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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・3 ゆずれない明日を守り続ける
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68 普通を飛び越えた未来へ走り出す

 午前中の天気は意地悪で、雲が青空を覆い日差しを隠した。

 小雨が街の色を塗り替え、授業中も教室がジメジメと肌に張り付く感覚がして今一、勉強の内容が頭に入ってこない。


 何より昨日のジャマー誘導作戦で東京を走り回ったわけで、その疲労が今、ピークに来ている。

 眠気で意識が飛び飛びになり、授業内容が断片的にしか聞こえてこない。

 もはや集中できないと諦め、窓に広がる灰色の景色を眺めた。


 ――――そういえば、初めて遭遇した時も、こんな灰色の天気だったなぁ…………。


 昼、学校給食は物足りなさがあるものも、味もしっかりとして昼食には満足してる。

 午後からは音楽の授業。

 生徒達は次の科目が始まる前に教室を出て移動を始めた。


 にわか雨だったのか、雨雲はコップの水をうっかり溢しただけのように一時間だけ降って止んだ。

 梅雨時の気まぐれには本当にウンザリする。

 

 廊下で並んで歩く、親友の戸川は思い出したように話す。

 今の親友はこのネタに興味津々らしい。


「東京駅で起きた事件ってさ。やっぱり宇宙人の侵略なのかな?」


「違うね。アレは電波の怪獣が街で暴れて、総務省の極秘機関が戦ったから起きた事件だよ」


 僕が冗談めかして得意気に話すと、親友は冷めた顔で返してくる。


「は? 電波の怪獣? そうむぅー……お前、何言ってんの? 発想が幼稚過ぎるだろ」


「コイツ、言わせておけば~。お前、本気でムカつくな? 今朝のおカンチョーの恨みもあるから尻出せ。全部の間接が入るまで穴に指を突っ込んでやる!」


「待て待て!? 悪かった! 悪かったよ!!」


 僕が戸川の尻を追いかけるとコイツは廊下を逃げ回った。

 僕らがクラスの女子をかすめるように走り回るものだから「危ない!?」と、一括されたので、ただちに足を止めて二人で謝罪した。

 戸川は「お前が悪いんだぞ」とでも言うように腕で僕の身体をこずく。


 いや、何でだよ?


 スネ気味に明後日の方向を向いた先に白い影を見つけた。

 白い影は廊下の奥で、端から端をレールで横滑りするように消えていった。

 その残像を見た僕は慌てて追いかける。


 背後から戸川の呼び止める声が追いかけて来た。


「おいぃ! 万城目? 次の授業が始まるぞ!」


 角を曲がると白い影は廊下を再び曲がり消える。

 あの先は行き止まりだ。

 本来、廊下を走ることは禁止なのだが、高ぶった気持ちが両足を制御できず、上履きが床を鳴らした。


 追い詰めた!


 そこには無機質な白い壁があるだけだった。

 残念とばかりに脱力していたら、背後に風を切る気配を感じた。

 振り向くと白い残像を再び見つけたので、また廊下を走り出す。

 残像は廊下を横切り階段を登った。

 どんなに足を早めても白い影とは付かず離れずの距離を保っている。

 僕は階段をひたすら駆け上がり、白い影に巻かれないように努めた。


 最初に白い影に遭遇した時、この世に存在しない幽霊だと思い込んだ。


 それが同じ血の通った人間で、時におちゃらけて緊迫した場を和ませ、時に厳しく詰め寄られ、分け与えた慈愛と勇気が僕という存在を変えた。


 そして今は――――――――――――――――。


「本城さん!?」


 晴れた屋上に出ると、思っていた人物はいなかった。

 にわか雨で濡れた床はコンクリートに雨水が染み込み、群島のようなシミを描いていた。

 雨の香りはほんのり漂い鼻をくすぐる。

 空を見上げれば散り散りの雨雲を掻き分けて、日差しが差し込んでいた。

 日の光がフェンスに溜まる雨粒を貫通してダイヤのような輝きを放つ。


 初めての出会いも二回目の出会いも気まぐれだった。

 そのくせ姿は見せないのに、いつも見守っていると言い張る。


 世界が僕の期待に答えてくれないと知ると、きびすを返して校舎の中へ戻った。


 階段を下りて屋上と校舎を折り返す分岐点に差し掛かった――――――――――――すると。


「遅い! 尾行はもっと素早く空気のように追跡すること。お・わ・か・り?」


「ほ、本城さん!?」

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