーク・バランスは無い!」


「マジでブラック職場だ……あの、この謎のテスト、いつまで続くんですか?」


「君が合格するまで」


 東京丸ノ内からジーメンス本部へ戻って来た、その日の夜。

 僕は勢い余って本城さんに監視ゼロ課(ジーメンス)に入りたいと懇願した。

 とはいえ、ジャマーから狙われる危険や、僕自身が周囲を破壊しかねない電波を発する可能性が残っていた。

 そのことを懸念した鬼塚課長は僕を、よりジーメンスの身近な保護下に置く。という名目にして、そのジーメンスの人達の手伝いとして働くことになった。

 

 一応、精神は未来から時空を超えたニ十四歳だが、この時代では十四歳。

 就労もアルバイトも法律的にアウトだけど、保護下に置いた未成年に協力を仰ぐ、という体裁でジーメンスの仲間入りを果たした。


 教育係はもちろん電波監視官の本城・愛さん。


 と、ここまでは願ったり叶ったりだったのだが、いざ入ると急に本城さんは厳しく接するようになった。

 彼女が言うには「危険な電波に挑む仕事だから、死なないように身を守る(すべ)を叩きこむわよ!」と息巻いていた。


 早速、彼女は鬼軍曹として華麗なる変身を遂げていた。


「私が教育係になったからには、一人で戦える電波エージェントに鍛え上げるわよ。覚悟なさい! この極超短波少年」


「あの、なんですか? それ」


「君のアダ名。いいでしょ?」


「よくないです」


「なーんでよぉ? 最初に会った時、君からは地デジと同じ極超短波が発せられてるって言ったでしょ? だから極超短波少年」


「僕はテレビかよ」


「それはさておき……」


 電波監視官の美女は、何かとっておきの土産があるような素振りで、笑顔を見せてから言う。

 出会った時に感じた女神のような印象は、次第に薄れていった。


「ふーふふん! 本日は嬉しいお知らせがあります。放課後はいつもと違うテストをやるわ」


「放課後もやるんですか?」


「学業をおろそかにして訓練する訳にはいかないでしょ? この近くに怪電波が探知された地域があるの。はい、そこ! 怪電波とはなんですか?」


「え!? その、あー……脅威電波のことです」


「good! で、それが何なのか調査へ行きます」


「ジャマー……がいるってことですか?」


「それは調べてみないとわからないわ。それでぇー? 返事は?」


 これまでの逃げ腰で情けない自分とは違う。

 電波が見える僕だからこそ、できることがある。

 ジャマーや脅威電波、そしてMKウルトラ・イワト構想で、僕のように人生をねじ曲げられた人達を救う為に、腹をくくってジーメンスに入ったんだ。


 返事なんて決まっているじゃないか。


「行きます」


「よろしい!」


 陰鬱な未来から時空を超えて過去へやって来て、やり直しとなった僕の人生は普通じゃない日常となった。


 普通なんて考えてても前に進まない。


「宜しくお願いします。本城さ……本城監視官!」



・ー・・・ ー・ー ーー・

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